第31話 カグヤの本気
(あれは……神器ね。何かする前に焼き殺す!)
ユナはそう判断し精霊の炎を残し、全ての炎を一斉に撃ち出す。
「見せてあげますっ……私の力を!」
持っている大鎌をカグヤは振り抜いた。するとカグヤの前に勢いよく風が集まり始めた。
「そんなもので私の炎を防げると思ってるの!」
カグヤは一度、風の結界を張り防御したがユナにそれを難なく突破されている。だからこそユナはカグヤのこの行動が全く理解できない。
だがカグヤは諦めたわけではない。むしろ止められると確信している。
(性質操作!)
私が心の中でそう叫ぶと同時に大量の炎が集まった風へと降り注ぐ。
(終わったわね……案外あっけなかったじゃない)
この光景を見てユナは勝ちを確信していた。だが炎が止み、煙が晴れるとそこにはさっきと変わらない姿のカグヤが立っている。
「ど、どうして!?」
「ちょっと裏技を使いましたの」
カグヤがそう言い終えると再び炎が襲いくる。しかもそれは精霊が作りだした巨大な炎だ。
「あれに耐えられたのは少々驚きましたが想定内です。そのためにこれを残してたんですから!」
息を吐き私は鎌を構える。そして一振り。
「はぁっ!」
大鎌の刃に触れた炎は真っ二つに切り裂かれ消滅する。
「魔法を切った!?」
流石にユナは黙っていなかった。
「これが私の神器の性質ですわ」
この鎌の刃は物理的接触不可能なものに触れることができる。ゆえに炎の核となる部分を切り裂いたのだ。
「それでもおかしいわっ! 魔法の核に触れるまでに炎の熱があなたを焼くはずです!」
ルナは無傷のままのカグヤを怪しむ。本来ならその熱がカグヤを襲い、満身創痍のその体を立たせているわけがないからだ。
「ええ、だから周囲の風を私を操作して風の衣を纏い、その性質に
「そういうことですかっ……! あなたは古の王族の、しかもその中でも血を濃くひいてる人間だったんですねっ……!」
《性質操作》というのは古の王族の中でも特別な者にしか発現しない能力といわれている。そしてこの能力こそが古の王族が特別扱いされる理由だ。
触れたもの全ての性質に干渉し自分の望むように作り替えることができる。それがあまりにも強力かつ万能すぎるため、ナギナミ国も欲しがった。
常に触れ続けているのであればその性質は変化した状態を維持することができ、たとえ触れることを維持できなくても数秒の間は変化したままである。
「出来れば極力これも使いたくなかったんですがアルスさんの言葉を思い出しまして。……あなたは本気を出すのに十分値するお方です」
ルナの周囲の熱が爆発的に上昇し、炎が生成される。
「どうやら私も出し惜しみするわけにはいきませんね」
炎で自分を包みカグヤを睨み付ける。しかしすでにカグヤの姿はなく消えていたのだ。
(消えたっ……! 一体どこに!)
エルフの敏感な感覚器官が風の流れがおかしい部分を掴み取る。
(後ろっ……!)
咄嗟に振り向き魔法陣の障壁を展開する。そして障壁と刃が接触する。
「よく気付きましたね!」
「エルフを舐めない方がいいですよ!」
生成した炎を姿を現したカグヤにぶつける。カグヤはそれを防ぐがあまりの熱量に一度距離を取ることを余儀なくされる。
(耐性を加えたとしてもここまでの威力を叩き出すなんてっ……!)
性質操作は完全な耐性を付与できるわけではない。それでもある程度の付与はできる。
ルナは魔力を全身から迸り言う。
「精霊よっ! あたり一面を吹き飛ばしなさい!」
それに応えるかのように周囲の熱量が爆発的に上がり続ける。
(まずいっ!)
