第47話 戦いの予感

俺たちは仮想戦闘場に向かうために廊下を歩いているとかなりの数の生徒が目に入った


「休みの日にしては多いな。今日は補習もないはずだろ?」


「そりゃぁ今回代表に選ばれなかった生徒からしたら結構悔しいはずだ」


「どうしてだ?」


「入学して早々事故って何日も学校に来てなかった奴が選ばれたんだ、毎日ここに来て腕を磨いている奴らからしたら良い気持ちはしないだろうな。だからその悔しさをバネにして鍛錬を積んでいるってところだ」


(向上心があって良い生徒たちなんだな)


心の底から感心しているとナオトがついでと言わんばかりに話し始めた


「そういやお前、魔法学戦についてどれくらい知っているんだ?」


「他国の代表生と戦うってとこだけだな」


「概ね間違ってはいない。が、少し惜しいな」


「他国との力比べだけじゃなくてプロの魔法師や魔法と関係のある仕事をしている人たちに自分たちの将来性を見せる場でもあるのよ」


「見せる場か、リーナはどっちなんだ? 国のための魔法師になるか魔法の発展に携わるか」


「どっちもよ」


そう答えたリーナに迷いはないように見えた


「修羅の道だな」


俺の感覚では少しの時間、会話していたつもりだがいつのまにか仮想戦闘場の入り口が見えて来た。そしてそのタイミングで俺のポケットに入っている携帯が振動するのを感じ取った。携帯を取り出しメッセージを確認する


「……悪いっ! 急用が入ってしまった。あとは任せても良いか?」


「いきなりだなおい! 別に良いけどよ、ちなみに急用ってなんなんだ?」


「知り合いがこの街に来てるから案内して欲しいとのことだ。本来はもっと後になるはずだったんだが予定よりも早く来ることになったらしいんだ」


俺は背後にいるカグヤに一瞬だけアイコンタクトを送った


「わかりましたわ。私たちだけで先輩方を倒しますので気をつけてくださいね」


「言うねぇ……」とリーナは驚いたような様子だった


「カグヤさんってそんな好戦的でしたっか?」


カインは不思議そうに聞く


「任されたからには頑張らせてもらいますよ」


「そうか。本当にすまないな。では行ってくる」


アルスの背中がどんどんと遠ざかって行く。私は先ほどのアイコンタクトの意味を頭で考えていた


(あの合図は私の地位では情報が共有されないレベルの任務の収集がかかった時に出されるもの。気をつけてください、アルスさん……!)


心に宿る不安を押し潰すように強くそう願った


―――


昼下がりのお洒落な喫茶店、街の中でも有名なその店に入ると入り口に近い席に座っている眼鏡をかけた綺麗な女性に手招きをされた。どうやら指定された場所はここで正しいようだ


「お、きたきた。意外と早かったね」


「緊急だとメールに書いてあったから急いだんですよ」


俺は女性の対面に座るとメニューを手に取る。辺りを見回すと女性客の割合が多く、休日ということもあって店内はざわついていた


「確かにこれなら男女二人が危ない会話をしていても正確に聞き取ることは難しいし違和感もないですね。竹林さん」


竹林さんは軍の上層部に位置する人間だ。主に潜入や工作といったことを得意とする部隊をまとめて管理しており総督にも面と向かって話せる数少ない人物だ


「だろ?」と竹林さんが短く答えるとメニューから手を離し店員を呼び止めると次々と注文していく。少しするとコーヒーが運ばれ、俺の目の前にもコーヒーが置かれた


「さて、基本的にはメールの通りだ」


そう言われた俺はメールの内容を思い出す


「確か、教団とノアシップが手を組んだ、でしたか。一体どうやってその情報を掴んだのでしょうか?」


「ノアシップの奴らの出現するであろうと思われる場所を張り込みひたすら現れるのを待つ。目標が出現したら怪しい素振りがないかひたすら尾行する仕事を任されていた部隊から報告があったんだ。普段なら要警戒で終わりなんだけど、どうやらそういうわけにはいかないみたいなんだ」


「一体何が?」


「教団の連中が他国や別種族の国でも目撃されている。何かよからぬことを考えているのは間違い無いはずだ」


(そもそも教団というのは魔王復活というのを目標に掲げた連中の集団。ノアシップのようなテロ組織とは違い、活動がほとんど無かったため特に目を光らせる必要がなかった。なのに急に姿を見せ始め、さらにノアシップと手を組んだとなると……)


「確かに何か妙ですね。まさか魔王復活の目処がついたとか?」


「私たちもその線を疑ったのけれども特に証拠が見つからなかった。しかし何かしら企んでいるのは間違いない。テロ組織と手を組んだというのがそれを示している」


二人で深く考え込んでいると店員がチョコレートパフェを二つテーブルに運び、俺の前と竹林さんの前に置いた


「やっときた! ここでしか食べられない限定パフェ!」


竹林さんは嬉しそうにスプーンを伸ばす


「そんなに食べたかったのですか?」


「当然じゃないか、休日限定で数量限定のパフェなんだぞ? 正直言ってもう売り切れだと思っていたがギリギリセーフだったみたいだ」


「そうなんですね」と言い俺もスプーンを伸ばしパフェを口に運ぶ。次の瞬間絶妙な甘さが俺の脳を刺激し頬がとろけそうになるような感覚に見舞われる


(美味いな……)


黙々と食べ続ける俺に竹林がニヤついた目で見つめてくる。恥ずかしいから正直やめてほしい。俺と竹林さんのパフェの容器が空になったタイミングで竹林さんの雰囲気が変わった


「ここからは真面目にいくとしようか。今回我々が君に頼みたいことは二つだ。一つは奴らの企みを暴くこと、そして二つ目は奴らについての情報集めだ」


「情報集めですか」


「可能であれば殲滅をお願いしたいのだがそれは不可能に近いだろうな。奴らの情報が少なすぎる。どういった魔法を使い、どういった異能を所持してるかほとんどわかっていないのよ。無論二つ目に関しては出来る範囲で構わない。一つ目を優先してほしい」


「了解しました」


竹林さんは懐から何かを取り出すとこちらに差し出してきた


「教団を調べてノアシップと落ち合うであろう場所が詰め込まれている。役立ててくれ」


「驚きですね。まさかここまでお膳立てされているとは」


「だがノアシップの本拠に関する情報は全く掴めていない。能力でを追っても途中でぽっくり消えていて追跡することができないのだ。ゆえに教団を調べることでしか足取りを掴めなかった」


説明がある程度終わると机に置かれていた端末をポケットに仕舞い込んだ


「最後に総督から伝言だ。《戦略級は使用するな》とのことだ」


「……了解です」


(超級魔法の使用と神器の使用を許可する際の合言葉か)


戦略級は使用すればどんなに不利な戦況でもひっくり返るほどの威力を有する魔法だ。使用できる魔法師は限られており、行使可能な魔法師の情報は国で管理されることになるが俺の場合は例外だ


「時間ね……。ここは払っておくからいつまでいてもいいわよ。私は仕事があるから退席します、じゃあね」


頭を下げると俺は自分の携帯を取り出し、ある人物に電話をかけることにした


「もしもし、俺だ。至急、帰還するように。お前の力が必要だ」

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