第41話 テストの準備

――放課後


今日の授業は全て終了し、各々がそれぞれの目的のために教室を出たりもしくはそのまま居残り、勉強している様子が窺えた


「じゃ、俺部活あるから!」


ナオトはそれだけ告げると颯爽と教室を出て行く


「部活なんてもんあったんだな」


「何当たり前なこと言ってんのよあんたは」


かなり呆れた様子でリーナが返事をする


「アルスさんが入院してる間に部活の勧誘だとか体験入部とかいろいろあったんですよ」


「へーそうなのか。ちなみにカグヤは何かの部に入っているのか?」


「いえ、私は未所属です。色々勧誘はありましたがアルスさん無しで判断するのは早計だと思いまして」


「いちいち俺を気にする必要はないんだぞ? カグヤの好きなようにしたらいいじゃないか」


「そうよそうよ。もし何だったら私が風紀委員長に口添えして入れてもらえるようにしてあげよっか? あなたぐらいの実力があれば大歓迎のはずよ」


「風紀委員長? 部長じゃなくてか?」


「あ、アルスさんは知りませんでしたね。風紀委員には直属の部活みたいなものがありまして、そこに入るには風紀委員であることが必要なんですよ」


リーナの横に立っていたリンが補足の説明を始めた


「その部活の内容はどういったものなんだ?」


「各部活の活動を報告するのと、学校内で問題が起きた場合それに対処するといったものですね」


「それって部活である必要があるのか?」


話を聞く限り、どう考えても部活が必要だとは思えない


「委員会というのはあくまで学校での行事に干渉する役割です。放課後となれば話が少し変わってきます」


(面倒なシステムだな)


「要するに放課後も同じように権限を使えるようにするための口実として部活を作ったというわけか」


リンは肯定するかのように頷く


「てかあんた、いつまでもここで話してていいの? 追試はどうすんのよ?」


「そうだな。そろそろ俺も行くか」


カバンとケースを手に取り、席から立ち上がる


「あ、悪いんだけどカグヤ、先に帰っててくれないか?」


「私は時間に余裕がありますし追試が終わるまで待ちますよ?」


「ありがたいんだけど、朝来た連絡によるとかなり時間かかるらしいんだ」


「わかりました……」


しょんぼりとした様子でカグヤは返事をする。その様子を見たリーナが口を開く


「だったら私たちと街に遊びに行かない!? 今日はオフだから時間だけは余ってるのよ」


「リーナさんオススメのスイーツ店があるらしいので是非一緒に行きませんか?」


「そう、ですわね」


(良かった。パートナーと依存を履き違えてらわけじゃないみたいだな)


二人の誘いを断るのかと一瞬思ったがどうやらそういったことにはならなかったようだ


「じゃ、三人とも楽しんでこいよ」


それだけ告げると教室から去り、連絡にあった模擬試合場へと向かった


―――


入り口の前まできた俺はデバイスをドアのロックにかざし入室許可を申請する


「追試対象の生徒アルス・クロニムルだと確認。申請を許可します」


機械的な声でそう告げるとドアが開いたので中へと入る。その場所は相変わらず、殺風景で目につくものがあるとすれば今いる場所を大きく取り囲むように配置してある見学席だ


「パッと見何もないが、情報さえ入力できたらどんな戦場や魔物も再現できるのはすごい技術だな」


こういった技術を私的目的で使うことを許されているのは高名な魔法師か軍や国が直接運営している学園だけだ


(うちの家でも似たようなものが使えるってことはクロニムル家も名は知れてるはずだ。だとしたら少し妙だな)


アルスは入学当時、名前を特に偽ることなく入ったため、注目の的にされるかと思っていたが実際はそんなことは一切なく普通に接してくれる人ばかりだった


(色々と対策を考えてたが無駄になってしまったようだな)


アルスがそう考えてると後方のドアが開き、ヴェインが姿を表す


「予定の時間より早くきたつもりだがちょいと遅かったか」


「いえ、俺も今来たばかりです」


「ならよかった」と言いながら手に持っている端末を操作すると空中に棒のような物が出現する


「これは……CAWですか?」


「その通りだ。まず最初に俺が指定するCAWの起動を行ってもらい魔法を発動してもらう」


そう言い終えると模擬試合場の奥側に的のような物が魔力によって形作られていく


「そして発動させた魔法をあれに向かって行使し、壊する。やること自体は簡単だろ?」


「確かにそうですね。だとしたらこのCAWに何かしら細工がしてあるってことですか」


俺は空中に出現したCAWを手に取り、何か妙な物が仕組まれていないか観察する


「おいおい、別に何も細工してねぇよ。ただそのCAWは魔力を弾きやすい素材、ミスリルで作られている。そして魔法を発動させる条件に魔力でCAWを覆い、CAW自体を強化しなければならないというものがある。……どういうことかわかるだろ?」


