第50話 接戦
「珍しい魔法を使うじゃねぇか」
敵の中で唯一立っている男、通称グラサンは面白そうにこちらを眺めていた
(なぜ立っていられる! いや、それよりもどうして対策法がわかった!?)
自分で言うのもなんだが
目を凝らし奴が発動している術式を確認する
(魔力障壁と妨害魔法を組み合わせた術式……間違いないこの男は俺の術式を見破っている!)
「二発目は無さそうだな。だったら片付けてと」
魔法を解除すると周囲に転がっている教団の魔法師に目を向ける
「……ま、しゃあねぇか。
死体蹴りでもするかのように味方であろう魔法師に魔法を打ち込むグラサン
(何をしているんだ? そんなことで気絶から目が覚めるわけでもないのに)
俺のそんな視線に気づいたのか何でも無さそうに話し出す
「気にすんな。もしこの中でさっきのあれに少しでも正しい反応が出来てるやつがいたら戦力の足しにしようと思ったんだが……やっぱ無理みたいだな」
当然だ。あの魔法は生半可な防御術式じゃ耐えられるわけがない。そう作ったのだから
「通信魔法の応用といったところか? 通信魔法は通常の防御魔法じゃ防ぐことはできない。だが、ただの妨害魔法で何倍にも強化され圧縮された情報の塊を捌くのは不可能だ。ゆえに防御と妨害を組み合わせた一つの術式でしか対抗手段がない、えげつないなあんた」
(全て見抜かれているのか。だったら……!)
「よく分かったな。初見で見抜かれたのはあんたが初めてだ。……一体どんな異能を使ったんだ?」
奴に関する情報を一つでも引き摺り出し、少しでも優位な状況を作り出せるようにすべきだ
「さあな。神様が俺の耳元で囁いてくれたかもしれねぇな」
(真面目に答える気はないか……くっ、俺の魔法を見破ったのが何かさえわかれば対策もできるかもしれない! それに俺を転移させた魔法のタネもわかってない……厳しいな)
人間というものは自身が有利な状況に置かれると精神的に緩んでしまう部分がある。そういったところにつけ込まれ最終的に形勢逆転なんてことも可能性として充分に考えられる
しかしこのグラサンはどれだけ有利な状況に置かれようが相手を見下すことはせずに常に警戒心を持って接する、俺にはそういった人種のように思える
(なら暴いてやる)
【
魔法の発動準備に入る二つの銃に魔力を漲らせる。それと同時に凄まじい量の魔法式が銃身の周囲に浮かび上がる
「お前さんのハンドガンえらいことになってるけどそれをどうするんだ?」
グラサンは顔を引き攣らせながらこちらに問う
「さあな」
そう告げると同時に引き金を引く。銃口から放たれた凄まじい威力の稲妻はグラサン目掛けて襲いかかる。展開していたであろう魔力障壁と激突した瞬間その障壁はいとも容易く破壊すると同時にその周囲にとてつもない暴風の塊ともう一つの稲妻が姿を見せる。それらはグラサンに対して牙を剥き出しにしさらなる追撃を加える
大量の砂埃が巻き起こり、次に正しく視認できるようになったころにはまるでとんでもない爆発が起きたかのような惨状になっていた。木々は吹き飛び、稲妻の影響で地面は黒く焦げている
(超級魔法の連続発動。さすがに堪えるが範囲も威力も充分。どれだけ術式を見抜くのが得意だとしてもこの威力と範囲なら奴とて無傷ではあるまい)
だがそう上手くはいかなかった
「おいおい、皆殺しにする気か? 俺がいなかったら気絶してる奴ら全員死んでいたかもしれなかったじゃないか。ま、さっきのであいつらは俺らと離れたところに飛ばしたけどな。次からは安心しろ」
「嘘、だろ……」
俺が振り向くとそこには無傷のグラサンが立っていた。すぐさま後ろに飛び距離を取る
(あの状態から仲間を逃せたのか……
一箇所に気絶した魔法師たちが固まっているのならともかく、配置がバラバラの状態から一度に全員転移させた。これはもう神業としかいえない
(術式が見破れるのなら放置しておくのも手だったはずだ。なぜそうしなかった? いや、今はそれを考えるよりもこいつの攻略法を模索すべきか)
「あーいろいろ考えてるとこ悪いんだが」
「っ……!」
「今度は俺の番だ」
先ほどまで離れた位置で喋っていたはずのグラサンの声はいつの間にか俺の耳元から聞こえてき、目の前には奴の大きな手が迫っていた
「がっ……」
そのまま顔を掴まれた状態から地面に勢いよく叩きつけられる。マウントポジションを取られているため体も充分に動かせない
「
グラサンは俺の顔を抑えた状態から魔法を発動する
(アダムと同じ手袋型のCAWか! 仕方ない!)
異能を発動させ、こちらを押さえつけている手を強引に払い炎の塊の軌道を逸らす。すぐ耳元で炎と地面が衝突し砂煙が舞う。その際に生じた隙を見逃さずに奴の手首を掴み、異能を発動させる
「うおぁ!」
自身の
(まずいっ……! ここにきて時間の減速が)
俺が棒立ちになっている間に同じように体勢を整え直したグラサンは構えを取り、急接近すると左のジャブを打ち出す
初撃は経験からある程度予測ができる。問題は
「ヒット!」
「くぅ!」
二発目の攻撃に体が追いつかないということだ。まともに右フックを受ける羽目になる。そのタイミングで異能の代償が払い終わる。
再び距離を取り、
「その魔法の欠点は魔力の射程が伸びるごとに威力が落ちること、だったら距離をとって障壁を張ればいい!」
(やはりダメか!)
魔法では対抗できないと判断し懐にCAWをしまう。手に魔力を流すと今度はこちらから奴に近づく。しかし
「無駄だ」
先ほどと同じようにいつの間にか奴のすぐ右側に転移させられる。グラサンの拳が眼前に迫っていたが異能を発動させ回避に成功する。異能に使った時間は僅か0.2秒だ
(その程度の減速なら問題ない!)
カウンターを叩き込むかのように拳を突き出す。それをもう片方の腕で上手くガードされる。だが
(脇腹がガラ空きだ!)
空いた脇に滑り込ませるようにもう片方の拳を突き刺し、その際にもう一度異能を発動させ、もう二発打ち込む
(上手く顔が読めないが効いているはずだ)
そこからお得意の後ろ回し蹴りを顔目掛けて放つ。しかし当たることはなく虚しく空を切る
(また瞬間移動か! 何の予備動作も魔法の反応もなかったぞ!)
俺の背後からある程度離れた場所に立っていた
「おいおい……アダムから聞いてたがお前の異能かなり面倒だな」
「あんたがそれを言うか」
振り返って奴の状態を確認するが余裕そうな表情を浮かべていた
(思ったよりもダメージが少なかったか?)
目を凝らしさらに詳しく観察する
(鳩尾部分に強い魔力の残穢を感じる……まさか、あの部分だけを魔力で強化していたのか!? 何も感触はなかったはずだ……)
魔力で自身の肉体を強化するのは魔法師であるなら当然だ。それは物理的なダメージだけでなく魔力的なダメージも少しだけ緩和できるからだ。鎧とはまでいかないがそれなりのアーマーになる
ゆえに攻撃を当てればアーマーに当たったような感覚がこちらにも伝わるはずだ。それが無かったということは
(自身の魔力の流れと強化する際の魔力の流れを調整して全く不自然ではない状態を作り出したのか……決定だな)
ニヤついた笑みでこちらを眺めているグラサン
(こいつは間違いなく強敵だ……!)
どうやら
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