第61話 魔導王
(まずいっ!)
エリオットは斬られた右腕に対しすぐさま治癒魔法で止血を行う、が
「シネ……」
いつの間にか背後を影の魔物に取られていた
いや、違う……これは
(二体目だと!?)
出力できる最大限の魔力で障壁を展開し、攻撃を凌ぐ
周りにいる魔物はその攻撃に合わせるかのように同時に攻撃を開始した
ある魔物は燃え盛る炎を吐き、ある魔物は木々を腐らせるほどの猛毒をエリオットに浴びせようとする
他にも魔法を発動させようとしたり、そのままこちらに突っ込んでくる魔物もいた
「くっ!
本来であれば赤と白と黒、三っつの魔力を使い巨大な術式を作らなければならないのだがまたもや術式構築の段階を破棄して発動させる
エリオットを中心に大規模な爆発が起こり、近くの魔物を全て消し去らんとする勢いで周囲を飲み込む
襲いくる全ての脅威を消し去りながらだ
(ハァハァ……今の状態で使える最強の魔法だ。これなら……)
そう思ったのだが現実は甘くなかった
「くっ……!」
舞った砂埃が晴れるとそこには影の魔物が目の前に立っていた
どうやら二体目は倒すことができたようだ
だが、この魔物が腕を斬り飛ばしたときよりも遥かに魔力と威圧感が増しているのが分かる
「愚かだな、人間」
流暢に言葉を話すようになった影の魔物が背中から二つの腕を生やし、計四本の腕を剣に変える
顔の影が晴れていき、骸骨の顔が浮かび上がった
「我は死を迎えるたびに完全な生物へと近づく。ゆえに貴様のような下等生物では勝機はない」
「何度も死んでるくせによく言うじゃないか」
冷や汗が頬を伝う
(つまり、こいつは死ぬたびに馬鹿みたいに成長して蘇るってことか……うん、勝てないな)
エリオットは纏っている魔力を解除し、無防備な姿を晒す
「賢明な判断だ」
「何を勘違いしてるんだい? 僕は今から君を倒す」
指をさして堂々と宣言する
「何を馬鹿なことを……」
当然の反応だ
体はボロボロで魔力も半分も残ってない今、どうやって倒すんだ?と思っているはずだ
(
すると、エリオットの体内から魔力が溢れ出し、空気を大きく揺らす
「この魔力は一体?」
影の魔物すらもあまりに強大な魔力に一瞬、困惑が生じる
「僕たちの異能はあまりにも強すぎるから、たとえ本人の戦闘力が低くてもとんでもない強さになってしまうんだ」
「何を言って……」
「だからあえてこの力を制限し、鍛錬に励んで、現当主に認められるまでは異能封印をかけておかなくちゃいけないんだ」
エリオットの頭に機会的な音声が流れる
《異能封印の解除を確認》
「現在発動中の《詠唱破棄》《並列思考》以外の能力を起動します
起動完了。
次に現在の状況から必要な能力を限定獲得します。
肉体の破損を確認。《超速再生》を獲得しました。
魔力の減少を確認。《魔力覚醒》を獲得しました。
覚醒した魔力は魔法を発動する際の魔力を減少することが可能になります。
以上をもって《
現実時間にしてはわずかに一秒ほどしか経たない《魔導王》による能力獲得が終了する
それと同時に《魔力覚醒》《超速再生》、そして《思考加速》と《予測演算》を発動
切断された腕から新しい腕が生えていき、魔力が漲るのが分かる。それを見ていた影の魔物はさらに速度が上がった腕を四本同時に振るう
エリオットは襲いかかる腕を認識、動きを予測し、完璧な回避を行うことがそれでもギリギリだった
(思考を加速して時間を引き伸ばした上に予測演算で攻撃のルートを割り出したのに間一髪だったな)
「暴かせてもらう!!」
このままでは押し切られると思い、弱点を探すために《解析鑑定》で影の魔物を解析すると、衝撃的なことが分かった
(そういうことだったのか……)
この魔物は不死身でもなんでもなかった
コアらしきものが魔物の体内にあったのだ
では、なぜ灰にしても倒せなかったのか?理由はコアの性質にあった
「まさか、完全霊体とはね。道理で壊しきれないわけだ」
つまり、肉体を完全に破壊した上で、
エリオットは肉体を完全に破壊をすることは出来るがコアを完全に破壊するほどのダメージを与えることは出来ていなかったのだ
さらに厄介なことに完全霊体というのは霊体の上位種族であり、浄化魔法という霊体を浄化することに特化した魔法でしかまともなダメージを与えることができない
光の槍のときもダメージを与えはしたものの完全には破壊出来なかったというわけだ
「二つの存在を合わせ持つ魔物か……初めて見たよ」
影の魔物は攻撃が当たらないと判断すると、背中から無数の針を周囲の影に飛ばした
すると、這い出るようにして影の魔物が現れる
その姿は骸骨の顔を浮かび上がらせたこの魔物と瓜二つだ
違う点があるとしたら顔が影に覆われているぐらいだ
「人間にしてはよくやったほうだ。だが、それでも我を滅ぼすにはまだ足りない」
魔物たちはそれぞれ攻撃の準備を始め、主の指示を待っている
「……試してみるかい?」
(奴は僕を完全に舐めきっている。だったら今しかない!)
