第48話 工作

―アルテマ国 郊外 山中―


まだ昼間ということもあり照りつける太陽の光が木々の隙間を縫って集まっている集団に薄く光を当てていた


「あのよぉ。俺が居る必要なくないか?」


「お前にはなくても俺にはあるんだよ。我慢してくれ」


サングラスをかけた男が筋肉が特徴的な大男を宥めるように言った


(ふぅこれで七つ目か。ったくボスはまた面倒な任務を俺に押し付けやがって)


「おい、グラサン」


「コードネームで呼べと何度言えばわかる?」


俺は呆れたように言い返した。コードネームを教えた日から一度もその名で呼ばれたことがない。この男限定だが


「別にいいじゃねぇかよ、そっちの方がお前に合ってると思うぜ。で、お前らと手を組んだら本当に強いやつと戦えるのか?」


「無論だ。というより必然的にそうなってしまいそうだしな」


「そうか。魔王と戦うために教団に入ったがいつになりそうかわかんねぇし心配だったんだよな」


大男は安心した様子で話を続ける


「お前たちは俺たちに情報と移動手段を提供する代わりに俺たちは戦力を貸すって契約だっけか? まぁ俺は強いやつと戦えんならなんでもいいけどよぉ」


ノアシップが教団と手を組んだのは互いの利益が一致していたからに過ぎない


「教祖が魔王の復活を感知した、ねぇ。にわかには信じがたいがあんたらが動いてるということはそういうことなんだろうな」


(どうやら教祖様は情報網を広げていち早く魔王に辿り着きたいらしいな。一体何故そこまでするのだ?)


俺の抱いているこの疑問は目の前にいる大男、オッタルでは答えが出なさそうなため今は気にしないことにしよう。しばらくすると教団の団員らしき人物がこちらに駆け寄ってきた


「術式の設置完了しました」


「あいよ。ご苦労さん」


ビシッと敬礼を決めた団員を適当に労い今回の目的を頭の中で整理する。


我々が現在行っているのは俺の転送魔法と教祖のある魔法を組み合わせた術式を各国の主要都市に近い場所で設置するということだ。それぞれ二箇所ずつ配置するとこで教団が暗躍しやすくするためとのことだ。詳しい理由は聞かされていない


(とはいえ俺にはがあるからどんな術式は大体わかる)


五ヵ国全てに配置する上でこの作業は半日かかる上に術式の設置は最低でも五人がかりで行う必要があるため、教団の中でも優秀な魔法師が俺の指揮下で動いている。とはいえ回数もこなしてきたおかげで設置までの時間はかなり速くなった


「よし、とりあえず最優先目標である各国に複合術式の設置をするというのは完了したから、第二目標であるもう一つの術式の設置に移るぞ。魔法学戦までに半分終わらっ……!」


「おい? どうしたんだ急に」


「……何も感じなかったか?」


「いや何も?」オッタルがそう言うと周りの魔法師も同じように頷き始めた


「お前のオーラにも俺の索敵魔法にも優秀な部下たちの結界にも反応しなかった。……だが、俺の直感が何かがいたと告げている。気のせいだと思うが……」


「仮にいたとしても察知できねぇなら仕方ないんじゃねぇのか?」


いつもなら気にしないところだが今回は別だ


「この術式の設置が完了したとしても土地に完全に馴染むまでは時間がある。俺らと入れ替わりにここに術式があると知っている者が現れた場合、術式を発見され無効化される恐れが出てくる。そうなったら俺らの計画がめちゃくちゃになっちまうかもな」


「じゃあどうすんだよ? 俺らにできることなんて何もねぇぞ」


「一応策はある、痕跡を大きく残すことになるがな。それを話す前にもし戦闘になった場合、合図を決めておく必要が出てくるんだが、オッタルこっちに来い」


オッタルを呼び出し、周りの魔法師に見られないように合図を伝える


「おいおい、本気で言ってんのか?」


「ああ、本気だ。では今から準備に取りかかる」


魔力を漲らせ、印を結び魔法の発動条件を次々と満たしていく。そして全て完了した段階で俺は告げる


「領域結界 発動」


次の瞬間、この山全てを何かが覆うのをオッタルたちは目にする


(さーてかくれんぼといこうじゃないか)

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