第54話 限界

太陽が燦々と輝く真っ昼間、その光を遮る山の中で二つの影がぶつかり合っていた


「おらおら!」


大男が口から血を流している剣士に対してひたすら距離を詰め、自身が持つ大きな拳をひたすら打ち込んでいた。しかし、すんでのところで回避をされたり、見事に受け流されたりと、決定打にはならないでいた


「水刃っ!」


時折、アルスから中級程度の攻撃魔法が放たれるがオッタルは避ける素振りを全く見せていないため直撃している。しかし、それがどうした?と言わんばかりに攻撃を続けていた


「無駄な足掻きを……」


二人がぶつかり合っている場所から少し離れた場所ではグラサンがいくつも炎の塊を作り出していた


「散れっ!!!」


合図と同時に炎の塊がアルスの背後に向かって打ち出される。それをなんとか視認し、アルスはすぐさま対抗魔法を発動する


「ちっ、魔力分散!」


空いた手に魔法陣が浮かび、向かってくる炎の球へと手を向けると炎の勢いが消えていき、次第に消滅する。しかし、背後に一瞬を気を取られたことで正面のオッタルへの注意が削がれてしまう。そして、この隙を見逃すような男でもなかった


「もらったぁ!!!」


先ほどよりも深く踏み込んで放たれたその一撃をアルスは刀身の腹の部分で強引に受け止めるが勢いを相殺できずに勢いよく後方へと吹き飛ばされてしまう。幸い、すぐに体勢を立て直すことができたため致命的な隙を見せるようなことにはならなかった


「……大地の鉄槌ギガントロック


すぐさま持っている神器を媒介にし魔法が発動させると、オッタルの足元から岩石のようなものが隆起する。しかしそれが命中することはなく、やはり先ほどとは全く違うの場所へと移動していた


「とんでもないなこの魔法」


地面から突き出された巨大な岩石の剣を見上げながらグラサンが笑みを浮かべている


「なに余計なことしてんだよ? 別に助けてもらう必要はなかったぞ?」


「流石にこれを直接受けるのはまずい。術式情報から一撃に特化したものであるということはわれてんだから」


(術式情報だと? なるほど、そういうことか)


「お前、魔眼持ちか?」


「やっと気づいたか。その通りだぜ、今になってなんでわかったんだ?」


アルスは神器を媒介にして魔法を発動させているため、術式情報を見抜くのは困難だ。神器の魔力情報も一緒に読み取ってしまうからだ


(奴が魔力を使っているのは転移と攻撃魔法の時だけだ。すると異能の線は自然と消える、残るのは体質的な能力になるが)


「これみよがしにサングラスをかけられてるのを見せられたら普通そう思うだろう」


「お、そうかいそうかい。じゃあこっちからも一ついいかい?」


アルスは頷くことなく刀を構え攻撃へと備える


「お前さん、本当はもう戦えないんじゃないのか?」


「っ!?」


なぜグラサンがこんなことを言い出したのかはわからない。だが、その言葉は真実であった


「無理矢理に構えや呼吸と筋肉の動かし方を調整して、なんとか動けているようにしているのはバレバレなんだよ。さっきからちょこまか避けるか受け流すかの二択でしかない。自分からは極力攻撃はせず、魔法による遠距離攻撃でしか対応してない。正直言って……」


グラサンが両手を叩くとオッタルが眼前へと唐突に現れた


「見苦しいぞ」


オッタルは先ほどまでの力技とは違い、手のひらを突き出してきた。当然、刀で受け止めようとするが


「こ……れはっ……!」


触れた瞬間、自身が大きく揺さぶれたような感覚に陥い平衡感覚が乱される


(振動魔法か……!?)


「ネメシス・インパクト」


すかさずそう呟きこちらに手を突き出すと、最初に受けた攻撃よりかは遥かに軽いが見えない何かに腹を殴られ、ろくに受け身を取ることもできずに地面を転がっていく


「最初の一撃でアバラが折れているのは分かってる。んで今の一撃で折れた骨が臓器へと刺さり、出血をする。安心しろ、死ぬギリギリで特製の回復薬で延命させてやるから」


(このままだとまずいっ……!)


意識を手放さないとようにするが出血の量が多かったのか、だんだんと意識が薄れていく。口からは勢いよく血を吐き出し、なんとか空気の通り道を作ろうとしているのが嫌でもわかる


(あのオッタルとかいうやつの不可視の一撃とグラサン野郎との転移の連携、今のままだと勝てる気がしないな…)


自分の持っている神器を強く握りしめる


「まだやるつもりなのか……こんなとこで無理して命を落とすのは馬鹿馬鹿しいぞ?」


グラサンはゆっくりと倒れている俺へと近寄る


「お前は俺ら二人によくやった……けどなどうしても越えられない壁ってのはあるんだよ。だから今は負けとけって」


そう言いつつ俺の体に手を伸ばす


(クソッ……もうあれを使うしかないのか)


アルスに眠る暴竜王の力、それは強力だがあの悪神竜との戦い以降、使用する度に凄まじい反動が襲うようになった。今ここでそれを使えばこの状況を打破できるかもしれない。


しかし、そうならなかった場合万に一つもアルスが勝つ可能性はない


「ふっ……今になってそんなことにビビるなんて俺らしくねぇな……」


最後の力を振り絞りもう一つの魔力を全力で解放させると赤黒い大量の魔力がアルスから垂れ流しの状態になる


「っ……!!」


それを見たグラサンはすぐさまオッタルと自身を離れた位置に転移させる


「全く……面白い奴だなあいつは!!」


「オッタルよ、生かして倒そうなんて思うな。殺す気で行かないと……死ぬぞ?」


乱れた魔力を調整し自分の力へと変換し終えたアルス

一瞬でアルスの背後に転移したグラサンと正面から構えるオッタル


一触即発な空気がこの空間を支配する


そして三人同時に動き出そうとしたその時だった


唐突に周囲の木々が生き物のように暴れ回り、オッタルとグラサンへと襲いかかる


「なんだぁ!!」


オッタルは拳で木々を破壊し、グラサンはオッタルの元へと転移し辺りを警戒する


「よぉ、アルス。無事?というわけではなさそうだな」


声を発した方向に全員の視線が集まるとその方向から大剣を持った男と鎌を持った少女が姿を見せる


「まさかヴェインとカグヤか!?」


「おうよ。さーてとここからは俺たちも混ぜてもらうぜ!」


どうやらもう一波乱起きそうだ

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