俳句21 兼題 山笑ふ




平成六年三月十日、句会に行ってまいりました。

参加者十一名、欠席投句一名の計十二名での参加となりました。

今回は席題はありませんでした。




護岸壁足掻くかわずの川流れ


近所の川端を散歩していたところ、コンクリートでほぼ垂直に護岸されている壁を必死になって登ろうとしている蛙を見つけました。当然ですが登れるはずがありません。やがて力尽きるように流されていく様を見て、自分自身に重ねてみました。

私はうつ病患者なのですが、病状が悪いときにはどんなに足掻いても出口は見つかりません。心は不安と恐怖で満たされ、ついジタバタしたくなるのですが、この蛙のように力を抜いて川に流されていくと、もしかしたら這い上がれる場所が見つかるのかもしれません。そんな思いをこの句に託しました。

1ポイントいただきました。





長瀞ながとろの汽車の一笛いってき山笑ふ


『山笑ふ』というのは、山の草木が一斉に芽吹いて明るくなる様子を表した春の季語です。また、長瀞とは埼玉県の秩父地方にある地名です。

長瀞には鉄道が通っていて、たまに蒸気機関車が走ってきます。その汽車が長瀞駅を出発する際、汽笛を鳴らします。毎年春に秩父を訪れていたので、その光景を切り取ってみました。

4ポイントいただきました。





霧雨を集めて梅の一滴ひとしずく


我が家の近所には梅の木が多いのですが、霧雨が降る中を散歩していると満開の梅の花から雫がポタリと落ちました。ほのかに漂ってくる梅の香りと相まって風情があるなぁと思い、詠んでみました。

2ポイントいただきました。





逝きし師の天で宴会山笑ふ


先月の句会の後、句会の新年会がありました。翌日先輩から電話があり、二次会が終わって帰る途中、先生が倒れてそのまま亡くなったとのことでした。

とても優しくて、ユーモアもあり、お酒が大好きな方でした。句会が終わるといつも呑みに連れて行ってくださいました。

きっと先生は天国でも宴会を開いて大好きなお酒をたらふく呑んでいるだろうと思い、この句を詠みました。

1ポイントいただきました。





師を偲び独り深酒春の宵


前句と同様、亡き先生を偲んで詠みました。

訃報を聞いた夜、先生と酒を酌み交わしているような感覚で、つい深酒をしてしまいました。酔いの中ふと我に帰ると一人でした。

1ポイントいただきました。

最後に、今回の句会で不思議なことがありました。

誰が出したかわからない句が一句紛れ込んでいたのです。

「きっと亡き先生が出したんですよ」と私が言うと、みなさんが納得したような顔をしていました。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る