女だけの地球

ぺんぺん草

第1話  たった一人の男

 話は今から5年前の2023年の5月5日に遡る。あの日、地球上から男という男が消えてしまうという謎の現象が発生した。未だに信じられないのだが、男だけがまるでドライアイスのようにフワっと消えてしまったのだ。ただ1人俺を残して。今やユーラシア大陸にも南北アメリカ大陸にも男は1人もいない。女は30億人以上いるのに、男は日本列島に俺ただ1人いるのみ。なんという人口のアンバランス!ハーレムどころの騒ぎじゃないのだ。


 なぜこのような恐ろしい現象が発生してしまったのか理由は未だ分からない。様々な分野の理系女子達が「宇宙人が地上の男全員をさらった」とか「男だけを蒸発させるウィルスが蔓延した」などの仮説を立てて議論しあったのだが、残念ながら原因を究明できなかった。


 地球から男が消滅したことによる影響は甚大なものだ。俺を含めて皆が家族を失ったわけだからその心の傷は大きい。夫を失った妻は呆然と立ちすくみ、父を失った娘達は嘆き悲しみ、子を失った母親たちは絶叫した。よって5月5日は悲劇の日として皆の記憶に刻まれている。


 地上にいた男達はいまどこにいるのか?生きているのか?それとも死んでいるのか?誰にも分からない。誰か教えてちょ。


 しかし女達はこの悲劇を乗り越えて、新たな世界を構築した。女の女による女のための世界。警察も自衛隊もプロレスも大工も屋台も全部女がやる。お笑い番組だって女芸人しか出ていない。どのチャンネルをつけてもガールズトークばかり。だって男はいないのだから。


 男がいなくなったことは女達の心と体に多大な変化をもたらした。あまり語りたくないのだが……彼女達の何割かは男性化しはじめたのだ。恥じらいというものがなくなり、夏に上半身裸なんて当たり前。ムダ毛の処理なんてやらなくなる。挙句の果てには髭を生やすというファッションすら流行する始末。さらには立ちションが最近のトレンドになってしまった。これらはなかなか壮絶な光景である。もしも消えてしまった男子諸君と連絡が可能ならば、この光景をまず彼らに届けたい。



 そして、こんな女だけの地球に1人取り残され、居場所を失った俺。もはや珍獣である。天然記念物である。そんな哀れな男に容赦なく次なる不幸が襲う。まずは『なんでアイドルの〇〇君じゃなくて、あんなショボイ男だけが残ったの?』というバッシングがネット上で吹き荒れた。


 そんな追い込まれた俺にさらなる追い打ちをかける『男達が消えた原因はアイツにあるのではないか?』といメチャクチャな疑惑。ディス・イズ・魔女狩り!しかし男は何故か俺だけが残されてるわけで、女達が疑念を持ってしまうのは無理からぬこと。お陰で犯罪の首謀者の如く扱われてしまったのだ。世界中の女達が俺を疑っている。


「あのショボ男が何か知ってるんじゃないか?」

「アイツが男失踪事件に関わってるんじゃないの?」

「FUCK!〇〇MAN!」



 このような状況では外に出るのは危険である。そこで大人しく部屋で自粛しているのだが全く安心できない。


 迂闊にテレビをつけようものなら大変だ。何しろ情報番組では連日のように「例の男が男失踪事件に関与している疑惑」でパネラー達が怒っている。チャンネルを変えて国会中継を見ても「例の男を証人喚問すべき」と野党議員が首相に激しく詰め寄っている始末。



 このように世の中に蔓延してしまった『残ったアイツが怪しい』という疑念。ある日ついにそれが爆発した。「あの男を逮捕せよ」というネット上の署名活動がはじまり、何故か日本人口を遥かに超える10億件もの署名が集まってしまい、ついに世論に負けた女警察が動きだし、俺を逮捕するに至る。もちろん何を追及されても俺は分からない。だって知らないんだもん。だがそんな態度に女達はさらに苛立ちを募らせるのであった。



「ほらアイツは嘘つきだ!やっぱり首謀者なのよ。罪は極刑でも償えないから」



 そんな異常な空気の中、裁判所で出された判決は何故か『死刑』。理不尽極まりない判決であるので控訴を求めたがアッサリ棄却されて判決は確定。もはや俺にできることは拘置所で念仏を唱えるだけ。


 だが……ここに至って世界の女達は俺への愛情に気づいてしまった。「アイツが死刑になれば、この世から男が全て消えてしまう。そんなのイヤ!」と。女達は立ち上がり、今度は政府に対して暴動を起こし俺を牢屋から出してしまった。



「アナタがいないなんて耐えられないわ!」

「君がいないと地球は女しかいなくなる!女だけなんて寂しい」

「人類が滅んじゃうのは嫌!アナタの子を産みたい!」


 

  拘置所の外には数十万という数の大群衆が待ち受けており、俺の姿を見るなり大歓声があがる。それが3年前の出来事であった……。


 この日から俺は世界のアイドル。地球上の女達はもう俺無しではいられなくなったのだ。自分の気持ちに気づいてしまった彼女たちの恋心はノンストップ。


 老いも若きも女というものは、俺から目を離せない。コンビニに買い物に行くだけで「全盛期のビートルズが来たのか」ってぐらいに大変なことになる。あっという間に数千人の女達にとり囲まれてサインを求められてしまうのが定番だ。


「アナタが噂の男子!サインをください」

「実物は想像以上に素敵です!アナタと結婚できたらどれだけ幸せかしら」

「きゃぁっ!なんて男性的なお方なのっ」



 車道まで溢れ出した大群衆が道を封鎖してしまうので、警察が介入しないと交通に支障をきたしてしまうだろう。しかし警察も誘導前に俺に握手とサインを求めてくるので道は封鎖されっぱなし。


 とにかく女たるもの、小学生も中学生も高校生も大学生も社会人も中年おばさんもお婆さんも俺が好き。困っちゃうぐらいに。


 俺がちょっと低い声で喋るだけで、女はメロメロ。

 うっかり俺の体に触ろうものなら気絶してしまう者もいる。


 俺の人気は日本だけに留まらない。アフリカ大陸、ユーラシア大陸はもちろん、太平洋を越えて南北アメリカ大陸でも熱烈なものとなってしまっている。どの家の壁にも俺のポスターが貼ってあるという。そしてポスターには必ずキスの跡があるという。


 そんな海外女子にとっての夢。それはいつか俺と会話することらしい。そんなささやかな目標のために8億人が日本語学校に入学しているというから驚きだ。ホンマかいな。


 このようにクレイジーな状況だから、バレンタインデーにもなればチョコレートが半端なく届く届く。今年は世界中から4億箱は我が家の方に届いたようだ。まるで地球中のチョコレートが俺の家を目指して集まってきた感じ。もう少しカカオ豆を有効利用して欲しい気もするけれど。


 とにかく30億の女性の愛情の対象になるというのは……なかなか精神的に重圧を感じるものだ。今年で二十歳の俺。こんなに激しく女達に愛される人生になるとは思わなかった……。


 俺だけが唯一にして絶対の異性。

 神が地球の女達のために残したただ一人の恋人。


 お陰で俺は過去のどんな男よりも女に激しく愛されている。

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