第55話 白昼の勝利
「来てみたは良いものの結構追い詰められてるじゃねぇか」
そう言うとヴェインとカグヤは俺の元へと駆け寄ってきた
「想定外の強さだっただけだ……それよりも」
俺はそう言うと隣の少女に視線を移す
「なぜカグヤがここにいるんだ?」
俺の予想では《黒鉄》辺りの魔法師が来ると思っていた。しかし救援に来たのはヴェインとカグヤだ。ヴェインはまだ納得できる。しかし、カグヤでは荷が重すぎる
「おーっと! それについてはまた後でな、今はあいつらだ」
陣形を整え直したグラサンとオッタルが構えたまま無言でこちらの様子を伺っている。恐らく魔法の念話で何かしらの作戦会議でもしてるのであろう。
「サングラスの男は俺とヴェイン、大男はカグヤが相手をしてくれ」
「俺とお前が相手をする必要があるってことは相当な実力者ということか?」
「察しがいいな。カグヤ、頼めるか」
「お任せを!!」
ここまで黙っていたカグヤが元気にそう答えると大鎌を得意げに構えた
(あの大男の厄介なところは怪力と異能だ、これさえ抑えれば奴は大して脅威ではない)
だからといってカグヤがその二つの問題点をクリアできるかはまた別の話だ
「ふぅ……やるだけやってみるか」
(……なぜだ?)
一方、グラサンはひたすら異能を発動させようとしていたが上手くいかなかったのだ
(あの二人まだ飛ばせないか?)
(なぜか奴らの座標を読み取れない)
(結界は発動しているんだろ? 何で出来ないんだよ)
グラサンが戦闘前に発動させた領域結界というのは世界創生魔法の一歩手前の段階、範囲内の全情報を読み取る状態だ。もちろんこの状態を維持するのは普通に発動させるよりも難易度が高く神業に等しい。グラサンの天才的な魔法センスと魔眼の力があって成り立つ技術だ。
この領域結界の一番厄介なところは発動者以外に全情報を読み取っているということを認識できないという点だ。術者が読み取っているだけなので第三者が感知するのはほぼ不可能。これにより何の予備動作もなくグラサンは敵味方の座標を読み取りつつ異能で転移させるというのが成立していた。
(領域結界は維持できている、だとすると)
目にを凝らし力を集中させる。すると、強烈な勢いで情報が飛び込んできた
「がっ……! そういうことかよ……」
あまりの勢いに思わず声を漏らすが成果はあった
(聖騎士の加護だ! ヴェインとあの女には聖騎士の加護が宿っている。しかもかなり強力なものだ!)
(面白いじゃねぇか)
(あれが奴らの全情報を上書きしている、転移できないな)
本来の力を使えば読み取ることはできるかもしれないが今この場でお披露目するのは割りに合わない。
(俺の推測だが、女はお前に残りの奴らは俺に来るだろうな)
(舐められてるじゃねぇかよぉ! グラサン!アルス以外は殺してもいいんだよなぁ!!!)
あの二人が現れてからアルスの目覚めかけていた力はさも無かったかのように消えていた。
(構わん。どうやらアルスからも先ほど感じた恐ろしい力は今は感じないし、叩くなら今だな)
互いに牽制しつつ魔法の発動準備を済ます。
「行きます!!」
最初に切り出したのはカグヤだ。
オッタル目掛けて大鎌を袈裟懸けのように振るう。
「甘い!」
腕に気を纏い、そのまま受け止めた。
それと同時にヴェインはグラサン目掛けて飛び出す。
グラサンは地面を爆発させるように蹴り、後方へ飛ぶ。
(クッソ! 微妙に届かねぇ!!)
ヴェインの大剣はギリギリ、グラサンに届かない位置で空を切ることになる。
グラサンはそのまま飛んだ際の勢いを殺さないように体を回転させ、大剣を振り切って隙のできたヴェインへと回し蹴りを放つ。
しかし放たれた蹴りがヴェインへと命中する前にグラサンは姿を消す。その直後!
