第40話 再び学園へ
「あ、アルスじゃない! 事故の怪我はもう大丈夫なの!?」
朝早くに俺が教室に入ると馬鹿でかい声で話しかけてくる少女がいた。
「見ての通り、もう大丈夫だ。というより今のお前の声で耳が潰れたかもしれん」
シヴァによると俺は魔法の実験で大事故を起こし、入院したことになっている。
「何よそれ! 心配して損した!」
「ふふ、朝から元気ですね。リーナ」
「おはよーカグヤ。二週間ぐらい入院していた割には意外と元気で驚いたわよ」
「アルスさんは頑丈なんですよ」
「俺の数少ない取り柄だ」
そう言いながら自分の席に着く。そして学校から配布された端末を起動させ、俺がいない二週間、どういった授業などをしていたのかログを確認した。その中に一つ興味が惹かれるものが書かれている。
「なぁカグヤ、この《魔法学戦》って何なんだ?」
「各国から代表の魔法師を選び、魔法を使った競技で争わせる、といったものですね」
「ちょっ、カグヤ言い方がちょっと怖いわよ」
リーナのツッコミにカグヤは笑顔で返す。
「んで、これってどうやって代表を決めるんだ?」
二人に質問をしたタイミングで後ろから声が聞こえてくる
「魔法実技のテストの点数、そして座学の点数をもとに代表が選ばれます。魔法師のデバイス調整を担当する魔法技師はこれらに加え、CAWの調整のテストがあります」
わかりやすくかつ、機械的に返してくれたのは顔なじみの少女だった
「あ、リン、勉強は教え終わったの?」
「はい、あの子たちの覚えが良かったのでスムーズに教えられました」
リンは俺たちが来る前から友達に勉強を教えていたらしい。どうやら、学力はクラスの中でもかなり良いと噂になっており、時折、勉強を教えてほしいと頼まれることがあるらしい。
「だとしたら、競技を行う魔法師、そして補助を担う魔法技師がそれぞれ学年から選ばれるってことだな?」
「その通りです」
「ちなみにそれって決まってたりするのか?」
「ほとんどはもう決まってるわよ。なにせ魔法学戦まであと一ヶ月なんだから」
「意外と早いな。いや、妥当か」
(俺がいない間に色々と話が進んでいるみたいだな)
するとカグヤが俺の考えを代弁するかのように言葉を話す。
「あくまで魔法学戦は自分の国の魔法師の育成状況を見せ合う行事に過ぎません。それにメインとなるのは進路に関わってくる三年生だけですので、一年生はおまけ程度で見られると思います」
「でもよぉ! 今年は特別らしいぜ!」
「ナオトか……お前もあんまり変わらないな」
「久しぶりだなアルス、元気そうだな!」
「まぁな。で、特別ってのは一体?」
「今年はちょうど俺ら英雄の世代が学園やら学校に入学し、魔法師として最初の一歩を踏み出すだろう? そのことを企業やらが把握していないわけがない!」
「つまり、今年は特別な才能を持った生徒がゴロゴロいるから今のうちに目星をつけておくってとこか」
「そ!」
ナオトはわざわざ俺の顔の前で指パッチンを両手でしながら返事をする。その際にある少女と目が合う。ロザリーだ。ロザリーはこちらに向かって軽く手を振り、そしてまた、友人たちの方へと視線を移す。
「……なぁ、さっきから感じてたんだが俺ってかなり注目されてないか?」
「当然じゃない、学園生活が始まって早々、事故で入院するとかどんだけ目立ちたがり屋なの」
「俺はそんなの1ミリも考えてないんだがな」
「そういや、魔法の実験の失敗って先生言ってたけど一体どんな魔法の実験したの? まさか超級魔法だつたりする?」
冗談まじりにリーナは俺へと疑問を投げかける。ナオトもリンも興味深そうにこちらを見つめる
「あー……あれだ! 灰色の魔力を使った黒と白を除いた全属性合成魔法の練習だ。急に制御が効かなくなってボンっ!ってわけだ」
「確かに一つの魔力から複合魔力を作り出すなんて至難の技だしね……ってあんた! 一体どんなことしたかわかってるの!? 一歩間違えれば二度と魔法が使えなくなるかもしれなかったじゃない!」
得意の属性以外の魔力が合わされば、その分魔力を司る臓器にも負担がかかる
「仕方ないだろ。俺は灰色だ。他の色よりも器用貧乏な分、何か尖ったものが必要なんだよ」
灰色の魔力の現実を突きつけながらリーナに言葉を返す。
「そんな俺が超級魔法だなんて、無理に決まってるだろ。あれは魔法の規模が圧倒的に違う」
(ん? 自虐ネタが濃すぎたか?)
微妙な空気になったのを天が察したのか、ホームルームを告げる予鈴が鳴り響き、それぞれが席へと着く。ドアの方から眠そうな担任が入室し、出席確認を済ませる
「ありゃ? 今日がアルスの登校日だったか。これで全員揃ったな。よーし! 朝のホームルームを始めるぞー」
重要な情報は端末にも連絡が来ているため、特に気に留める事もなく話を聞き流した
「そうそう、アルスは追試があるからな。お前は放課後に魔法実技のテストを受けてもらうから残るように。では解散」
最後にそう伝え、ヴェインは退室していく。
「追試とは残念だなアルス」
「ニヤニヤしながら寄るな」
意地が悪そうな笑顔でナオトがこちらを見てくるのでそのまま視線を外した。するとピコンと、端末が鳴る音がする
「俺だけか?」
そう口を漏らすと
「そうみたいね」とリーナが俺の端末に何の連絡なのか確認するよう促す
「学校配布の端末で、個人で連絡を飛ばしてくるなんてかなりレアな状況よ」
「そうなのか」
内容はとても簡単なものだった。《魔法学戦のことで話があるので放課後のテストが終わり次第、校長室へくるように》とのことだ。当然この情報はカグヤ以外に知らせることはできない
「追試の補足だ。大したことない」
「へー……」
どうやらリーナは少し怪しげに思っているみたいだ
「それよりも次の授業の準備をしなくていいのか? 別の教室じゃなかったか?」
「そうね。確か、魔法を用いた実験だったからCAWが必要だったわね」
(何か勘づかれたか?)
わずかにリーナから感じた違和感はとても小さいものだったが、今の俺にはそう簡単に割り切れるものだとは思えなかった
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