第35話 目覚め
目が覚めるとそこは白い天井が見えた。周りを見渡すと簡素な机に白いカーテン、呼び出しボタンのようなものとテレビがある。窓からは太陽の光が差し込んでいる。
「ここは……病院か……」
体をゆっくりと起こそうとするが上手く動かない。そして俺の足に何かな乗っいるような感覚を感じる。目を移すとそこには一人の少女が眠っていた。
「う〜ん……はっ……! アルスさん!」
カグヤは俺が起き上がるのを感じたのかすぐさま顔を上げ、姿勢を整えた。
「おう、おはようカグヤ」
時計は七を指しているから朝のはずだ。時間の確認をしていると突然カグヤは瞳から一筋の涙を流し抱きついてきた。
「アルスさん! 本当によかった!」
「そこまでしなくてもいいって」
いきなり抱きつかれたもんだからこっちも恥ずかしい。
「悪いなカグヤ、俺はどれくらい寝ていた?」
カグヤは体をゆっくりと離し答える。
「二週間です。二週間の間アルスさんはずっと眠ったままでした」
「なっ、二週間も眠ってたのか!?」
体感では一日か二日程度だと思っていたが大きく予想が外れた。
「ええ、あのあと剣聖の方が連れてきた部隊が仮面の方とアルスさんたちを病院まで送りました」
仮面の男だと? カインは仮面を外してから倒れたはずだからつけているわけがない。
「仮面の男の正体を見てないのか?」
「はい。私が見に行った時も仮面をつけたままでした」
(なるほど。恐らくカインの正体をバラさないためにも新しい仮面でもつけたのか)
「そうか、カグヤは傷の方は完治したのか?」
見た感じ、最後に見たときの火傷などは見当たらないがどこか骨が折れているかもしれない
「外傷の方は治癒師の方の回復魔法で完治しました。ですがダメージの方はまだ残っていますので腕と足が少し痛む時がありますね」
高位の治癒師ならそういったダメージもすぐに完治できるがそういった人物がこの世界にゴロゴロいるわけではない。
「学校は一体どうなっている?」
「一応、私は外傷が治ってからは通っています。アルスさんのことは家の用事ということになっていました」
「総帥が学園長に掛け合ってくれたと見るべきか……」
俺たちが話していると、この部屋のドアが空きある人物が姿を見せる。
「ふむ、目覚めたようですね」
その人物は俺の武術の師匠であるシヴァ・ハーネリアだった。
「シヴァさん、あいつは?」
カインについて尋ねる。
「あのお方なら別の病院に運ばれましたよ。中々元気な子でしたよ。かなりのダメージを受けているにも関わらずあなたよりも先に目を覚ましましたよ」
本来、複数人で行う魔法を一人で行った上に戦略級の召喚魔法で自分の身を媒体にしたのだ。当然ダメージが小さいわけがない。
なのに俺よりも先に目覚めたってことは何かしらの魔法でもあらかじめかけていたのではないかと疑ってしまう。
「何が起きたのか説明してくれませんか?」
「そのつもりでこちらにきました」
するとゆっくりとシヴァさんは話し始める。
「義賊についてですがこのアルテマ国の要請を一つだけ優先的に受けるという条件で義賊の罪を全て帳消しにしてこちらの傘下へと入りました」
「アーカルム帝国が俺たちの国に借りを作ったのか……」
アーカルム帝国は他の四カ国とは比べものにならないほどの戦力がある。それに加えて他国との貿易に頼る必要がないほど国が豊かでもある。ゆえに借りを作るなんてことまず有り得ない。しかしその力を一時的とは借りることができる条件が罪を帳消しにする程度で済むなら安いものだ。
「義賊は前までと同じように活動をするのですがその際に一旦、元首に証拠を渡しそれが認められたら罰を与えることができるということになっています」
「だがそれでは騎士団と変わらないのでは?」
「そこがポイントですよ。義賊は証拠が元首に認められた場合強制捜査を入れることができるんですよ。その介入は元首の特権として誰にも邪魔されることはありません」
「なるほどな……しかしそれでは義賊の言っている社会のクズと呼ばれているようなやつらが再び出てくるのではないか?」
「そうなります。ですが義賊に与えられたもう一つの特権が働きます。それは義賊が処罰の内容を考えることができるというものです」
「待てっ! それでは前と同じではないのか?」
義賊が処罰の内容を決められるということは帝国の傘下に入る前とやることは同じになる。
「いえそうはならないのです。処罰の内容を提出する際に証拠の情報をもとにして非人道的な行為を行ったのならそれにふさわしいものをそうでないのならそれ相応の処罰を下すこと。これが条件として義賊に求められました」
「それでやりすぎにならないように防いだつもりなのか……」
話を聞く限りでは元首と義賊だけで事を済ませるようなものだ
「お嬢様が決めたことですから。国からは命令は出さないというのも条件にはなっています。それは義賊としてのアイデンティティを残すためらしいですよ」
だが俺はどうも納得することができない。奴らは国という後ろ盾を得た上で好き放題するのではないかと疑っているのだ。
「そう、不安な顔をしないでください。そのために私がお嬢様のお側に仕えてるのですから。国の損害になるようなことがあれば私がなんとかしますので」
「シヴァさんがそう言うのなら俺は何も言わないよ」
シヴァさんはゆっくりと笑う
「お話が長くなりましたね、では私は国の方へと帰らせていただきます」
俺とカグヤが帰りの挨拶を済ませると俺は端末を手にした。
「カグヤ、そろそろ学校の時間ではないのか?」
日付を見ると今日は休みの日ではない。このままここにいたら間に合わなくなる。すると俺の空いた手を両手で握り口を開く。
「今日は休むことにします」
「なんでだ? 俺はもう大丈夫だし成績にも関わるだろ? 無理してここにいる必要はないんだぞ」
「今日だけはアルスさんとずっと一緒にいたいです」
そう言うカグヤの笑顔はいつものような作り笑顔ではなく思わず見惚れるような本当の笑顔のように見えた。
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