第13話

「村上くんは、引っ越していないんだよね?」

「うん。恥ずかしながら、親に寄生している」

「まだ、20歳過ぎなんだから、気にしなくても・・・バイトはしてるんでしょ?」

「まあ、一応は・・・」


なんで、わかる。


「私も引っ越していないんだ。旦那は私の家にいるけどね」

「というと?」

「マスオさん状態」


なるほど・・・

って、感心するほどの事でもないか・・・


「だから、毎日君を見描けていたよ、君は私に気付いてないみたいだけど」

「気付いていない。ていうか、わからないし、声はかけない」

「らしいね」


世間話をしている場合ではないんだが・・・


「でね、先日ネットショップでこの本を見かけて・・・」

「うん」

「もしかしたらと思って調べたら、ビンゴだったんだ」


探偵ですか?


「で、この本、かなり評判がよくて・・・」

「意外だよ・・・正直・・・100部限定だったんだが・・・」

「でも、この本は君らしいと思ったよ、君の感性が活かされてる」


そういうものか・・・自分では、わからないが・・・


「で、ぜひ本人に、つまり君に会いたくなって探してたんだ」

「何のために?まさか、今更『友達です』なんて、厚かましい事言わないよね?」

「私は、仲良しと思っていたんだけどな・・・」


あの文化祭の時以来の、会話がない。

会話がないのに仲良しなんて、タレントとが『ファンの方とは仲良しです』というが、それ以下だ。


「文化祭の時に、君がデザインしたメイド服は、まだみんな持ってるよ」

いえ、捨てて下さい。

間違ってもきないで下さい。


あれは、妖精をイメージして、それらしく作った。

却下されると思っていたが、あの時ばかりは歓迎されていた。


感性が好きと思われているのは、このメイド服だろう・・・


「で、今日ようやく君に声をかける事ができて、こうして話をして嬉しいよ」

満面の笑みを浮かべるいちごちゃん。


「あのう、いちごちゃん・・・」

「何?」

「そろそろおいとましていい?」

「私の名前、思い出した?」

「・・・まだ」


帰さないわよと、眼で訴えてくる。



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