神器の能力を使い、できるだけ周囲の風を集めその性質に炎耐性を加える。
「風王結界っ!」
それだけではなく風属性魔法の防御魔法も展開させそれすらも性質を操作する。
「弾け飛びなさい!」
そしてその言葉と同時にあたり一面が吹き飛ぶ。その威力は教会を吹き飛ばし、余波で周囲の建物のガラスすらも割れていく。
流石に無事というわけではなく、カグヤも吹き飛ばさている。
(風王結界の性質にクッション性を加えておいて正解でしたわっ!)
包みこんだ風が熱をできるだけ殺し、そして魔法が残りの熱と衝撃を和らげた。だがあばらが数本折れ、片腕はほとんど動かない状態だ。
「ハァハァ……これでどう?」
一度に大量の魔力を使い、ユナはかなり疲弊している。
(今なら……いける!)
私は周囲の風を見に纏い、その性質を周囲と同化するように変化させた。これにより擬似的な透明人間になることができる。
私は地を蹴りユナへと迫る。だが風の流れから再び攻撃を読まれ障壁によって防がれてしまう。
「甘いですわっ!」
炎を作り出し私にぶつけるがその威力はかなり落ちている。私は
(どういうことっ!? なぜ神器を使うのをやめた!?)
神器がなければ周囲の風を操ることができず先ほどまでのように自由な攻撃ができないはずだ。
「それはこういうことですっ……!」
そう言い放つと同時に手を引く。すると見えない何かがユナの肩を切り裂く。
(っ……一体何がっ!)
何が起きたのか理解することができなかった。
「まだですわっ……!」
今度は大きく手を動かすとユナの腹部を軽く切り裂く。精霊の炎を作り出し見に纏わせるがそれでも細かい斬撃が次々に彼女を襲う。
(一体何をされてるのっ……!)
ユナは周囲に魔力を散らしその正体を掴もうとする。そして何かが空中に舞っているのを感じ取った。
「まさか……糸っ!」
宙に待っていた糸を辿るとカグヤの両手に行き着く。
「そうですわ。ですがもう遅いです!」
少しずつ私は周囲の風を集め身に纏わせていた。そして性質を糸のようなものに変化させその上から新しい風で覆いそれに耐熱性を加える。神器がなければできない芸当だ。
準備が完了した私は先ほどの神器の攻撃の際に糸を彼女の周囲に展開させ、攻撃を行なっていたのだ。
(ネタが割れたらあとはこっちのもんです!)
周囲の糸を焼き尽くそうとするがその糸はなかなか燃えなかった。
(また性質操作ですか!)
そう考えていると今度はカグヤの正面から糸が伸びユナの足を貫いた。
「ああっ!」
痛みに耐えきれずユナは声を上げてしまう。
「風王結界!」
私は防御魔法を再び展開するとその魔力の風の性質を操作させ擬似透明人間になる。
(またっ……同じ手を!)
再度炎を周囲に放出し近くにいるであろうカグヤを焼こうとした。
「っ……! ゲイルストリーム!」
風属性魔法の一つであり、大量の風を創り出し放出する魔法だ。そしてその魔法は迫りくる炎と相殺しカグヤとユナに一つの道ができた。
(今ですっ……!)
カグヤは体に鞭を打たせることで両手を払い糸を全てユナへと撃ち出した。
「どこを狙っているんですか!」
咄嗟に炎を纏い防御するがその糸はユナに命中することはなくあらぬ方向へと飛んでいく。
「いえ、狙い通りです」
カグヤは鞘に魔力を通し魔法名を呟く。
「
あらぬ方向へと飛んでいったとはいえそれはユナの周囲に舞っている。そして宙に舞った大量の風の糸はそれに呼応するかのように一斉に弾け飛ぶ。
「きゃぁっ!」
当然、いきなり横や後ろが爆発するとは思っていなかったユナはまともに受けてしまいその場に倒れ伏す。
「私っ……の勝ちですわっ……」
ギリギリだったではあったがカグヤは勝利を収めることができたのだ。
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