第33話 結着

アルスは放出した魔力を全て神器に圧縮させ呟く。


時間喰らいタイムイーター


すると周りの流れる風や木が揺れる音、全てがスローになっているようにカインに見えた。


(僕の時間を奪うんじゃなくて周囲から奪って加速するつもりか?)


そう予測したカインは自分に時間加速タイムアクセラレータをかける。それと同時に大量の魔力を使用し、空中に巨大な魔法陣を出現させる。


黒炎の太陽ヘル・サン


(魔族専用魔法の中でも強力なものだ! どう出るっ! アルスさん!)


黒い太陽のようなものが空を覆い地上へと落下する。


「避けれるものなら避けてみることだね。もちろん僕はこの魔法の影響を受けないから、一人で死ぬことになるよ」


(範囲攻撃か)


確かにこの規模なら加速を使って逃げきれるかどうか怪しいラインだ。だがアルスは逃げるのではなく逆に太陽へと向かっていく。


終獄炎オメガヘルブレイズ


持っている剣を黒い炎が覆い、時間が経つたびに炎の勢いが増してゆく。


「その程度じゃこの太陽は落とせないよっ!」


「試してみるか?」


アルスは持っている剣を太陽へと向けて振り払い、纏っている炎を太陽にぶつけた。


「なっ……どういうことだっ!」


太陽は黒い炎と接触すると全て飲み込まれ爆発する。その爆風は周囲の木々を大きく揺らす。


アルスは地面を蹴りカインへと肉薄する。


「くっ!」


最初の一撃を防ぎ、そこから何度も剣をぶつけ合いその速さは次第に増していく。


「お前の剣は大体わかった。時間喰らいタイムイーター


その一言とともに剣の威力が爆発的に増す。アルスの剣を受け切ることができずカインは近くの木へと叩きつけられる。


「がはっ!」


竜の力ドラゴニックパワーで強化しているぼくが押し切られるだとっ……!?)


カインは魔法陣を出現させ傷を癒そうとする。しかしそれをアルスが許さなかった。


氷結世界コキュートス


神器に魔力を込めると魔法が発動し、ありとあらゆる場所を凍てつかせた。


(これはまずい!)


魔法の強さには《下級》 《中級》 《上級》 《最上級》 《戦略級》という順番がある。


学生なら中級と上級数種類を、軍の魔法師なら上級の魔法を十種類程度取得していたら十分優秀な部類に入る。


最上級以上に関してはその難易度の高さと強力な効果から一つでも行使可能なら戦力として大きく期待される。


そしてこの最上級魔法の恐ろしさを知っているからこそカインは焦った。これはただ周りを凍らせるだけではない。


「やれ」


アルスが合図を出すと凍てついた地面から氷の刃が伸びカインを突き刺そうとする。これは凍らせた領域を自分の支配下におき、そこから自由に攻撃が行える最上級魔法だ。さらにその冷気はあらゆる生命体の活動を鈍らせる。


だがあらかじめ強化魔法をかけていたカインは空中へと飛ぶことでそれを回避した。しかし


「そうくるだろうと思ったさ」


カインよりも少し高い場所にアルスがいた。自身を加速させてるとはいえ空中では身動きができない。そんな隙だらけのカインにアルスは蹴りを叩き込む。


(まずいっ!)


カインは真っ直ぐ地面へと叩きつけられた。魔力で強化しているとはいえ全身の骨までその衝撃が伝わる。


「終わりだ、終獄炎オメガヘルブレイズ


空中にいるアルスはそのまま片手に黒い炎の塊を生成すると地面へと投げつける。


(みんなのためにも負けるわけにはいかないんだっ!)


僕は流れる魔力を全て使いある魔法を行使した。


―――


「いったい……何が起きてますのっ……!?」


私は朦朧とした意識の中音の鳴る方向へと足を進め続けている。その音はこちらが歩みを進めるたびに大きくなっていく。常識では考えられないような何かが起きているのは間違いない


決め手はあの黒い太陽だ。こちらにもしっかりと視認できたがその太陽は黒い何かに飲み込まれ消えていったのだ。


そして私は足を止める


「ア……アルスさん……?」


私の目に移ったのは空中で誰かが誰かを叩き落とし黒い炎を作り出している光景だった。


―――


「何をした?」


俺の魔法は確かにやつに当たったはずだ。だが予想していたものとは違い、そこにいたのは白い天使のような六枚の羽を生やしたカインだった。


「戦略級儀式魔法 熾天使降臨サモンセラフィムだよ」


「へぇ……そんなものまで一人で行使可能なのか」


俺は一度地面に着地し、カインのその変化に驚いた。まさかここまで無理をするとは思わなかったからだ。


この儀式魔法というのは複数人によって術式を組み上げることで発動ができる魔法だ。俺も例外ではなくその術式の規模から一人で発動させるのは不可能だ。だが目の前にいる男はそれを実現させている。


