第57話 因果の巫女
「ここは一体なんなんだ……?」
足を踏み入れると先ほどまでとは雰囲気が一気に変わった。だが内装自体は現実と何ら変わりのないものだ。
現実と決定的に違う点として魔力ではなく魔力の素である魔素いわゆるマナが満ち溢れているということだ。
(俺の推測では《世界創生》で作り出した世界に俺たちを誘拐したのだと思ったんだが)
「創り出された世界にしちゃ少しマナが多すぎる」
「ここは我が
アインズは俺の疑問に答えると奥へと進んでいき、角に突き当たったあたりでアインズは足を止めた。
「お待たせしました」
「遅かったわね」
「勝手ながらお二方の力の程を試させていただきました」
「そう」
アインズが跪いたその人物は綺麗な銀髪を腰まで伸ばし黄金の瞳を持つこの世の者とは思えないほどの美しい女性だった。座っているだけでも絵になるレベルだ。
白のロングドレスというシンプルな服装がさらにこの女性の美しさを後押ししてるように感じた
「綺麗……」
カグヤの口から自然と言葉が漏れる
「ありがとうねカグヤちゃん。それと力尽くで招待してごめんなさいね、
(何だこの違和感は?)
「色々と聞きたそうな顔をしてるからとりあえず自己紹介をするわね。私が《因果の巫女》アリシアよ」
簡単な自己紹介を終えると席に着くよう俺たちを促す
「さて、聞きたいことがありそうだし答えられる範囲で全部答えてあげる」
(因果の巫女……剣聖と同じように世界に干渉する力を持つ存在と云われているが実際のところその存在を目にした者はなく神話のものだと伝えられてきた。俺も名前だけは聞いたことがあるがそれほど興味は湧かなかった)
「単刀直入に言おう、俺たちを誘拐した目的はなんだ?」
「誘拐なんて人聞きの悪いわね。……貴方たちを呼んだ理由はこれから起こるであろう災厄について知って欲しかったからよ」
(災厄だと?)
「確かノアシップだったかしら? あの方たちから何か聞かされませんでした?」
「ああ、確かセントラルで会おうみたいなことを言っていた気がする。まさか、あんたと繋がりがあるとは思わなかったがな」
「あの方たちのボスには託宣をすでに与えていますからね。それと色々と誤解されるようなことをしていますがノアシップはこの世界の秩序を真の意味で守るための組織ですよ」
「何だと!?」
あまりの爆弾発言に感情の制御が上手く出来ずについカッとなってしまった
「国際テロ組織が本当は世界の秩序を守るための存在とは笑わせる」
「確かにやりすぎな部分はありますが今回はファインプレーだったんですよ」
アリシアはティーカップに入った紅茶で喉を潤すと言葉を続ける
「災厄が起こるというのはこちらで確認できたのですが具体的な日時や場所を確定までは出来ませんでした。ですがノアシップの働きによって発生の日時や場所をほぼ確定できました」
「それが魔法学戦と関係があるということか?」
「その通りです。災厄が起きるのは魔法学戦の期間中のどこかで必ず起きます。そしてこれを乗り越えるために必要なピースが《剣聖》《ノアシップ》そして《神殺し》の3つです。ですので貴方とノアシップが争った際は少し因果の方を操作して致命的なダメージが出る前に戦闘を終了させました」
魔法学戦は三日間にわたって行われる。ただ、アリシアの情報だけでは三日間の内のどこで発生するかはわからない。
しかし
(なるほど、そういうことだったのか)
確かにそれならあの偶然の連続にも説明がつく。
「ちなみにその災厄の内容はわかるか?」
「一つは悪しき神の復活、もう一つは復活する神によって起きる魔物の《共鳴》です」
(悪神竜の時と似ているな)
「その災厄は未然に防ぐことはできないのか?」
「私の力を持ってしてもその可能性を確実に消すことはできませんでした」
どうやら因果の巫女とも呼ばれているほどの存在でも出来ることと出来ないことがあるようだ
「俺は因果の巫女というのは名前でしか聞いたことがない。どういった存在でどんな力を所有しているか答えてくれるか?」
「アルスさんそれは流石に……」
