第53話 学長室での出来事
「あと少しで魔法学戦が始まるわね。去年は惜しくも二位という結果だったけど今年はそうはいかないわよ」
自身の仕事部屋でもある学長室で昼下がりのコーヒーブレークを楽しみながら各生徒の情報と提出書類の確認を行っていた
(だけどびっくりしたわ。まさかヴェインに直接頼み込んで弟子になるなんて肝が座っているわね)
『全生徒平等に教育を受けるべき、だからこそ弟子なんていう特別な教え子みたいのは取らない』
というのが彼の教育理念だったのだがどうやって頑固な彼の心を折ったのか気になるものだ
(西条の紅蓮ね……あの西条家の子なのかしら? だけど、もしそうならどうしてそんな名家がこの国の学園に?)
「とりあえずは様子見で行くとしますか! うん? 何者かが学園に侵入したわね」
学園独自のセキリュティに加え、ここ第二魔法学園は学園長による特別な空間魔法が常時発動している。
侵入者を感知し警備用ドローンの起動や警備班に連絡する普通のセキリュティとは違い、魔力の登録や許可の出していない者が敷地内に侵入するとその地点の座標を知らせるというものだ。
今回はセキリュティが機能しなかったが決してセキリュティシステムが低スペックというわけではない。
空間魔法の場合、範囲内に踏み込んだ時点で問答無用で発動するが普通のセキリュティの場合、1〜3までの警戒レベルが設定されており、レベルによって対応が変わってくる
察知した限りでは一瞬の反応だったため警戒レベルは1しか出ていない。これでは要警戒という処置しかとられない
(実力のある者だとは思うけど運が悪かったわね。私がいなければ完璧だったのに)
カレンが人差し指を立てるとそこに小さな魔法陣が現れる。いくつもの文様が浮かび上がると同時に周囲の魔力が集まるのを感じる
「悪いけど魔力は覚えているわ。強制転……」
魔法名を口にしようとその時だった
「お待ちを! カレン様!」
彼女の目の前に文字通り黒い水溜りのようなものが出現するとそこから一人の男が現れる
「あなたは……」
「元総帥直属部隊にしてアルス様の元パートナーのカゲと申します」
そう言うと同時に寧々から受け取ったバッジを突き出す
「と、なるとさっきのふざけたメールは冗談ではなささそうね」
カレンは自身のデスクに置かれたパソコンに映っているメールの内容を再び確認する
『救援要請 現在、下記の座標でアルス・クロニムルが敵魔法師と交戦中。しかし状況は芳しく無い模様、元軍人であり大魔法師であるカレン殿の力を借りたい』
「送り主は総帥となってるけど総帥がメールを送るなんてことはしないはずよ。だからこんな怪しいものは無視してたけど……」
「貴方様のお力を貸して頂けないでしょうか?」
「そうしたいんだけどね……」
そう言うカレンの顔は暗い表情だった
「あと少ししたら魔法学戦の開催に向けて各国の重鎮たちが集まるミィーティングが内密に行われるのよ」
魔法学戦の開催国と競技と選手の情報公開などの開催に向けて必要な情報交換が行われるのがミィーティングだ
「そんな重要なこと私如きに申しても良かったのですか?」
「普通ならここまで言わないわよ。だけどあなたたちは別よ。……聞いてるんでしょ? 寧々ちゃん」
「あらーバレてた?」
カゲのポケットから電子音のような声が聞こえてくる。どうやらいつの間にか携帯が通話状態になっていたようだ
「それ、なんとかならない?」
「もし出なかったら参加者がいなくなることになるわよ?」
「それは国際的にまずいわね……こっちも本格的にまずいわね」
その声色は電子音からでもはっきりと伝わる。あの冷静沈着な寧々さんが焦っていることが
「ねぇ、私は無理でも私に匹敵する人なら力を貸せそうだけどどうかしら?」
「なんですって!? そんな奴がいるなら早く言いなさいよ!」
音割れをするぐらいの大きな声量で寧々は叫ぶ
「そんなにがっつかないでよ……あなたも一応知ってると思うけど元騎士団団長のヴェイン、彼なら助けになるかもしれないわ」
「うーん、それは私も考えたわ。だけどあのアルスが苦戦するような相手にぶつけるにしては少しだけ不安要素があるのよ」
突然、部屋が光りだすとドアの前にヴェインが転移してきた。いや、連れてこられたというような表現が正しいだろう
「いきなりなんなんだよ! ってそいつ誰なんだ!?」
「話は後よ。今からあなたを戦場に送り出すわ」
「急展開だなおい」
訳もわからずに連れてこられたにしてはかなり落ち着いた様子だった。流石は歴戦の戦士といったところか
「寧々、不安要素があるにしても現状、力になりそうなのはこの人しかいない、だからこれで我慢しなさい」
「おいおい、それが人をモノを頼む時の態度ですか? カレンさん?」
「……わかったわ。アルスがもし戦闘の続行が困難だと判断した場合連れ帰るための魔法も同時に発動させて置いて欲しいんだけど出来るかしら?」
「術式を作ることは出来るわ。ただ、私以外が使えば魔力の消費も馬鹿にならないのと発動自体はヴェインがすることになる」
「つまり、戦況を素早く判断して戦うか逃げるか決めろってことか。って今アルスの名前が出てこなかったか?」
ヴェインのツッコミを綺麗に流すとカレンは魔法の発動準備にとりかかる
「ヴェイン殿、あなたの教え子であるアルスは現在敵魔法師と交戦中、しかし何かしら大きな損傷があったと確認したため助力を求めているといった状況です」
「あいわかった。詳しい説明ありがとな、忍者さん」
部屋の床に巨大な魔法陣が出現する。その中央にヴェインに立つように指示をだすと、指示通りに彼は動いた。
そしてカレンの魔法の発動準備が整うとヴェインに歩み寄り人差し指を背中に当ててなぞる
「術式の付与を完了したわ。アルスの魔力とメールの座標から大まかな転移位置は決定したからそこからはあなたの力のみでアルスを見つけ出して欲しい、頼んだわよ」
「教え子のピンチだったら仕方がないな! ……久しぶりに暴れられそうだ」
「ではアルス様のこと任せました」
部屋全体が発光し魔法が発動するその刹那だった
「私も連れて行ってください!!」
学長室のドアを勢いよく開いてヴェインに向かって飛びつく少女がいた
「ちょっ!? まっ……!?」
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