第30話 恋乙女の過去
二人が教会から去り私とユナと呼ばれたエルフと呼ばれた女性の二人だけとなった。
「あなたには特に恨みなどないですがリーダーの邪魔をするなら消します。それがここに残った私の為すべきことです」
ユナは手をかざし魔法陣を出現させる。すると周囲の温度が上がり赤色に光るものがユナの周囲に現れる。
「それが《エルフ》にしか使えない精霊魔法ですね」
「よくご存じで」
精霊魔法は精霊と直接契約を結ぶことで精霊にしか扱えない魔法を発動させることができる。
(厄介ですね………実質二対一じゃないですか)
カグヤは刀に魔力を込めユナへと斬りかかる。しかし魔法陣から大量の光弾のようなものが飛び出し、カグヤを襲う。
「風王結界!」
風の魔力がカグヤを包み込みその光弾から身を守る。しかし
「お願い!」
ユナがそう叫ぶと赤色に光る精霊は大きな炎の塊を作り出しカグヤに撃ち込む。風王結界だけでは防ぎ切ることが出来ずその炎はカグヤの肌を焼いた。
「くっ……風刃!」
ユナの周りを駆けながら幾つもの風の刃を放ったが炎によって全てかき消されてしまう。
「無駄なことを……炎爆式!」
ユナは再び魔法陣を出現させると私の足元が光り出した。
(これはまずいっ……!)
危険だと直感した私はその場から大きく飛んだ。すると先ほどまでいた場所は爆音とともに吹き飛んだ。しかし回避した直後、私は真横から高熱を感じ取る。
(精霊の魔法っ!?)
「風王結界!」
咄嗟に魔法を発動させたため完璧には機能することはできず、迫りくる炎から身を守ることができない。そしてその爆風とともに私は吹き飛ばされた。
「言ったでしょ? 無駄なことをって……私は戦闘能力だけなら義賊の中で二番目に高いのよ?」
エルフは各種属の中でも魔法の細かい調整が突出しており基本的には精霊の支援や強化をして戦うのが一般的だ。
ユナのように強力な攻撃魔法を使いながら精霊を使役するのは稀である。なぜなら精霊のサポートを行うのが一番魔力を節約でき、相手の妨害も同時に行えるからだ。
「そんなの……知ったことないです」
カグヤは見栄を張るがその姿はボロボロだった。服は焼け至るところに火傷の跡があり、その整った顔には血が流れていた。
「あなたのためにもさっさと終わらせてあげるわ」
ユナはそう告げると魔法陣を展開し、周囲に大量の炎の塊が出現した。それだけではなく宙に浮いている精霊はとてつもなく巨大な炎を作り出している。
(アルスさんのためにもこんなとこで倒れるわけにはいかない!)
カグヤの脳裏に走馬灯のように昔の記憶が駆け巡る。
―――
私は東の国の奥深くにある村に生まれた。そこは木々に囲まれた山の中で、外の世界とは極力関わりを持とうとはせず村の中で自給自足の生活を営んでいた。
なぜならここにいる人たちは古の王族の血を引いているからである。存在自体が古代遺物級の私たちが知られるわけにはいかないのだ。
「姉さま待ってください〜」
一人の少女がこちらに駆け寄る。私と同じ黒の髪と赤い目を持つ少女、妹のルナだ。
「ごめんなさい。歩くのちょっと速かったですね」
私たちはヨネさんに頼まれて村の店へとお使いに出ている途中だった。店に着くと店番のお婆さんが私たちを見ると笑顔になる。
「いつも元気だねぇ二人とも」
私たちはお金を渡し、商品を受け取る。
「うん! 姉さまが大好きだから一緒にいるだけで元気でちゃうんだ!」
「ふふっ、この子ったら」
当時、ルナの歳は七歳で私は十二歳だった。ここは外界との繋がりを極力断っているとはいえ大人が外界の方へと降りることがある。現代の技術などをこの村へと持ち帰るためだ。
私たちは何事もなく平和に過ごしていた。だがある日を境に村から出た大人が戻ってこなくなった。
戻ってこなくなった日から数日が経ったある日、村の入り口に三人ほどの人影が見えた。村の人がそれに気づき、村長へと伝え、村長が入り口の方へと向かう。私たちも気になったのでバレないように隠れながら話を聞くことにする。
「道に迷いましたか?」
村長は警戒していると思うがそれを完璧に隠しながら言う。
「いいえ、そういうわけではありません。私たちはナギナミ国の魔法師です」
ナギナミというのは東の国と呼ばれているこの国の本当の名前である。
「はて? そんなお方がこんな辺境まで何用ですか?」
「ナギナミ国はあなたたち、古の王族の血を引く皆さんと交流を持ちたいとのことで使者として参りました」