グラサンが立っていた位置に上空から光が走ると同時に爆裂音か鳴る。地面は暗く焦げており小さなクレーターもできている
「威力に特化させヴェインが被弾しない絶妙な範囲設定で死角である上空から雷魔法として放つ。見事だ」
転移したヴェインが遠くから拍手をしているのが見える
「やはりダメか……」
「確かにありゃあ少し厄介だな」
(どれだけ追い詰めたとしても転移で逃げ続けるようなことになればジリ貧だ。ヴェインの魔法と加護で多少は動かせるが絶技を使えるほどまで回復していない)
「戦って勝てそうか?」
「このレプリカじゃ正直わからねぇ。聖剣があれば話は別だが教会に返しちまったしな」
アルスとヴェインが次の作戦を考えようとした次の瞬間! ヴェインの側面へと転移したグラサンがジャブの構えをとっていた
咄嗟に大剣で受け止めようとするが予想した衝撃が襲うことはなかった。しかし!
「ぬぅ……!」
右フックが横腹へとめり込んでいた
すぐさまアルスは持っていた神器をグラサンの腕目掛けて振り下ろすがまたしても消えた
(側面へと転移すると同時に構えを見せることで反射的にガードするように誘導し、そこから一歩大きく踏み込んでガードの空いた横から攻撃を入れたのか!)
あの場面なら回避は絶対に間に合わないと普通なら判断するだろう。ヴェインの対応は間違っていないはずだ。そもそも通常の戦闘ならあの距離まで近づいた時点でヴェインの有利距離だ。
(やはり予想不可能な転移は強力すぎる! 既存の戦略では対応できない部分が出てくる!)
「早いなおい……」
「ヴェイン無事か!?」
「……ったりめーだ!」
「ほぉ……急所を外されたか」
面白くなさそうにグラサンは呟く。
(さてどうやってあの転移を崩すか)
アルスが頭を悩ませていると
ドゴーン!という音とともにオッタルの体が吹き飛んでくる
その方向から大鎌を持ったカグヤがゆっくりとこちらへと歩いてくる
「知っていますか? 大鎌というのは武器として使うには隙があまりにも大きすぎます。ですので体術でその穴埋めをしなければなりません。何の芸もない力任せなあなたの攻撃では私には届きませんよ?」
「小娘がぁぁ!!!」
起き上がると同時にカグヤに飛びかかるが
「ふふっ甘いです」
隙間を縫うように避け、大鎌を下から半回転させるとオッタルの背中から血が飛び出す
「あの筋肉バカ……」
グラサンは頭を痛そうに呟くとカグヤへと歩み寄る
「させねぇよ」
アルスの足元からグラサンに伸びるように地面が凍りつきはじめた。そのタイミングでグラサンとの距離を詰め神器を一閃。
カグヤに追撃をするのをやめたのかオッタルの肉体だけを転移させる。どうやら出血は気で止めていたようだ。
「異能はどうしたんだよ?」
「それが全く発動しないんだ……」
(妙だな。奴らが来た途端ここまで俺とオッタルの異能が機能しないなんて……まさかあの小娘の仕業か?)
「
「おう!ってなんでだよ!? ここから面白くなるんじゃねえのか!?」
「ただの、
聖騎士の加護で魔法陣丸ごと強化していたのだ。これではたとえ術式を読み取っても無効化するのに力技が必要になってくる。そうなればこいつ一人で三人を相手にしなければならなくなる
「さて魔法師諸君、今回は君たちの勝ちだ。またセントラルで会おうではないか」
別れの言葉を告げるとアルスたち以外の魔法師の気配が一瞬で消えた
「勝てたのか……?」
気が緩んで倒れそうになるがグッとこらえる
「セントラルだとっ!?」
しかしオッタルとカグヤは勝利したにも関わらず顔が暗かった
「おい、セントラルってなんなんだ?」
名前だけは何回か聞いたことがある。人間の領地であるがどの国の領地でもない、いわば中立地だ。
「アルスさん。セントラルは魔法学戦の開催地なんですよ」
「はい?」
衝撃の事実を聞かされるとともに後に襲いかかるであろう災難を想像すると頭が痛くなってきたのだった
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