第32話 仮面の正体
「アルスさんの元へっ……行かなければっ!」
ユナに勝利したカグヤは一秒でも早くアルスと合流するために足を動かす。だがその足は鉛をつけながら歩いているかのように重い。
「………」
倒れ伏しているユナに視線が移る。
(とどめを刺すべきですか……)
相手はこちらの命を狙ってきた相手だ。何の躊躇いもする必要はない。だが
(……もう動けないのであれば驚異にはなり得ませんでしょう)
ユナから視線が外れた
(それよりも! 優先するべきことがある!)
私は満身創痍の体を無理やり動かしてアルスさんの元へとゆっくり向かう。
―――
時間は遡り教会爆発直後まで戻る
「今の爆発……ユナの魔法かな? カグヤさん大丈夫ですかね?」
男は問う。
「あいつなら心配する必要はない。お前の部下よりも強いからな」
するとアルスの周囲に赤黒い魔力が出現し始める。
「それよりも今はお前だ。悪いが神器を使わせてもらうぞ。どうやらCAWだけじゃ押し切れないみたいだからな」
「ご自由にどうぞ」
次第に赤黒い魔力は一つの剣を象った。その剣は漆黒のように黒く、赤い線のような模様が刃の中心にある。
「それがあなたの神器ですか?」
「そうだ。名は
その神器からはアルスとは別の魔力が溢れ出しており本来のアルスの魔力と混ざり合っているように見える。
(あれは本当に神器ですか?)
神器自体に魔力が宿っているなんてことは普通はないはずだ。だからこそ男はこの神器の持つ異質さに警戒していた。
俺は剣を構え告げる。
「では行くぞ」
男も刀を構え戦闘態勢に入る。が、一瞬の間にアルスはすでに男との距離をゼロにし斬りかかっていた。
「なっ……!」
その攻撃を刃の腹で受けるが、アルスはそのまま回し蹴りをし男を蹴り飛ばす。
「ぐはっ!」
(速すぎるっ……!)
数メートル飛んだ男は口から血を吐き膝をつく。
「終わりだ!」
膝をついている男の首を狙い俺は武器を払う。しかしそう簡単にはいかない。
「
その言葉とともに先ほど男が吐いた血が地面から宙へと浮き上がりこちらに向かい飛来してくる。
「はっ!」
飛来する血を全て剣で防ぎ、一度距離をとる。
(今のは魔族が使用する魔法か? 一体どこまで使えるのやら)
こういった血に関する魔法は魔族の得意分野でもある。魔族の魔法はどれも殺傷性が高く全ての魔法に警戒しなければならない。
俺は異能を発動させると、周囲の
「
咄嗟に魔法陣を展開させると同じように男は加速しこちらの速度に対応しようとする。しかしその行為は無駄に終わる。
「なん……でっ!」
「それでは無駄だからだ」
俺の剣はやつを斬り裂いていた。もう一撃入れようとするが男が魔法陣を展開する。
「
魔法陣から大量の水晶の槍が撃ち出され俺を貫こうとする。やむを得ずその攻撃を剣で受け、その威力に飛ばされるがままに後方へと押し返された。
「なるほどねっ……! 君の異能は周囲を減速させ、減速した分だけ自身を加速させるってところかな……」
「……半分正解だ」
「だから僕の魔法で加速しても追いつくことはできなかったっ! なぜならそれでも君の方がまだ速かったから!」
「とはいえこの異能はこいつがなければ本来の力を発揮できないんだけどな」
俺は自分の持つ剣に目を向ける。
「特別に教えてやろう、俺は本来なら自分の時間を代償にすることで加速させている。要は時間の前借りだ」
時間を加速させることができるがその分使用後に減速するのがこの異能だ。だがこの神器はそのデメリットを完全に消す。
「しかしこいつがあれば俺は自分の時間を喰らうのではなく他者の時間を喰らって加速させることができる」
ゆえに擬似的な時間停止を行った攻撃が可能となるのだ。
「だったらやりようはあるっ……!」
男はそういうと魔力を刀に流し魔法を発動させる。
「
(なにをしたっ……?)
男は何かしら対抗策を出してきた思うがそれがなんなのか俺にはわからなかった。なぜならその魔法は
「時を喰らえ」
俺は再度神器に魔力を流し異能の強化を行うように促しそのまま男に肉薄した。しかしいつまで経っても時間の加速は起きず普通に斬りかかるだけとなる。
「時間加速!」
魔法を唱えると男は俺よりも速くなりそのまま刀をこちらへと振り抜く。
「クソッ……!」
攻撃を完全に避けられた上にその刃を腹部で受け止めることになる。何度も地面を転がり激しく後ろの木へと叩きつけれる。
その負傷は決して軽くはなかった。魔力で全身を覆っていたから内臓が飛び出ることはなかったが口から吐血してしまう。
(なぜ異能が発動しなかった!? まさかあの魔法か!?)
こちらへと男は近づいてくる。
「僕がさっき使った魔法は外部からの時間干渉を防ぐ魔法だ。だから君の異能に時間を喰われずにすんだ」
「そういうこと……だったのか」
「これはエルフの魔法だからね。見たことがなくても無理ないだろう」
「強化魔法、
男は二つの魔法陣を展開させる。
「これはドラーフの筋力増加魔法と獣人の速度強化魔法だよ。君を殺すには念のためここまでしておかないと」
男の持つ刀に大量の魔力が流れ込んでいく
「さよならだ」
俺目掛けてその刀は振り下ろされる。今、剣で防いだとしても叩き切られるだけだ。異能も男には通用しない。俺に残された手段は死を待つのみ
「…………とか思ってんだろ? カインさんよ?」
その攻撃が俺に当たる直前に黒い炎が俺の眼前に出現し刀を遮り、カインを飲み込もうと襲った。
「なんだこれはっ!」
思わずカインは俺から距離を取るためにその炎から免れようとし大きく後ろと下がる。そしてカインは口を開く。
「……なんで僕がカインだって分かったの?」
「俺は一度見た魔力ならしようと思えば個人を特定することはできる。だがお前の
「たったそれだけで確信したのか……?」
「違うぞ。お前さっき言ったよな? 「カグヤさん」って。お前にカグヤのことを紹介していないから知ってるのはおかしいんだよ。仮にテロ組織が俺のことを話したとしよう。だがパートナーのことは公にしていないため名前までは知ってる奴はいないはずだ」
続けて俺は話す。
「カグヤのことを知っているとなると俺の周りにいる人間の中にいることになる。その中で茶色の魔力を持ってなおかつ魔力制御をここまでできるやつなんてお前以外いねぇんだよ」
「僕が失言してたのか……」
カインはその仮面を外し素顔を曝け出す。
「その通りだ。アルスさん、最初君を見た時少し驚いたよ。まさかあの神殺しが君だなんて。アルスって名前は奴らから聞いてたけど本当に君だったとはね」
魔力が放出され空気が揺れる。
「僕の前に立ち塞がるならたとえ君でも容赦はしないよ」
「何言ってんだよお前は。さっきまで殺そうとしてたじゃないか」
笑いながらカインは言う
「正体がバレていないなら知らないフリのまま殺そうかなって思っただけだよ」
「そうか……お前案外腹黒いんだな」
俺は赤黒い魔力と灰色の魔力を混ぜ合わせて放つ。
「君の魔力の色ほどではないけどね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます