第43話 好奇心の真実

あれから数日が経った


ヴェインはいつも通りに授業をし、いつも通りに振る舞っていた。だが、俺にはそうは見えない、挙動の一つ一つがいつもよりもぎこちないように見える。おそらくだが彼は隠し事をするのが苦手、もしくはした事がないと考えられる。ここでいう隠し事というのは自分の命や仲間の命に大きく関わるものだ


(これは手を打たないといけないな)


俺はあることを思いつき、携帯を取り出しメールを信頼できる人物に送った


翌朝、学園は休みではあるが教師には仕事がある。しかし学園長から仕事を休み、軍の本部に向かってくれというメールが届いていた


「どういうことだ……まさかアルスの件か?」


ヴェインは大急ぎで外に出る支度をし、家を飛び出た。自宅から本部までは電車一本で届く距離である。指定された時間よりも早く着き、受付の方で今回の呼び出し内容を伝える。受付は何かの確認をしたあと俺を案内するための魔法師を呼び出すので少し待ってほしいと伝えられたので、ロビーのソファに座り時を待った


二分後に長身の男が俺に話しかけてきた


「お待たせしてすみません。どうぞこちらに」


それだけ言い終えるとエレベーターの方向に歩き始めたのでその後を追うように立ち上がる。かなりの高さまでエレベーターは上がって行きある階層で止まると、男が「こちらです」と言い、廊下を歩いた


しばらくというほどではないが少し歩くと両開きの大きな扉の間に立ち、ノックを行う


「総帥、お連れしました」


「入れ」


扉の向こうから短い返答が返ってくると扉を開き、俺に入るよう促した。そこは広い部屋の真ん中に円形のテーブル、それを挟むようにしソファが配置しており、部屋の奥にはいかにもテーブルとその椅子に座ったご老人がこちらを見据えていた。さらに驚くことにソファには俺の最近の悩みの種である生徒が座っていた


「早かったですね、先生」


「なぜ……おまえがここに!」


「それは先生を呼び出したのは俺だからですよ」


驚きの発言をすると少年は組んでいた足をほどきこちらに視線を向ける


「さて、お話といきましょうか」


―――


「まずは謝罪を。あなたを縛るために爆弾を与えましたがどうやら先生はその道に関して全く才能がないようでしたので呼び出させていただきました。忙しいのにすみません」


「それで話とは一体? わざわざこんな場所で行う必要があるのか?」


俺はアルスの反対側に腰掛け、最初から思っていた疑問を口にする


「それはこちらから答えよう。こんな場所ではないと話せないレベルの内容だからだ」


総帥と思われる人物からそう返事を聞かされる


「っは……! 申し遅れました。私はヴェインと申します!」


あまりの驚きに名乗ることを忘れていた。元騎士ではあるが騎士としての矜持は残っているつもりだ


「構わんよ、俺はジェイルだ。皆には総帥と呼ばれているからそう呼んでくれたら助かる」


「さて、話を戻しますが、以前先生にお伝えした情報、あれは本来であれば総帥クラスでないと知ることが許されない情報なんですよ」


アルスは当然のように口を走らせる


「じゃあ、なぜそんな情報をわざわざ俺に?」


別にそこまで話させる気はなかった、ただ単純にどうやったのか聞きたかっただけだ。どうしても嫌というならこちらも無理に聞くつもりはなかった


「それはヴェイン、貴殿を囮にし教会の闇を引き摺り出すつもりだったんだ」


「はい!?」


いきなり聞かされた驚愕の事実に俺は声を上げずにはいられなかった


(どうしてそんなことになってるんだよ!?)


「どうしてそんなことを! って顔をしてますね先生。簡潔にまとめますと先生が元歴代最強の騎士団長だからですよ」


「騎士団を抜けたとはいえ一時は教会の傘下に入っていたはずだ。それもたった一人で強力な戦力になる人人物だ。それを教会が野放しにするとは考えにくい、ゆえに極秘の情報を持たせることでもし監視役がいるのであれば何かしら動きを見せると考えている。その尻尾を捕まえるつもりだったのだが、そう上手くはいかんな」


「ま、逆に言えば監視されているという選択肢を消すことができたのでいいんじゃないですか?」


全く緊張感のないようにアルスは相槌をする


「ヴェイン殿、貴殿に頼みたいことがあるがよいか?」


総帥は一息つくと再度口を開いた


「な、なんでしょうか?」


「仮に教会から何か接触があった場合こちらにすぐ連絡をしていただきたい。無論、誰にも気取られるようにだ。今回はアルスも付いているから何かあれば頼ればよい」


「できるんでしょうか? この俺に……」


違和感を一瞬で見抜かれた俺の演技に敵を騙すことはできるのだろうか? どうしてもそういった不安が芽生えてくる


「大丈夫ですよ、先生の振る舞いはほぼ完璧でした。ただ先生の不安から違和感を感じ取ったので仲間がいればそんな不安も払拭できると思います」


アルスのいう不安というのは先日の情報を俺一人で守り切れるかどうか、どこかおかしいとこはないかなどといったものだった。だが、こうして肯定してもらえたのならきっと大丈夫だ


「そうか……そうだな! よし、その件承った! 何かあればすぐに連絡する」


「ふむ、期待しているぞヴェイン殿」


「先生! なぜ教会を敵視しているかとか聞かないんですか?」


アルスが意地の悪い質問を投げてくる。そんなの当然こう返すに決まっている


「そんな闇の深そうなこと聞けるわけないだろうが、そういうのはもうこりごりだ」


俺は心からそう思ったのだった

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