第42話 好奇心の代償
(あと少しだな)
少年は周りの馬鹿げた量の魔力を調整しつつ、術式の解析を行う。そしてある程度魔力が収束し始めた段階で握っている棒に込められた術式を的に向けて解き放つ
その瞬間、まるで暴風に巻き込まれたかのような風圧が発生するとともに地面を抉りながら風の塊のようなものが的を破壊した。が、それで止まることはなく的の後ろにある壁と接触し、およそ一秒間の間、壁と拮抗するかのようにぶつかり合っている。
しかし、一秒経つと、風の塊は爆発し観客席を滅茶苦茶に破壊した
「これは……たまげたなぁ。まさか、あんなCAWでここまで威力を出せるなんてな……」
「ストレス発散です。俺の中にある魔力を全力で注ぎ込んだだけの力技ですよ」
「驚いたな、お前にそんな魔力量があるとは知らなかった」
それだけ言うと手に持つ端末に目を通し、試験の結果を確認する
「一応聞きたいんだが本気でやったんだよな?」
「えぇ、利用可能な技術と知恵をフル活用したつもりです」
当然のように俺は答える。第一、最初の時点で本気を出しても構わないと言われている時点で手加減する必要がどこにあるかと聞きたくなる
俺の力を過大評価し、ここの部屋を丸々破壊するなんてことを考えているなら不可能だと断言してやりたい。そもそもこんなCAWではそんなことは不可能だ。
「そうか。なら良いんだが……これ見てみろ」
手に持つ端末の画面へと向け、そこに映し出された数字を確認する
「四十点ですか……妥当じゃないですか?」
「あんなもの見せられて、はいそうですかって言えるほど俺は生徒のことを考えてないわけじゃねぇぞ。俺はお前らの先生だぞ」
「それでだ、お前の点数の低さを調べてみたら気になる項目だが出てきたのだが」
するすると手を動かし画面を操作すると、俺の点数の内訳が記載された画面が映される
「魔法式の正確さと構築速度が点数なし、ですか……」
「その通りだ。本来ならこんなことは絶対に有り得ない。どんな奴でも一点以上は出るようにしてある。点数なしなんてもんは全くそれに当てはまった行動をしていないということになる」
この試験は百点満点だ
魔力の構築速度、操作、魔法式の正確さがそれぞれ三十点
的の破壊はできるとは思われていないため、低めの十点満点とされている
この中で俺の獲得した点数は的の破壊と魔力操作の満点だけだ
ヴェインは小声で何か呟くと、空中に天秤のような物が出現する。片方の皿には黒い皿、反対には白い皿を乗せている
「何をした? 言っておくが嘘をつけばあの天秤の黒い皿が傾く。正直に答えてくれ」
(ここで変に誤魔化しても無駄だろうな。ま、この男がここまで熱くなるのはわかる。俺がやったのはこの部屋のシステム介入とほぼ同義なのだから)
この学校は国の認可が下りたことで特別なシステムが使えている。そのシステムには当然、強力なセキリュティがされており、魔力的な防衛とネットワークによる防衛の二段構えだ。それを易々と書き換えるなんてことはあってはならないのだ
(俺のこの技術がもしテロリストに漏れたら、国は滅茶苦茶になるだろうな)
今のこの社会は情報化社会と魔法社会が混ざったようなものである。ゆえに情報というのはとてつもなく貴重だ
「分かってますよ。最初から誤魔化すなんてことは考えてませんよ。強いて言うなら、あなたには共犯者になってもらおうと思っています」
「共犯者だと?」
「まずは最初の質問の答えから答えさせていただきます。俺がやったのは術式を解析し、そこから分解、俺の体に合うよう術式を再構築し発動させるといったものです」
「術式を解析だと……!?」
「俺が最初にCAWを握った時に術式を読み取らせてもらいましたがあれは俺には発動できません。ゆえに術式をバラすことをあの時点で決めていたんですよ」
「そんなことしたらお前分かってんのか!?」
国の機密システムの情報を丸々脳に流し込み、そこから一つずつ理解していく。言うのは簡単だが実際に行えるかというと不可能だ。なぜなら一秒間に何万もの情報が流れ込むはずだからだ。それが人間の脳が処理できるかどうかなんて答えは出ている
「廃人化する。そうならないように俺は俺自身を常に魔力で強化し、脳の処理速度を向上させ処理してただけのことです」
「そんなことをしたところで脳が耐えられるわけないだろう!」
ヴェインの言うことは正しい。だが俺はそんなこと
「俺がやったのはこの部屋のシステムだけをピンポイントで探り当てそこだけを解析を行ったまでです」
この部屋のシステムと部屋が生み出した独自の術式は繋がっている。本来であれば術式を解析しようとした時点で防衛機能で弾かれるがそれを突破すれば読み取ることもできる。そこからは根比べだ
「だから最初に魔力の枷を外し、こちらの方に集中できるようにしたんですよ」
「馬鹿げている……てか、ピンポイントで当てるというのも理解できねぇ」
「俺には術式情報の流れがある程度分かるんですよ。読み取るのではなく全体の情報の流れを掴み、目当てのものへと辿り着く、そこから解析を開始する。それだけですよ」
「お前があの老師と同じ特級魔法師と呼ばれることに今だけ納得してるぜ」
「それはありがとうございます。話を戻しますが俺が術式をいじりまくったせいで正確さと構築速度に影響が出た可能性が高いです」
「そうか……分かった! 点数通りにしておくさ。そういや共犯者ってのはどういう意味だったんだ?」
「先生は俺の力を知りすぎました。ですのでここで国が誇る最高のセキリュティを突破することのできる俺を見せることで先生の中での俺の存在を大きくする」
「……話が読めねぇな。はっきり言えよ」
「国の情報網を簡単に抜くことができる人物はあなたは知ることになる。そしてこのことを知っているのはあなただけだ」
この瞬間、凄まじい悪寒がヴェインを駆け巡った
「つまり、あなたはこれから学長の命令ではなく、自身のために俺の情報を秘匿しなければならない。もしあなたが俺のこの情報に繋がることが知られれば、犯罪者どもがどんな汚い手を使って吐かせようとするか。そう、例えばあなたは強いですからあなたの周りの人物に手をかける可能性とか」
「てめぇ、やりやがったな……」
「死ぬ気で秘匿してくださいね、さもないと不幸な運命が待っているかもしれないですよ? ですから互いに頑張りましょう! 共犯者として!」
アルスはそう言い残すと、出口の方へと向かい始める
(あんたは知ろうとしすぎた、強すぎる好奇心への報いだ)
アルスが去った後でも未だヴェインは突然爆弾を背負わされたことで理解が追いつかずその場で立ち続けていた。その頭上で何かが動くことがする。それに気づき、見上げると天秤の黒い皿が黒く輝き、深く傾いていた
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