第59話 カールvsキマイラ

いち早く準備を済ませたカールは集合意点である森の入り口で待機していた


(A級の魔物か…実戦は少し緊張するな)


基本的に、特級異能者にはサポーターとして従者がいる

従者に選ばれた家系は一般の者よりも文武に優れ、

魔法も扱いこなせなければならない

そうでないと足を引っ張るだけだからだ


そのため、カールは幼少のころから英才教育を受けており、過酷な戦闘訓練も積んでいる


「お待たせ」


背後から主の声が振り返る


「待ちくたびれましたよ~」


「でも時間はぴったりだっただろう?」


「五分前行動しないと他の魔法師から嫌われますよ?」


エリオットが待ち合わせに到着したのは指定時間ちょうどだった

補足するとのずれもなかった


「そうだったのかい? 以後気を付けるよ」


魔物が出現するポイントを確認すると、二人で森の中を駆けていく

ふと、カールはエリオットの腰についてるハンドガンに目がいった


「それCAWですか? 珍しいですね」


「魔法学戦ではこれを使わないといけないらしいからね。練習しないと」


エリオットは魔導王オーバーロードがある限りCAWによる魔法のアシストを必要としないが、魔法学戦ではそれぞれの魔法師の技量をわかりやすくするために使うことが義務図けられている


「A級は練習台にちょうどいいんだ」


「そんなこと言えるのエリオット様ぐらいですよ」


「A級と戦うのは初めてかい?」


「一応、3年前に仮想シュミレーションで戦ったことはありますがギリギリでした」


「だったら…」


正面から3つの魔力を感知し、臨戦状態に入りながら開けた場所に出た

そこにはライオンの頭、山羊の胴体、ヘビの尾をもつ巨大な魔物の姿があり、

その周囲には鬼のような顔と巨大な二枚の羽をもつ、四足歩行の異形の怪物が取り巻きみたいにいた


「今のカールなら屁でもないさ! 取り巻きは僕がやる! 君がキマイラを倒すんだ!」


その掛け声とともにエリオットは前に飛び出していく

当然、魔物たちもこちらに気づいた


「ギャアアアアア!!!」


絶叫をあげながら二体の取り巻きが襲い掛かるが


「君たちは邪魔だ」


白銀に輝くCAWを手にすると、エリオットの周囲に小さな魔方陣が二つ現れた

そこから流れるように引き金を引くと、魔方陣から光線が発射され二体の取り巻きを同時に貫く


声をあげさせる間もなく絶命させる。

それを見ていたキマイラはエリオットに対して高熱の炎を吐き出した


「遅いね」


CAWはすでに防御魔法を発動させており、水の障壁が炎を遮った


「スイッチだ!」


エリオットがそう叫び、後ろに飛ぶと、入れ替わるように指輪のCAWをはめたカールが飛び出す


「食らいやがれ!」


発動準備を済ませていた大魔法を発動させると、キマイラの頭上に巨大な岩石が出現し落下する


「ギャオオオオオ!!!」


キマイラが咆哮をあげるとキマイラを囲むようにして魔力の障壁が展開される


「そんなのありかよ!」


岩石は障壁を破壊することはできずにそのまま粉々に砕かれた


(くっ、わかってはいたがそう簡単にはいかないな!)


後ろをチラッとみるとエリオットは腕組みをしながら手を振っていた


(助けはなさそうだな)


次の魔法を発動させるために一度距離を取ろうとするが

無慈悲に目の前の獅子は炎を吐き出す


「あちぃな!」


簡易的な障壁を展開させ、炎から身を守るが熱を完全にシャットダウンできずに肌を焼かれた

その代わりに先ほど発動させようとしていた魔法を行使する


「吹き飛べっ!!!」


風の奔流が大地を削りながらキマイラへと迫る


(障壁を展開される前に攻撃を当てる!)


カールの思惑は見事に刺さり、障壁を展開するような素振りは一切なかった

しかし、キマイラの尾が動く

ヘビの口から緑のブレスが風の奔流を相殺した


これには思わずカールも後方へ飛びのいた


「おいおい…まさかここまで強いとは思わなかったぜ」


「手助けいるかい?」


エリオットがこちらに助けの手を差し伸べようとする

フッと軽く笑いカールは話す


「俺一人で充分ですよ」


カールを勝機を探るために分析を開始する


(まずは炎とヘビのブレスだ。あれがある限り近距離と中距離は手が出せない)


キマイラはカールに突進するがそれを回避し、さらに距離を取る


(遠距離から攻撃するにしても障壁で防御されるうえにさっきみたいに突進で詰められる)


炎とブレスで攻撃をしてくるが距離を取ってる上に今は回避と防御に専念すればいいだけなので対処は用意だ


「とれる選択肢は一つだけか…」


意を決し、自らに最低限の防御魔法をかけるとキマイラの炎とブレスの後隙を狙う

懐に潜り込んだは良いもののヘビの頭が間近にまで迫っており、緑の風のようなものが口かこぼれているのが見えた


(再攻撃までの猶予が思ったよりも短かったか!)


ブレスにカールは飲み込まれる

防御魔法をかけていたにも関わらず、その毒がカールを侵食する


(動きが…鈍…くっ!)


全身がマヒし、力が抜けていく

それでもかまわず手を伸ばす


「捕まえたぜ…」


なんとか伸ばした手をキマイラの横腹に触れると同時にCAWを起動

触れた場所を中心にねじれ始めると大穴を作り出した

キマイラの反対側の景色が見えるほどに


「ギャッッ……」


その鳴き声を最後にキマイラはゆっくりと倒れた


「へへっ、余裕だったぜ…」


キマイラの毒が残っているのかその場にしりもちをつく


「お疲れ。とりあえず解毒魔法だけかけるね」


体から毒が抜け、軽くなったのを感じる


「防御魔法、甘かったね」


「一応、防御魔法をかけてましたが物理に特化させていました…」


「油断大敵だよ。ただ、発想自体は良かった」


キマイラの攻撃自体を目くらましに利用し、近づいて一気に仕留めるのは得策だ

カールの場合、炎とブレスの攻撃の後ならばその二つはもう来ないと判断したのがよくなかった


エリオットは端末を確認し、遠方の魔力反応を確認する


「僕は固まっているとこを叩くから、カールは孤立している敵を頼む」


「キマイラ相手にここまで苦労した俺を信頼して大丈夫ですか?」


自嘲気味に笑う


「キマイラに一人で勝てる魔法師を信頼できないほど人間不信じゃないよ」


「テストしてたっことっすか」


(キマイラはA級の中では最強クラスだからね。苦戦はしたものの致命的なダメージは負っていない)


「何かあればすぐ連絡、無理だと思ったら即撤退。いいね?」


「了解」


そのまま二人は別れると森の中へ消えていった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る