第46話 手品の正体

「馬鹿やろう! やりすぎだ!」


終了を告げる音が消えると同時にナオトの怒声が耳に入る


「ダメージ変換があるとはいえ気絶までさせちまったら最悪今日はもう戦えないかもしれないじゃないか!」


観客席から移動してきたナオトに頭を軽く叩かれながら説教を受け、次の名前が表示されるのを待っていた


「本当に悪かった。しかし紅蓮相手に手を抜けるほど俺は強くないよ」


「良く言う……まだ余力はあったんじゃないか……?」


「あんた意外とタフね」


予想よりも何倍も早く目を覚ました紅蓮が頭を押さえながらこちらの話を聞いていた


「アルス、あの霧の中で一体君は何をしたんだい?」


まだ上手く頭が回らない紅蓮の代わりにカインから先ほどの戦いの説明をするように求められた


「二種類の風魔法を使い分けただけさ」


「それだと君から魔力の反応が出るはずだから紅蓮にも対応できたのではないか?」


「私も同意見だわ。あんな実力を持っているんだから何かしら反応できたはずよ。なのにほぼ全く何もできずに無防備な姿を結果的にアルスに晒すことになってしまった……一体どんな手品を使ったのよ?」


次々と疑いの目を向けられてしまうことになるが俺は冷静に受け答えをする


「三段階に分けて説明するぞ? 一段階目は紅蓮の周囲を走り風の流れを乱す。二段階目に風の中級魔法を使い、紅蓮の背後に風を吸い寄せ発散する魔法を仕掛けておく、そして初級魔法である風精の恩恵エアーギフトを使い周囲の風の流れと同化する」


「少し待ってください。それに何の意味があるのでしょうか? 風精の恩恵はあくまで自身に風を纏わせるだけの魔法です。それをしたところであの霧の中では不自然な風の流れとして感知されるはずですよ?」


珍しくリンが興味深そうに食いついてきた


「全くもってその通りだ。だから最初の風魔法を使初級魔法を発動させたんだ。紅蓮からしてみれば魔力の反応は一つ、さらにその動き方は自分の周囲を駆け巡っている何か、つまり俺だと判断するはずさ」


「どこまで読んでんだか……アルスの言う通りだ。俺はその時点で何か仕掛けてくると考え、全神経を風の流れに集中させたんだ……」


「そこから風精の恩恵で周囲の風の流れと同化するように自身の周囲を調整し一気に接近、そして三段階目として仕掛けておいた中級魔法を解放することで風を発生させ、あたかもそこにいるように見せかけると同時に懐に潜り込み魔力弾をぶち込んだってところだ」


「初級魔法だから、中級魔法と同時に行使するのは造作もないってことですか……しかし風の調整もするとなるとかなりの労力がかかると思いますが……あと最後の魔力弾について何ですが威力が明らかに一般のソレを遥かに上回るもののように感じられました」


不自然な点を次々とリンは挙げていく


(流石は国が運営する魔法学園だな。生徒の質がかなり高いな。結構誤魔化したつもりはずなんだが)


「リン、知り合いの調整師によってアルスさんのCAWは軍用に近い調整をしてもらっているんですよ」


「初耳ね。あんたそんな知り合いがいたの?」


「ま、CAWオタクの仲間みたいなもんだな」


(ナイスアシスト! これなら調整について聞かれた時も対処できる!)


カグヤに対し親指を立てたい気持ちを抑え答えた。その後も話していると、クールタイムが終了し次の対戦の組み合わせが表示される


「次はカグヤとカインか。お互い頑張れよ」


俺たちは試合を見守るためにその場を去った


―――


全員の対戦の組み合わせが終了した頃には昼過ぎだった。昼食を済ませるために俺たちは食堂へと移動していた


「すごいわねカグヤ! あんた全勝じゃない!」


「ありがとうございますリーナ」


「それに加えてあんたは……」


端っこの方で項垂れている少年へとリーナの目が向けられる


「やめろ! 俺を見るんじゃねぇよ! 別にいいだろ、全敗でも!」


「しかし意外だね。君が四勝止まりだなんて」


カインが食べていたカツ丼の箸を止めた


「まぁな。カグヤはともかくまさかお前に負けるとはな。一応勝つ気でいたんだがな」


俺がカインと戦った際に俺が本気を出せないのを知っているのを利用し、馬鹿みたいに上級魔法を浴びせてきたのだった。対抗して魔法を発動させるが決定打にはなることはなく最終的に捌き損ねた魔法を受け戦闘続行不可と判断されたのだ


「とりあえず全員の課題は見えたんだからいいんじゃねえのか? 俺は得意属性の上級魔法の取得、リンは魔法のバリエーション、リーナは戦闘技術、紅蓮は経験、アルスは魔力量、カインとカグヤは他属性の上級魔法の取得ってあたりだな」


いつのまにか立ち直っていたナオトがハンバーグに箸を入れ、肉汁を溢れさせると口に運ぶ



「妥当だな。先生にも言われたがやはり俺にはまだ駆け引きというものを完全に理解していないようだ。やはり数をこなさいとな」


うどんを完食し終えた紅蓮が自らの反省点を述べていた


「さて昼からはどうする? 団体戦のチームも今日中に決めれたら楽だけどやっぱりそれぞれの課題に取り組んだ方が良いかな?」


「私はどっちでも良いわよ」


「俺もおなじだ」


全員どちらでも良いという答えに辿り着いてしまう。俺たちが頭を悩ましながらこの後の予定を考えていると背後から声がかけられる


「だったら私たちと団体戦をしませんか?」


声をかけてきたのは上級生だ。制服の色が微妙に違うからそこから判断できる。その上級生は白い髪に赤い目をした少女だった


「先輩方は?」


リーナが不思議そうに聞く


「申し遅れました。私はロザリア・ギルバート、こちらは望月シズクです」


今時珍しい帯刀をしたポニーテールの少女がロザリアの後ろに立っていた


「ロザリアさん……まさか! 二年生にして生徒会長になったあのロザリアさんですか!?」


リーナが思わず席から勢いよく立ち上がった


(そうだったのか、カグヤは知ってたか?)


(はい、ここの主要生徒の情報は頭に入れてあります。この方たちはどちらも代表生の方です)


「私たちも仮想戦闘場で鍛錬をしてるんだけど身内で団体戦をしても手の内がわかっちゃうんだよね。だから一年生や三年生の方に相手をお願いしてるの。無理にとは言わないけどどうかしら?」 


代表生にはそれぞれシステム付きの鍛錬ができる場所を貸し出しできる権利が与えられている


一年は訓練場、二年は仮想戦闘場、三年は模擬試合場だ。ちなみに上から順にできることが多くなっている


(相手は上級生、しかもロザリア・ギルバートといえばあの帝国の国王と同じの世界で二人しかいない国宝級の異能の持ち主だ。そんな相手と戦いたいと言えるのはよほどの戦闘狂だろう)


(名前は知っていたが顔を見たのは二度目か)


俺がロザリアに目を向けると一瞬で視線に気づき笑顔で小さく手を振ってくる


「え、あんた知り合いなの?」


「あまり身に覚えがないな。もしかしたら俺が小さい頃にどこかで会ってるかもしれない」


そんなことを話しているとカインが口を開いた


「ちょうど良い機会だと思うのでお受けしますよ、生徒会長」


「ありがとうございます! でしたら先に仮想戦闘場で待機してますね」


そう言い残すと足早に去っていた


「以外だな、お前がそんなことを言うなんて」


「だってこんな機会滅多にないじゃないか? せっかくだし猛者に揉まれようじゃないか」


口でそう言ってるものの瞳には勝つ気満々だといわんばかりにギラついていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る