「まあこればかりは発動できるか怪しかったけど何とか成功したみたいだね」


「ちなみに聞くが体はもつのか?」


本来この熾天使降臨サモンセラフィムは天使を召喚するもの。体に宿すなんて真似したら当然体が持つわけがない


「正直言ってこの状態を維持しているのも結構辛いよ。だけど力だけは溢れてくる」


カインは刀を空間にしまい虚空から神々しい剣を出現させこちらに向ける。


「アルスさん幕引きといこうか?」



その言葉を合図にお互い一気に距離を詰める。


「「はぁぁぁぁ!」」


カインの剣が光のような速さで振るわれるがそれを受け止め力を流す要領で隙を作り斬りかかる。しかしそれを光の障壁で防ぎそのまま魔法を行使する。


光の裁きジャッジメント!」


上空に巨大な魔法陣が出現しそこから光の裁きが俺へと下される。


時間喰らいタイムイーター 黒の領域ブラックゾーン!」


俺が異能と魔法を行使すると巨大な闇が体を包み込み光から守った。


「どうやら君の異能は時間の加速ってわけじゃなかったんだね」


流石にあの規模の魔法を防御魔法で防ぎ切ることはできない。やつが俺の異能が加速だけではないと判断したのは、恐らく俺の周囲の時間の流れが遅くなっているのを見られたからだろう。



「気づいたみたいだな。だから半分と言ったんだ」


「なるほどね。 さっきの魔法の妙な魔力強化を見る限り、本当の君の異能は減速させる時間の分だけ事象を圧縮する能力ってとこだろ?」


「百点満点の解答だ」


アルスの本来の異能は使用後に減速させる時間の分だけ次の一瞬を強化するというものだ。いわゆる時間の圧縮強化だ。普通に使えば当然目立つため移動の圧縮強化にしか用いていなかったがこの天使相手には通じないらしい。


「剣で吹き飛ばされたのもそれが原因だったってことか。道理でありえない威力だったよ」


その言葉を聞きながらアルスは異能を発動させ自身を加速させるとカインへと再び向かってゆく。カインはその動きを一瞬だけ捉えることができず、わずかに隙が生まれる。


「油断したな」


俺は一瞬で次々に魔法式を組み上げると魔法を発動させていく。


終獄炎オメガヘルブレイズ! 雷帝! 炎王咆哮インフェルノロアー


「くっ……この力でもその炎を防ぐのはできないらしいなっ」


カインは光の障壁を展開するが一瞬で黒炎に飲み込まれ、後に発動された魔法が直撃していくように見えた。


「だが! それでも僕は負けない!」


しかし天使の力で別の魔力障壁を展開し後から放たれた魔法も無力化していた。カインから放たれていた光が剣へと集い一筋の光を作り出す。


「面白い!」


俺は黒炎を剣に纏わせ異能の力で爆発的に火力を上昇させる。異能の指定する事象の一つに魔法も含まれているため剣に纏われた炎はその火力を維持できている。


「アルスッ!」 「カインッ!」


互いに全力の力をぶつけるため大地を蹴り肉薄する。そしてその光と闇がぶつかる刹那、遥か上空から何かがとてつもない速さで落下し俺たちの間に割り込む。


そしてその割り込んだは俺とカインの攻撃を同時に受け止めていた。


(俺の黒炎とカインの天使の力をかき消した!?)


「そこまでですよ」


「あなたはっ……!?」


俺は立っている人物に見覚えがあった


「久しぶりですね。アルス」


立っていたのは俺の師匠であるシヴァ・ハーネリアだった。


「いきなりで悪いですが義賊はアーカルム帝国の特殊部隊として傘下に入りました。まだ戦いを続けるなら両国のためにも私がお相手しますよ」


「剣聖かっ!? いきなり何を言い出すんだっ! そんなの聞いてないぞ!」


「色々とありましてね。あなたはシェラというお方に感謝すべきですよ? どうせ立つこともやっとの状態でしょ?」


「何を言ってっ……!」


その言葉を言い終える前にカインは倒れた。それと同時に天使の魔力も全て消え去りカインの魔力も全て消えていた。


「アルスさんお話は後です」


「……わかりました」


俺は魔力を納め神器も収納した、すると激しい痛みが全身を襲い、立つことができなかった。その痛みは肉体的なダメージだけではなく精神が大きくすり減らされるようなものだ。


(異能の副作用かっ!)


「アルスさんっ!」


森の方から一人の少女がこちらに駆け寄ってくる。


「カグヤか……」


その見た目はいつものような美しい姿ではなく至る所に傷があり、かなりボロボロだった。少女へと俺は手を伸ばし頬へと触れる。


「大丈夫か……」


「私は大丈夫ですっ! それよりアルスさんの方が……!」


俺なんかのために涙を流してくれているみたいだ。カグヤは無事?とは言えないが生き延びてくれたことに安堵した途端、途中から言葉を聞き取るのが難しくなり俺はそのまま意識を深い闇の中へと落とす。

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