第52話 救援依頼

少し時を遡り、アルスと別れたばかりの元相棒は指示された通りに本部へと帰還していたが上層部に報告する前にある人物の元へと訪れていた。


「報告に参りました。寧々さん」


カメラの前で要件と名前を告げると自動でドアが開かれる。中に足を踏み入れるとそこにはデスクの前に座った少女がこちらに背を向けてモニターと睨めっこをしていた。部屋の中は一人で住むにしては少し広めで、綺麗に整理整頓がなされていた。部屋の中央には来客用のソファとテーブルが置かれている。


適当にソファに座ると手の動きが止まるのを待った。しばらくしないうちにデスクに表示されているキーボードを叩く音が止むと椅子ごとこちらに向き直る


「お疲れ、カゲ。報告をお願いするわ」


綺麗な金髪を片方だけにまとめたいわゆるサイドテールに顔には似合わない白衣を着た少女が報告を促す


「では最初に今回の件なのですが、教団とノアシップによる合同工作だと判明しました。現在、アルスさんがその場所を特定し対応しています」


「ふむふむ、やっぱり私の読み通りじゃないの」


手だけを後ろに回しキーボードを叩くと寧々とカゲの間に映像が表示される。映像は地図のいくつかの場所に丸で囲われているものだ


「私のハッキングで各国のカメラにアクセスしてノアシップもしくは教団の手の者を最後に捉えた場所から奴らの向かった位置を予測した結果、どの場所も首都から少し離れているかつ、マナが濃い場所だと考えられる。このことから何かしらの魔法的な工作だと思うんだけど……」


再びキーボードを叩くと教団とノアシップの共通点をまとめた資料のようなのが浮かび上がる


「いかんせん何がしたいのか分からない。だから直接見に行きたいんだけどねー」


「それはいけませんよ寧々さん。あなたにもし何かあればアルスさんと総督が黙ってませんよ? それにあなたの代わりになる人材なんて皆無に等しいのですから」


「はいはいわかってますよ。で、次は?」


「二つ目はアルスさんが我々に頼んだ人探しの件です。こちらについては寧々さんのピックアップした場所に向かい調査を開始しましたが特に有益な情報は見つかりませんでした」


「マジで? 結構本気で絞ったのにな」


寧々さんは電子の世界の中でなら最強クラス。あらゆるセキリュティも彼女の前では無いに等しいと言われるほどの実力を持っている。どんな極秘情報も彼女の手にかかれば朝飯前だ。ゆえにここまで調べて何の情報が出てこないことに不気味さを感じてしまう


「アルスが嘘をついてるとは思えないからねぇ。ネットだけじゃなく魔法による隠蔽工作が行われるとしか考えられないな」


寧々さんの翡翠眼がキラリと輝く


「やってやろうじゃないの! この私の前ではどんな隠蔽も無駄だってことを証明してやるんだから!」


手を大きく上げガッツポーズを椅子の上でとった


「あ、危ないですよ!」


「過保護だわい!」


しばらく世間話を楽しんだ後、上層部に報告するために部屋を出ようとすると寧々に呼び止められた


「何かわかったらまた連絡するわ、じゃあ頑張ってね」


「はい。了解しました」


ドアの前に行き開かれるのを待ったその時だった


「うっ……!!」


突如として凄まじい倦怠感と頭痛がカゲを襲い床に膝をついた


「ちょっ! どうしたの!?」


慌てた寧々が急いでカゲに駆け寄る


「アルスさんの生命傍観の影バイタルシャドウが消えました……!!」


そう告げると寧々は顔色を変えてデスクへと向かった


「消えた場所はさっきの報告の場所でいいのよね?」


「はい」


近くのソファに何とか座り呼吸を整えることに集中する


「あんたのあの使い魔が消えたってことはアルスに何かしら大きなダメージがあったってことよね?」


「そうなります。私の生命傍観の影バイタルシャドウはダメージ値を設定し、影に潜らせることでそのダメージ以上を受けた際に消失し私に知らせてくれる……」


アルスは能力上、元々一人で任務をこなすことが多かった。しかしそれでは何かあった時に情報が伝わらないということでカゲの使い魔を忍ばさせていた。使い魔が消失する際はその場所をのイメージを具体的に脳に送り込んでくるのでその場所に援軍を向かわせるといったシステムだ


実際にそれが功を成したことが一度だけありその時はアルスの左腕が切断されていた


「一応聞くけどダメージ値の設定は前とは変わってないのよね?」


「ええ。救援に迎えそうな魔法師はいましたか?」


寧々はキーボードを叩きながらその問いに自信なさげに返す


「手を空いてる魔法師はいるわ。ただ彼の手助けになるような魔法師はいない。ねぇ、アルスの知り合いの中に有能そうな魔法師はいたかしら?」


少し頭を悩ますとある人物が脳裏に浮かんだ


「アルスさんが通う学園の学園長はどうですか? 確か元軍人だったと思います」


「あまりあの女の力を借りたくないけど仕方がないか。 カゲ、こっちからも一応メールを送るけど多分怪しまれると思うから直接行って頼んで欲しいの! いいかしら!?」


「了解です」


敬礼をして答えるとデスクの方からバッジが投げられる


「それを見せたら信じると思うわ。上層部の報告は私が適当にやっとくから任せたわね!」


カゲは影に飲み込まれるようにして姿を消していった


(私たちが助けを送るまでの間、なんとか生き延びてよね! アルス!)

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