「そういうことですか。確かにここにいる学生たちの実力を考えたら魔法を発動させた時点で充分でしょうね。そもそも現実ではそんな物でCAWを作らないし、作ることができないじゃないですか。それなのにここのシステムを使って無理やりそういうCAWを作成し、運用する。よく考えましたね」


(これはテストに見せかけた超高度な訓練の一つだ。この内容の訓練を行えば、魔力操作はもちろん、魔法の正確さや速度の向上すらも期待できる。ただ一つ欠点があるとしたら……)


俺は学生の顔ではなく、裏の顔で目の前にいる教師をにらみつける


「そんな目で教師を見るなよ。……わーってるよ。まだ未熟なあいつらじゃ魔力器官の負担が大きすぎるからな。だからテストってことで年に数回しか行わない。あいつらはテストで良い点取るために様々な方法で自分を磨こうとするはずだ。それを逆手に取って鬼畜なテストを用意させたってわけだ」


(ただでさえミスリルは魔力と相性が悪い。そんなものに魔力を流し込み魔法を発動させようもんなら凄まじい反作用が行使した者に襲いかかるだろう)


「ちなみに刻印されている魔法式は射撃系魔法だ。発動させた後は距離を計算し、威力を調整して放つ。これが魔法実技のテストの前半だ」


「後半もあるんですか……しかし的に当てられる学生なんているんですか? CAWのことも考えたらこの距離は軍人でもかなり厳しいと思いますけど」


アルスたちが立っている地点から大体50メートル程度だ。的もかなり小さいから、当たることは困難だろう


「今年は二人だけだな」


「それってカグヤとカインのことですか?」


「それは言えないな。プライバシーの問題があるからな」


一通り説明をし終えたヴェインは端末を操作し、俺に準備を促す


「質問はもうないか? だったら始めたいと思う。これは全員に言っていることだからお前にも言っておくぞ。点数は魔力操作、魔力を流し始めてからの魔法式の構築速度、魔法式の正確さと、的の破壊度、で自動的に出されるようになっている。ちなみに魔法式はある程度術式が正確でなくても発動できるようになっているからな」


(つまり、できるだけ素早くかつ正確に魔法を発動させ、刻まれた術式で的を破壊できるかどうかってわけだな)


「最後に質問して良いか?」


「なんだ?」


「手を抜いても良いか? あまり目立つようなことはできないからな」


そう聞くとヴェインは顎に手を当て考える素振りをこちらに見せる


「お前の立場は充分理解しているが、一応本気でやってもらうぞ。馬鹿みたいな点数を取られるよりも高得点を取ってもらって、そこから俺が調整した方がもしバレた際に色々と誤魔化しやすいからな」


アルスは現在、軍所属の特級魔法師である。これは軍の中でも秘匿されており、極僅かな人間しか知り得ることのない情報だ。ゆえにどんな小さな可能性でも潰しておく必要があるのだ


「それにお前は学園生活の中でも力を見せつけるわけでもなく平凡に収めているみたいだし、こちらも調整しやすい」


「ありがとうございます。では始めてもらっても大丈夫です」


「そうか、だったら始めるぞ」


ヴェインは何か操作をするとカウントダウンが出現し一気に緊張感が増す


(あくまでこれは学園のテストだ。だが、本気を出しても構わないというのなら……)


どんな場面でも力をセーブしていた分、少しばかりアルスにもストレスが溜まっている。それを発散させるかのように大量の魔力が全身へと行き渡るのを感じ、CAWに流す準備を完了させる。自らが封印している魔力の枷すらも少し外し、魔力の足しにする。そしてカウンドダウンの0の合図とともにアルスの周囲に魔力の奔流が立ち昇る


(おいおい……うそだろ? これは……)


驚くヴェインの目に映ったのはありえない量の、人間の限界を越えた魔力を立ち昇らせた少年の姿だった

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