第58話 特級異能者は忙しい
特級異能者
それは人類の利益となる異能を代々継承させてきた人物たちのことを指す。様々な特権が与えられており、現代の貴族といっても過言ではない。
現在は4つの家系が特級異能者として認められている
その地位を得る手段としては各国の代表者の許可と強力な権力を手に入れても欲に溺れないような人間性が必要だ。
――
木々が生い茂る場所をシミュレートした訓練場内で少年2人が向かい合っていた
「焼き尽くせ」
黄金の髪と青色の瞳を持つ美少年の周囲に炎が立ち昇り竜の姿に形を変える
「ちょっ!? エリオット様!?」
炎を操る少年と相対している茶髪のチャラそうな少年が焦りの声をあげた
「はぁっ!」
チャラそうな少年の頭上から炎の竜が飲み込んだ。炎が敵を灰にする勢いで燃え上がる
しかし
「今殺す気でしたよね!?」
灰になったと思われた少年が炎が消えたと同時に大声をあげる
「でもカールは耐えたじゃないか?」
「たまたまですって」
「それにしてもまた腕を上げたね? おかげでちょっと本気を出すことになった」
「それほどでも〜」
恥ずかしさを隠すように頭を掻く
「やっぱエリオット様の《
「かもしれないね」
鍛錬の片付けをし、エリオットとカールは訓練所を出ると昼下がりの光が降り注ぐ。廊下を歩き、目の前に建てられた豪邸に足を向ける
「僕の異能は魔力の色が虹色でないと発動すら出来ないけど面白いことに僕の家系は虹色の魔力持ちしか生まれてこないからね」
「それが特級異能者として認められた理由、ですよね?」
魔力の色は親の影響を受けることもあるが基本的にはほぼ運任せだ。たとえ両親が2人とも虹色でもその子どもが100%虹色になるわけではない
しかしエリオットの先祖が代々継承させている《魔導王》は発動条件に虹色であることが求められるため、この異能自体が生まれてくる子の魔力を虹色に固定する
最強の魔力色であり無限の可能性を持つ貴重な虹色の魔力持ちを安定して生み出すことができるという点が人類にとって利益になると各国の代表者に判断されたらしい
「流石にそれだけじゃないと思うけどね」
仲良く話してるうちに豪邸の入り口へと到着する
「おかえりなさいませ エリオット様、カール様」
ドアを開けるとメイドが玄関に置いてある花の水換えをしている最中だった
「ただいま、父さんはいるかい?」
「先ほどお戻りになられました」
父さんが帰ってきてるとしたら2階の執務室だ。メイドに礼を言うと僕たちを執務室へと向かった。
コンコン、とノックをし返事を待つ
「入れ」
「では、失礼しまーす」
カールはまるで自分の部屋に入るかのようにドアを勢いよく開いたので、僕も遅れて部屋に入る。
殺風景な執務室では冷徹な雰囲気を纏わせた男性が書類を片手に忙しそうにしていた。僕たちが入ってきたにも関わらず全く無反応だ。
「それで、父さん。僕たちを呼んだ要件は?」
僕が口を開くと父さんの手がピタッと止まり、こちらちに目を向けた
「すまない、ちょっと集中しすぎた」
先ほどまでの仕事モードから一変、真逆の雰囲気を纏わせた。エリオットと同じ黄金の髪と青の瞳を持つこの紳士そうな男性こそがエリオットの父だ。
「どうやらこの国の結界付近で魔物たちが奇妙な動きをしているようだ。その中にはA
(ふーむ……なるほどね)
「父さんから《今から家に戻るから話がある》ってメールが来た時点で何となく察してたよ」
多忙であるエリオットの父がわざわざ家に戻ってエリオットに直接伝えるような内容。
それは……
「普通の魔法師じゃ死傷者が出る可能性が高いからお前が倒してこいってことですか?」
「そうなるな。それに次期当主として魔物たち相手に経験を積んで欲しいのも理由の一つだ」
「ふふ、ご冗談を。理不尽な命令にも慣れろってことですよね?」
「どうだろうな」
特級異能者はそれぞれ役割が割り振られているのだがエリオットの家系の場合は討伐困難な魔物の討伐がメインになる
「カール君、もし君さえよければエリオットの手伝いをしてくれないか?」
「俺がですか!?」
「私から見ても君はかなりの実力者だ。そうだろう?」
面白そうな笑みを浮かべてエリオットに問う
「流石ですね、父さん。確かにカールなら背中を安心して預けられます」
「もちろん報酬をはずむぞ」
(やっぱ特級異能者って怖ぇぇぇ)
全く逃す気のない2人のオーラに恐怖してしまった
「最初っからそういう魂胆だったんじゃないですかエリオット様……」
「君も一度は死地を体験したほうがいいと思うんだ」
「エリオット様との手合わせで充分してますよ!
はぁ……どうせ何を言っても無駄なので大人しく受けますよ!」
魔物の討伐というのは本来、低ランクの魔物でも命の危険がつきまとうものだ。面倒臭がりのカールにはもってのほかだ。
「決まりだな。早速だが今すぐ準備をして出発してほしい。日が沈む前に片付けたい」
「「はっ!」」
エリオットとカールは敬礼をし、執務室を出ると集合時間と場所を決めそれぞれの準備へと向かった
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