第8話
「で、私の名前は思い出せた?」
いちごちゃんは、期待に満ちた目で見つめてくる。
でも・・・
「ごめん。まだ・・・」
「そっか・・・」
いちごちゃんは、がっかりしたような、でも、安心もしているような、
複雑な表情を浮かべる。
「まあ、私と村上くんが、お話をしてのは、あの時だけだからね」
もしかしたら、あるかもしれない。
でも、その時話した女の子は、眼の前の女性とはあきらかに違う。
「まあ、仕方ないか・・・あの時とは私も、名前が違うからね」
「違う?」
「うん」
いちごちゃんは、頷いた。
「もう、ばらしてもいいと思うけど、私は16歳の時に一度結婚してるの」
驚いた。
法律上、女性は親の同意さえあれば、16歳で結婚できる。
でも、さすがに早すぎかと・・・
「高2の3学期の時に離婚して、一度旧姓の戻ってるんだ。
高校を卒業後に、今の旦那と結婚したから、今の君が覚えている私は、高3の一年間だけになるね」
当たり前のように、言わないでほしい。
でも、なら何の目的で、僕に声をかけてきた?
やはり、冷やかしか?
早い所、思い出してずらかろう。
「ところで・・・」
「何?村上くん」
「僕が女性に人気があったのは、ウソだよね?」
これは、明らかにウソだろう。
「本当だよ。但しそれは、君の感性」
「感性?」
「うん。みんな君の感性が、すごく好きだったんだ」
感性?
初恋はいつか消える。
鮮やかな色をしていた君も、やがてセピア色となり、
白黒となり、りんかくとなり・・・
そして、消える。
初恋でさえ、そうなのだ。
会話のなかった人物となると、よほどいい印象か、悪い印象がないと、消えない。
目の前の、いちごちゃんと名乗る女性とは、接点がない。
なので、名前が出てこなくても当然だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます