聖橋 (ひじりばし)
一体もう何十年になるのでしょう
収集箱から空き缶を山ほど拾い集めるのは
一体もう何十年になるというのでしょう
このちっぽけな橋の下に暮らすのは
彼にはこの先の未来があるのでしょうか
そんなことを考えても答えなどありはしない
だから今日もコツコツと空き缶を拾う
あれは蝶々が舞う麗らかなある日のことでした
土手に黄色いタンポポがたくさん咲いていて
橋の下から魚を焼く煙が風に運ばれて
わたしの鼻とお腹を刺激したのです
行くあてのないわたしを察して
彼は黙ってこちらを見て手招き
涙があふれて言葉にならなくて
思わず黙って焼き魚にかぶりつく
何があったかなんてことには一切触れずに
手を伸ばし缶コーヒーをわたしに差し出して
「行くとこないならここにいれば」とただ一言
わたしを孫だと思ってくれたのでしょうか
「人生には色んなことがあるさ
どん底でも生きてればそれでいい」
焚き火を見つめてボソボソと呟いた
おじいさんのそっと微笑む横顔
それからというもの橋の下に暮らすわたしは
おじいさんを手伝いながら悩みを打ち明けて
それなら色々勉強するしかないと毎日図書館通い
わたしの心を癒してくれました
知識のないわたしに代わって
一生懸命本にかじりつき
そっと優しく愚かなわたしにも
仏の道分かるように教えてくれました
それは嵐のように突然現れました
若い男女が数人橋の下にやって来て
「お前に生きる価値はない」と石を投げつけ
おじいさんを殴り始めました
「おじいさん早く逃げてよ」と
止めに入ったわたしも殴られ
逃げる老人は若者に捕まって
集団に笑われながら殴られ続けました
やがて若者は去り橋の下にはおじいさんとわたし
そこにはグッタリと動かなくなったおじいさん
わたしは近所の助けを借りて救急車を呼んだけど
その時にはもうすでに手遅れでした
今でも心深く刻まれる
おじいさんの温かい言葉
そっと目を閉じ心に蘇る
あの人の素敵に微笑む偉大な横顔
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