第34話 暴竜王との邂逅

――そこは白に支配された世界だった


その場所には何もなく距離という概念もないように感じた。しかし俺の目の前には一つだけ黒い人のようなものが立っている。影の塊みたいだ。


「ここはどこなんだ……」


思わず口にしてしまう。


「ここはお前の意識の中に我が作り出した世界だ」


目の前にいるものがその呟きに答える。


「それは一体どういう……それにお前は何者なんだ!」


「我はバハムート、いやこいつを見せた方がわかりやすいか」


そう言い神器を出現させる。


「なるほどな。お前が意識というやつか……それで何もできない俺のことを乗っとるつもりか?」


すると大きな声で笑い始めた。


「我がそんなことするわけなかろう! それをするのはよほどたちの悪いやつだけだ!」


「それに我はお前と昔に契約し全て力を託している。今さらそんなことをする理由もない」


「そうだったのか」


俺にはそういった契約を結んだ記憶がない。恐らく俺の過去に失った記憶の一つなんだろう。するとその影は姿を変えていきアルスそっくりへと変化した。


「だがそうなったら一つ疑問が出てくる。なぜ俺はお前を見つけ出すことができたのだ?」


「あーそれについては我がお前の無意識に干渉して誘導させた」


軍の任務の途中で俺は神器を見つけ出したのだがその時にはなぜか自分の物だったという確信があった。


「そんなことできたのか。だが力を全て託したんじゃないのか?」


「その程度のことなら余裕だ」


無意識に干渉するなんてことをその程度と言い張れるとは驚きだ。


「まさか覚えてないのか?」


ゆっくりこちらへと近づき手を頭に置く。


「これは……消されたのか」


「なにっ? 今なんと言った?」


今こいつは俺の記憶のことを消されたと言ったのか。


「どうやら気付いていなかったみたいだな」


当然だ、俺は転生時の記憶がないのだから。


「おい! それはどういうことなんだ!」


「我には言われてもわからぬ。ただ一つはっきり言えるのは我が見ていた限りでは魔王を倒してもまともな平和なんてものが訪れることはなかったぞ」


神器のアルスは空中で文字を書きこちらへと見せた。


《異能 過去の英雄》


「これがお前の異能の名前だ。異能名がなかったら困ることもあるだろう。今のこの世界ではな」


「話を逸らすなっ!」


俺は感情のままに神器のアルスの胸ぐらを掴んだ。


「我は見ていただけだ。詳しいことは知らぬ。知りたいなら自分の力で見つけ出せ」


そう言うとその手で俺の手を離した。


「話を戻すぞ。この異能なんだが簡単に言えば前世のお前のを全て引き継ぐことができるといった内容だ」


それは知っている。剣の技も魔法の使い方も自然と分かったのだから。


「運が良かったな。お前の魔力が灰色という性質が曖昧なものではなかったら、使い方が分かったとしても一部使えないものもでてくる。終獄炎オメガヘルブレイズがそうだ」


「それをわざわざ話して何になる?」


「お前は自分の力と今できることの差を知らない。現に時間喰らいタイムイーターの反動で倒れただろう?」


「それはそうだが……」


正論を言い放つこの男に何も言い返すことができない。


「力の使い方を考えろ。あれは時間に干渉するものだ。そんなものが魔力を支払うだけで簡単に使えるわかないだろう。今のままだったらいずれ身を滅ぼすことになるぞ?」


しかし一つ気になることがある。


「なぜ今になってそんな忠告をしてきたんだ? 悪神竜を倒した際にもかなりの回数、異能を酷使したと思うのだが」


「あの時はまだ大丈夫だったんだ。だがお前がやつを倒す際に使ったもう一つの異能が厄介でな、その反動でお前は神器の力を使った際の反動が何倍にも膨れ上がっているんだ」


もう一つの異能というものにもいまいちピンと来ない。そんな力を使ったとは思うのだが悪神竜との戦いの途中から記憶にモヤがかかり上手く思い出せない。


「とはいえ時間喰らいタイムイーターだけでは身を滅ぼすなんてことはない。その先にある神器の力を解放した際のことも考えて今のうちに言っておくだけだ」


「まだ隠し技があるのか?」


神器の力は異能の補助と魔法の発動補助程度としか思っていなかった。


「言っただろう? お前に全ての力を授けたんだ。まさかその力をほとんど身に宿すなんてことできるとは思っていなかったが」


「それを聞いて俺も初めて知った」


「今のお前は昔のお前が持っていた《無限の器》に加えて未知の異能を持っている状態だ。と言っても無限の器は我の力で全て埋まってしまったがな」


そう告げるとアルスとは思えない笑い方をする。


「良いか? 我の魔力はもうお前のものだ。だがそれを使う際にはとてつもない反動が襲う。だから使うタイミングはよく考えろ。これだけは覚えておけ」


言い終えると同時に世界が壊れ始めた。


「お前と我がこうして長く話すことができたのはお前が大量に我が力を使ったからこちらから干渉できた。だがそれは今回限りにさせてもらうぞ」


「なぜなんだ!?」


バハムートは笑う。


「我は本来もう存在していないようなものだ。それを神器に意識だけを無理やり押し込めたたけだ。こうして会話ができるのは一時的にお前の体を支配しているからだ。つまり世界のルールを無理やりねじ曲げている」


「おまえっ! さっきは乗っ取るつもりはないって!」


「今みたいにそう興奮するだろ? お前には伝えるべきことは全て伝えた」


「……分かった。色々とすまなかったな。おかげでわからなかったことも一つわかったしな」


世界はどんどん壊れていき、俺たちのとこまでその破壊は迫っていた。


「ふむ、どうやらそろそろ目覚める時が来たようだな。ではまたな、契約者よ。再び会うようなことがないよう願っているぞ」


そして俺は再度意識を落とした。

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