第45話 戦闘

開始と同時に俺は白の銃だけを取り出し、銃口を敵に向けた。しかし


(なっ……!)


足元を爆発させその推進力で一気に距離を詰める紅蓮が眼前へと迫っていた。すかさず後ろへと大きく飛び引き金を引く


「振動魔法か……!」


脳を揺らされた紅蓮はその足を地につけ片手で頭を押さえるとこちらをにらみつける


(不意打ちみたいな形になったから成功したが次からは使えないな)


魔力を纏うだけで脳を揺らす程度の振動魔法なら相殺できるので、一度見せたら次成功する確率は極端に低い。紅蓮は剣を抜くと炎を纏わせ一気に駆け出す


(ちっ! 相性が悪すぎる! 超級魔法を見せられないとなるとこいつ相手に距離を取り続けるのは不可能だ)


俺は銃口を自分の足元に向け引き金を引く。撃ち込まれた場所が光ると同時に鉄の剣が出現し、手に取る


(錬成魔法ですか……属性はおそらく土ですかね)


カインがそう考えていると金属と金属がぶつかり合うような音が響き渡る。


剣を受け止めた状態から俺は重心をずらし紅蓮の剣を滑らせ、相手の重心を崩す。そこから手首を返し、出来た隙に切り込むよう剣を振るう


だがその斬撃は炎の壁に遮られそれと同時に爆風が襲う


「ま、そうくるだろうな」


(視界を塞いでからの範囲攻撃。どうやらヴェインとの稽古はかなり効果があったようだな)


俺は紅蓮の次の一手を予測し、左手に持つ銃の引き金を引いていた。発動した魔法は簡易的な障壁で爆風のダメージを最小限に抑えた


俺と紅蓮の間にできた炎の壁から刃が顔を見せる。首元を狙うかのように繰り出された突きをすんでのところで避けるがそれでは終わらず突きをするために体を前に出した勢いを利用しそのまま放たれた回し蹴りが俺の腹部を狙う


持っていた剣の腹で受け止めたは良いものの勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。空中で体を立て直し着地と同時に紅蓮に銃口を向ける


凍結欠片フリーズダスト


魔法が発動すると俺の周囲に人間と同じ大きさの氷の塊が六つほど姿を見せ紅蓮へと飛んで行く


「全てを燃やしつくす!!」


大きな声でそう叫ぶと同時に巨大な火球が同じように六つほど出現し俺の繰り出した氷塊へと射出される。その炎は先ほどまでの炎とは火力が桁違いであり、充分相殺できる火力だろう。


それぞれがぶつかり合うとその衝撃で紅蓮の髪を大きく揺らし、氷塊が炎によって一気に蒸発したことで霧が一帯を支配する


「今のは凍結欠片! 確か上級魔法のはずよ!」


観客席でこの試合を見ていたリーナが大きな声を上げる


「驚きました。まさかアルスさんがこのような魔法を扱うことができるなんて。いつもはランクの低い魔法と体術を組み合わせた戦い方をする方と思っていました」


「それは勘違いよリン、上級魔法も組み合わせて戦うこともあるわ。アルスさんはいわゆるコピーとペーストが得意なんですよ。だから一度術式を理解した魔法であればその魔法をそのまま行使できる。ただ、上級魔法なんてものを毎日使っていれば魔力変換による負担が大きくなるから極力使わないようにしているの」


「魔力変換の負担、ね……」


カグヤの説明にカインが面白そうに呟く


「っても、紅蓮もなかなかすごいじゃねえか。もうプロの魔法師と遜色ないように見えるぜ」


「そうなのよね〜。だからこそ紅蓮と張り合っているアルスがちょっと不思議なのよね。さっきみたいな大魔法はあまり使ってないけど体術だけで異能を使ってる紅蓮を抑えてる」


彼女が目を光らせアルスの一つ一つの動作に注目しているとカインは霧の中で妙な風の流れが発生したのを確認する


「どうやらそろそろ戦況が動きそうだよ」


霧が出現した時点で互いに大きく動かず相手の出方を伺っていたため膠着状態に陥っていた。しかし、一つの影が霧の中を駆け回っているのを観客席にいる者は認識した


(くっ、どうするべきか!?)


炎と氷の衝突により発生した霧は思ったよりも濃いため下手に動くと位置を知らせることになる。炎を出せば尚更自分の場所をアピールするようなものだ。そのため霧が晴れるまでは防御に専念していたが向こう側も同じ考えらしく動きが一切なかった。


しかし少し経つと自分の周囲の風が動いてるを感じ、より一層警戒心を高めた。恐らくすぐ近くに奴がいる


(感じろ。風の動きを)


全ての感覚を総動員させ風の流れを掴みアルスの現在地を掴む方に専念する


「……捉えた」


奴の現在地は俺の左斜め後ろ…… 風の流れが知らせてくれる、そこで足を止め奇襲を仕掛けてくると


「舐めすぎだ! アルス!!!」


手を伸ばし、感情を昂らせ、燃え盛る炎を解き放つ。

その熱風は霧を晴らすほどだった。


だが、紅蓮の予想に反し、そこにあった光景は紅蓮の炎により焼かれた地面だけだった


「なぜっ!」


敵意を感知し、振り向いたときにはもう遅かった


暴走光線レイジレーザー


紅蓮の懐に潜り込んだアルスの手によって魔力の本流が紅蓮を貫いていた。ダメージ変換システムにより紅蓮はそのまま気絶し、勝利を告げる合図が大きく音を鳴らした

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