第60話 影の支配者

「これで12体目か…」


カールと別れた後、僕は魔力の反応が固まっている場所に向かっては殲滅するというのを繰り返していた

だが、三回目の殲滅が終わったタイミングであることで僕の頭はいっぱいだった


(やっぱり妙だ…A級以上の魔物がわざわざ他種族と群れを成してするのはおかしい)


A級以上の魔物はたった一体でも普通の魔法師を蹴散らせるほどの強さを持っている。また、ほとんどのA級が自分たちの強さに自信があるため他種族との縄張り意識が強く、群れを成すとしても同じ種族とだけのはずだ


だから、こんな風になんていう組織じみた動きをするのはありえない。ましては他種族と組むというのはもってのほかだ


(ここで考えても仕方ないか)


エリオットは次のポイントを端末で確認して足を動かす


「そういやカールにテストをさせたときも変だったな」


初めて接敵したときは森鬼という魔物二体とキマイラという組み合わせだった

これも同じくA級のみで構成されていたはずだ。

異なる点があるとしたら


「あのときは三体で構成されていたな…何か法則性があるのか?」


疑問が疑問を呼んで頭が混乱しそうだ

キマイラがA級二体分の強さがあると魔物たちが判断していたのか?

それとも何者かに操られているか?

できれば後者であってほしいと僕は願うしかない


(人為的なものなら対処は簡単だけどそれ以外だと予想ができない…)


色々と考えてるうちに目的地へと到着した


「ようやく当たりか……」


魔物が集まっている場所から少し離れた場所で様子を窺っていたのだが、黒いモヤがかかったような魔物が周囲の魔物を統率しているように見える

どうやらこいつが魔物のリーダーみたいだ


まるで影が人の姿をしているのかと思えば、不気味に伸びた腕は地面に付くギリギリまで伸びている

身長は大体二メートルほど、痩せ細った体が猫背になっているのが特徴的だ


何よりも溢れ出るあの魔力


(明らかにレベルが違うな……)


静かにCAWに手を伸ばし魔法の準備に入る


(多少手荒にはなるがここら一帯を吹き飛ばせばすぐに済むだろう)


幸い、ここはクロニムル家の障壁からかなり離れた位置かつどの国の土地でもないから二次災害があったとしても問題はないだろう


何よりもアレとまともにやり合うのはエリオットの本能が危険だと叫んでいるのだ


「キーッ……カーッ……」


一方、リーダーは鳴き声のようなものを先ほどからあげている

声量自体は大きくないのだが、肌に妙な感触が伝わる


(これで魔物たちを集めている可能性が高いかな)


発動準備を済ませ攻撃の機会を窺っていたその時だった


「キシャァァァァ」


突然、背後からヘビの魔物が襲いかかってきたのだ


「なっ!?」


咄嗟にCAWの魔法ではなく、をして別の魔法を発動させる


「シッ!」


手刀を一閃

発生した風の刃が巨大なヘビの頭を切り落とす


一瞬の攻防だったが、魔物のリーダーがエリオットの存在に気づいた


「仕方ないっ!!!」


銃口を引き魔法を発動

リーダーを中心に光の線が浮かび上がり周囲の魔物ごと取り囲んでいく


そして


円を作ると同時に光の柱が天へと立ち昇る

やがて光の柱が消え、円に囲まれた場所は黒く分け焦げており、魔物の姿は灰へと化していた


この光景を見ていた魔物たちはここから逃げるように一気に走り出す

対してエリオットはすぐに追いかける気力は出ずに立ち止まっていた


(何やってるんだ僕は!)


あいつが魔物を集めているということはこちらに向かって魔物がやってくるということ

冷静になればそんなことすぐ分かるのに目の前の脅威から目を離せなかったのだ


周囲の警戒こそもっと慎重にやるべきだった

さっきのヘビの魔物は気配を消すことに特化したA級だったが僕なら見落とすことはなかったはずだ


(おかげで魔物を何体か残してしまった……)


CAWを持っていない手で拳の形を作り勢いよく自分の頬をぶった


「切り替えるんだ! 今は残った奴らの撃破が優先だ」


この場から去ろうと背中を向けたときだった


ゾクリと背中に悪寒が走る


(っ!?)


冷や汗が背中を伝い、久しく忘れていた感情が今蘇る

間違いない、これは「恐怖」だ

圧倒的な力をもつエリオットが恐怖を感じているのだ


恐る恐る振り返ると

そこには先ほどの魔法で完全に消滅したと思われた影の魔物が焼けた跡から這い出るように現れたのだ

先ほどと違う点があるとするならば


(強くなってるね…!)


魔力と威圧感がさっきと比べものにならないほど増しているのだ


「ワレハ…スベルモノ…」


「言葉を!?」


魔物の腕がわずかに動く、次の瞬間


いつの間にか伸びた腕がエリオットの常時展開している魔力障壁を横から殴っていた


(速いっ!)


この魔物から目を離さなかったはずだ

だが、腕がぶれたと思うとすでに攻撃されていた


魔物から距離を取るように離れるとエリオットはすぐさま障壁を再展開しつつ、魔力を体内に張り巡らせる


「流石にコレは邪魔になるかな…」


手に持つCAWを懐にしまうと、両手から光の玉を生み出す


魔物は周囲を走り回るエリオットに対し、その伸びた腕を振るい続ける

影の腕が木に触れたかと思うと真っ二つに切り裂かれる

紙を切るかのようにいとも容易くだ


(すごい切れ味だね)


光の玉を撃ちだす

魔物はそれすらも切断し、無力化した

そして


バリィン!!


割れるような音が響くとエリオットの肩から出血した


「くっ!」


障壁を再展開すると今度は巨大な火球、光の槍を複数出現させ、一気に突っ込む


「オロカ…」


魔物は腕を大剣のように変化させ、影をさらに濃くする

そして向かってくるエリオットに大剣を振り下ろす、が


「コレハ…」


大剣が地面から生える黒い手に捕まれ動きがわずかに止まる

その刹那


エリオットの用意していた魔法が全て直撃した

火球は影の体を燃やし、光の槍は燃えた体を貫く

傍から見ればやりすぎだと思われるだろうがエリオットは追撃をやめない


「風撃!!!」


両手に緑の魔力を巡らせ突き出し、竜巻を圧縮したものを二つ同時に叩き込んだ

その威力は体を粉々に吹き飛ばす

さらに


「裁きを!」


光の槍が強く輝き、辺りを照らした

この光はアンデッドや霊体といったものを倒すことのできる聖なる光だ


(超級の同時発動までしたんだ…S級だろうと耐えることはできないはずだ)


エリオットにはわかっていたのだ、こいつがS級相当の魔物だと

しばらく様子を見て、蘇らないか警戒を続ける

すると


周囲の影が集まり一か所に集まりだし、人の形を作り始めた


「流石にデタラメすぎないかい…」


エリオットが驚いた要因は復活したこともあるが何よりも、強くなっていたことが大きかった


そして


「…っ!?」


もはや認識することのできない速さで動いた影の剣はエリオットの腕を斬り飛ばした

それだけではない、キマイラや、森鬼はもちろんのこと、この任務で一度も見てないような魔物すらもこの場所へと集まっていたのだった

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