残り魔力の七割を頭の中で取り出すようにイメージする。《並列思考》のリソースを全て使い、取り出した七割の魔力をさらに七等分にした
そしてそれぞれの魔力を《赤》《青》《緑》《茶》《白》《黒》《灰》に変換開始
当然、この作業を行おうにしても《並列思考》だけでは無理があったのか頭が焼き切れるような痛みに襲われる。
(だったら《思考加速》も持っていけ!!)
加速された思考が元の速度に戻り、先ほどよりも世界が速く見える。そして残った三割の魔力で魔法を発動させようとするが
「まずいなっ……」
エリオットから溢れ出る魔力は紫色、つまり何の特徴もない無色と呼ばれる魔力になっていた
「焼き尽くせ!!」
構うものかと巨大な火球を複数出現させ、魔物たちにも向かって放つ
しかし
「馬鹿な真似を……」
影の魔物が大きな影の口をいくつも作り出すと全ての火球を喰らった
「威力が落ちているぞ……人間っ!!」
腕を剣に変えエリオットへと斬りかかる
《予測演算》を使い、軌道を読むことはできる
だが
「くっ……!」
体が追い付かずに無数の傷口が出来上がる
《超速再生》が発動するがそれでも間に合わない
このタイミングで魔力の変換が終了し、次のフェーズへと移行
出来上がった魔力を一つの魔力に融合する
本来、無色と虹色を除いた色持ちの魔力は術式を成立させるうえで二色以上の使うことはあれど、一つの魔力にしようものなら反発するという性質を持つ
それを無視して無理やり融合させればとんでもない反発エネルギーが生まれ、周囲もろとも吹き飛ばす。七色も使おうものなら、まずその反発する力により一つにするなんてことは絶対不可能だ
だが、エリオットは違った
異能に全ての処理を任せていた
《魔導王》だから成せる技といっていいだろう
何かを感じ取ったのか影の魔物は一斉攻撃の指示を出す
「ミラーバリア!!」
光属性魔法 ミラーバリア
無色でも正常に発動したことに安堵した
反射の性質をもつ障壁を展開し、魔物たちの攻撃をやりすごす
「その身を奈落へと誘い給え」
その際にできたエリオットの隙を突き、魔法を発動
黒い光が対象をぐるりと囲み、空間が歪む
「うぁぁぁ!!」
エリオットを肉塊にしようと重力が襲い掛かる
ミラーフォースが破壊され、一気に負荷がかかる
しかし、黒い檻の中で一瞬、ニヤッと口角が上がるのが見えた
発生したエネルギーの制御と、使用者の除外という最後のフェーズが完了したのだ。
ゆっくりと手を突き出し、魔法を発動
「僕の勝ちだ…
突如として天に巨大な魔方陣が浮かび上がり、範囲内にいる全ての意識がそちらに向かう
その刹那、魔方陣から光が放たれたかと思うと、辺りを真っ白に染め上げた
(純粋な魔力というのは霊体であろうと、肉や魔力の体であろうと平等に作用する。耐えれるものなら耐えてみろ…)
光が晴れ、次に目に映った光景は砂だった
何もかもが砂へと化し、砂漠へと姿を変えたのだった
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