あまりにもぶっきらぼうな聞き方にカグヤが慌てた様子を見せた
(世界の因果を操作するほどの力を持つ相手にこんな話し方をするのはまずいというのは理解している。だが……)
アリシアの目を真っ直ぐと見つめる
「構いませんよ。そのためにこんな場所を利用したのですから」
そう答えたアリシアにカグヤは胸を撫で下ろした。どうやら今ので警戒が解けたようなので良かった
「まずは因果を操作する力、いわば世界をある程度自分の思い通りにできます。その副次的な力として過去、現在、そして未来を覗くことができます。ただし未来に関してはいつになるかはわからないけど絶対に発生する未来しか見通せません」
「因果を操作する力はともかく過去視、千里眼、未来予知も可能とは化け物としか言いようがないな」
「お褒めに預かり光栄です」
嬉しそうにアリシアは言葉を返した
「そのほかにも世界の狭間を渡る力や狭間に人や物を召喚する力、そして私の加護を与えることができます。現にこの場所は現実の世界の狭間の一部分になります」
なるほどな、と俺は心の中で納得する
(アリシアが言っていることが真実ならアリシアの持つ力はほぼ神に近いといっても過言ではない)
「狭間を渡れば一瞬で目的地に着くことも可能だし身の危険を感じたら狭間に逃げればいい、ここだけマナが濃いのはアリシアが自分の縄張りだと強く定義しているからか?」
「ふふ、お見事です」
「ア、アルスさん……?」
(神話の時代を知らないカグヤからしたら理解できない存在だろうな)
カグヤの恐怖を少しでも取り除けるよう頭を撫でる
「心配するな。俺がついてる」
「あとはどういった存在という質問でしたか? ちょっと難しいですが簡単に言うなら与える側でしょうか?」
「それは世界が剣聖に様々な力を与えるのと同じ、ということか?」
「理解が早くて助かります。ああ、それと私たちのことは他言無用お願いしますね?
「わかっている……。最後に探してほしい人物がいるのだが構わないか?」
「いいですよ。ではそのお方のことを想像しながら精神を集中させてください」
アリシアは自分の額と俺の額をくっつけると魔力を集中させる
「これは……なるほど」
「何かわかったのか?」
俺から顔を離すとアリシアは腕を組み少し考えるようなしぐさを見せる
「結論から言いますとこの方には強力なフィルターがかかっていて私の力でも探すのは不可能です」
「そうか……ありがとうな」
「いえいえ! これぐらいのことなら全然大丈夫ですよ! 私も二つお願いがあるのですが良いですか?」
俺にできることなんてあまり思いつかないが一応聞いてみることにした
「俺のできる範囲ならな」
「一つは災厄が起きた時にはこれに対処すること。その際はノアシップとも協力するのを厭わないこと。約束できますか?」
「約束しよう。というよりか恐らくそうなったら動かざるを得ないからな」
「ありがとうございます! そして二つ目なんですけど……」
アリシアは少し恥じらいを見せつつ上目遣いでこちらを見つめてきた
「あなたとの子どもが欲しいです!」
「「い、いきなりなんてことを言い出すんですか!?」」
カグヤとアインズが綺麗に重なった
「理由は? 一応あるんだろ?」
「あなたが私と同じだから、同じ、神に等しい力を持つ者だからです。私もいずれ子を残さなければなりません。ですが私と同等以上の力を持つ者でないとこの力が弱まる可能性があります」
(世界の秩序を守る存在として弱体化するのは避けたいってことか)
「もちろんそれ以外にも理由はありますがまだ秘密ということで」
「さっき記憶を見たから答えは分かるだろ? それはできない」
「ふふ、どうやらバレてたようですね……」
「だから確約はできない」
俺の言葉を聞いて悲しそうな顔が一変した
「ということは……!?」
「目的を果たしたら考えてやるよ」
面倒な約束をしてしまった思う反面、心の底でアリシアと自分に重なる部分があったからこそ無下に出来なかったのかは今の俺には分からなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます