第49話 戦いは急に

竹林さんに指示を出された俺はその日の夜から行動を開始した。全てのポイントを監視するのは物理的には不可能ではあるが、俺の元相棒の力を借りることでそれを成し遂げていた。


相棒の能力は影に関する物で、夜になるとその力が倍増する。なので予測地点全てに影から監視ができる、いわば影の目を置き監視をしてもらっていた。


しかし、奴らが現れることはなく時間が過ぎていき、夜明けも近づいてきたので相棒の代わりに鳥の使い魔を放ってもらい、監視を続行してもらっていた。すると昼間になったタイミングである変化が訪れる


《アルスさん、先程放った使い魔に何かしらの魔法を行使されたのを感知しました》


地図上で言うと各ポイントから線を引きちょうど交点にあたる位置で待機していた俺に電話がかかってきたのだ。


《了解、すぐそちらに向かう。お前は撤退し本部に報告だ。くれぐれも戦闘だけは避けるように》


電話切った俺は送られてきた座標情報を確認し足を動かした。しばらく移動すると郊外にある山を目にする


(間違いなくここだ。普通に来たらこの人払いの結界を感知するのはほぼ不可能だろうな、かなり練度が高い。かなり優秀な魔法師がいるのは間違いないか)


隠蔽魔法と結界を誤認識させる魔法、そして自身が持つ超高度な隠密体術を使用し中へと侵入する。魔力も操作し魔法を使ってないような状態を作り出すことで完全な無の存在へとなった俺は山の中を少し歩き、人の気配を察知する


(あれは何だ? 何やら術式を設置しているようだが)


複数人の魔法師が大規模な術式をこの土地に刻み込んでいるのは間違いない。しかし一体何の術式なのかは遠目ではまだわからない


すると設置が完了したのか魔法師が移動するのを視認できた。だが進行方向的に見失ってしまうのでこちらもそれに合わせ位置を変えた


(あいつは……)


魔法師たちが向かった先は二人の男が居る場所でその一人は誰だか俺は知っている


(あのサングラスはノアシップの構成員か。確か転移魔法を使うやつだったな。それとあの大男、魔力の流れに少し違和感を感じるな。魔力を別の物に変化させているのか)


敵の魔法師は合計七名、そのうち一人は厄介な転移魔法を作用する。ならばと、意識を術式の方へと移し解析を開始する。下手に戦闘をするよりも無効化を優先したほうが良いと判断したのだ。解析を進めていくと予想もしていなかった事実を突きつけられる


(これは複合魔法か! 一つは転移魔法で間違いないがもう一つは古の時代に魔王が使用した系統の魔法だ! なぜこんなものが現代にあるのだ!?)


ここで一つの可能性が頭をよぎる


(まさか教祖は俺と同じ転生者か!? しかも魔王陣営だった人物だとすると……少し厄介なことになってきたな)


魔王を支持するものがこの現代ですることで考えられる可能性はたった一つ魔王の復活だ


(それだけは絶対に阻止する必要がある)


今、真っ直ぐ行けば術式を破壊することはできるが敵の具体的な戦力が分からない以上下手に飛び出すのは愚策だ。かといって術式が山と一体化すれば術式の破壊をする場合山そのものを物理的にそして魔力的に消し炭にする必要性がある


(だが魔力的に消し炭にした場合、この地帯のマナは消失する可能性がある。それは国家に対して不利益をもたらすことになる)


マナというのは魔力の元となるもので我々はこのマナを魔力に変換することで魔力を蓄えている。それがなくなればここ一体の人間だけではなく作物や植物、動物といったものに大きな影響が出るのは間違いない。これらのことから俺がやらなければならないことは


(奴らを戦闘不能にし術式を無効化する)


侵入する前に確認したところ人払いの結界を担当している魔法師は山の外側にいるため対処すべき魔法師は中にいる人物だけだ


痛覚共有ペイン・リンクを使い奴らをまとめて気絶させる。これが最善策か)


俺が懐から二つの銃を取り出し片方を側頭部に当てようとしたその時だった


(は?)


いきなり景色が変わり、アルスの眼前には殺意の塊で満ち溢れた拳が迫っていた


(おっ?)


オッタルからすればただ本気で虚空に向かって拳を打ち込んだら急に人が出現したのだ。驚いて当然だ


(あの距離では回避は不可能。まともな防御もとることが出来ない。詰みだな)


打ち込まれた拳の風圧は凄まじくこちらにも余波が伝わってくる


しかし全員が想定した状況にはならず先程まで無防備にオッタルの前に立っていた少年はその背後へと移動していた


(へぇ、面白いなあいつ)


周りの魔法師はただ驚くだけだがグラサンは少し楽しそうに感じていた


「お前、何をしたんだ?」


オッタルも嬉しそうに少年へと問いかける


「見ての通りだ」


(絶技を使ってしまったが仕方ない。残りは一回か)


あらゆる事象に割り込んで行うことができる絶技は俺が前世に習得した最強の体術だ。昔のようには使えないが今の状態でも一日二回限定で使用可能になっている


俺は敵が驚いた隙に準備を済ませていた魔法を発動させる


「今度はこっちの番だ」


発動した痛覚共有は敵魔法師の展開した障壁を直撃し、を残して気絶した

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