村長の目つきが鋭くなる。
「なるほど。ちなみにここまではどうやって辿り着いたのですかな?」
「それは中心部に来ていたここの村の方にお尋ねしました」
「そうでしたか。ちなみにその方たちは今どこに?」
「お話を聞かせていただいてこちらの方で保護しています。古の王族の血を引いてるとなると丁重に扱わなければならないですからね」
「……お話は分かりました。ワシたちは昔から外界と関わりを持つことをしてきませんでした。それを今になって曲がるつもりもありませんし、ましてや国家単位となると秘匿性が欠ける可能性も出てくるのでお断りさせていただきますと伝えてください」
「わかりました。国の方にはそう伝えておきます」
魔法師たちは頭を下げるとその場を去っていた。その姿を見送ると村長は村人を広場へと呼び出す。
「皆のもの! 聞いてほしいことがある! どうやらこの場所が外界の人間に漏れた! ここを離れる準備をし、四日後にはここを発つ!」
なぜ四日後というと次の村候補を見つけるまでの時間がそれぐらい要するらしい。
村人はその言葉を聞き一斉に動いた。すると私たちの面倒を亡くなった両親の代わりに見てくれているヨネさんが私たちを呼び出す。
「カグヤ、ルナ、あなたたちは血を引いてる者の中でも特別な存在です。命にかえても私たちはあなたたちを守りぬかなければならないのです」
そう言うとヨネさんは刀と小刀を私たちに渡す。
「もし命が危ないと感じたら躊躇ってはいけませんよ」
ヨネさんはそう言い残し、村の外へと出て行った。
「姉さま私たちこれからどうなるんでしょうか……」
「わかりません。ですがルナだけは絶対に守ってあげますからね」
(絶対にこの子だけは守ってみせる!)
カグヤはそう胸に誓った。
あれから三日が経ち、次の村候補の周囲に魔物が生息していないことの確認ができたので村長は夜中に村人を呼び出す。そして一定の人数ごとに隊を作り出す。
「よし! 皆のもの! 準備はよいか!? 安全なルートを示した地図をそれぞれのリーダーに配布したから指示に従うんじゃぞ! 女子供老人は村の裏手の方から迎え! ワシと戦える者は表の方から出てっ……!」
話している途中の村長に入り口の方から何かが飛来しそれは村長を貫いた。その方向を見ると大量の魔法師の姿を確認できた。
「奴らが逃げ出す前に姫候補を見つけ出すんだ!」
一人の魔法師が号令を飛ばすと一斉に魔法師が村へと押し寄せる。村人は咄嗟の方で出遅れたが一斉に散り始めた。ヨネさんは私とルナの手を引くと別の道へと向かった。
「ヨネさんっ! その道とみんなと違うよ!」
焦った様子でルナがそう叫ぶ。
「私たちはもう一つの特別なルートから次の村候補へと向かうよう指示を出されています」
すると、背後から一人の村人の叫び声が聞こえる。
「うわぁぁぁぁ」
「びびるな! とにかく時間を稼ぐんだ!!」
「おらたちがなんとか持ち堪えるんだ!」
辺りには村人たちの死体が転がっていた。男たちは勇敢にも魔法師に立ち向かうが、当然勝てる見込みはなく魔法によって次々と殺されていく。
ルナはその様子を走りながらチラチラと確認している。
「ルナっ! 今は前だけを見るのです!」
「でも、みんなが……」
「私たちを逃すために命をかけてるんですよ! それに応えなくてどうするのです!」
涙を流しながら私たちはただ足だけを動かす。しばらく走っていると小さな洞窟を見つけた。ヨネさんは一度そこで休憩を取ることを提案する。もちろん私たちは許可した。早く合流したいという気持ちもあるがそれでも疲労には勝てなかった。
「私は一度周囲の警戒に出ます。何かあれば大きな声で叫んでください」
ヨネさんが洞窟の外に出ると何かがヨネさんを襲いその上半身は消滅した。
「こんなとこにいたのかよ。手間取らせやがって」
そこには四人の魔法師が立っている。そのうちの三人がこちらへと近づいてくる。
「ヨ……ヨネさんっ……!」
私はその光景が受け入れられず瞳から涙が溢れた。当然だ、親の代わりのように接してくれていた大切な人が目の前で殺されたのだから。
ルナは泣き叫んでいるようには見えないがその目は絶望の色に染まっている。
「他とは違う道を進んでるってことはこいつらがお姫さんじゃねぇの?」
「そうだろうな」
魔法師はヨネさんを殺したにも関わらず平然としている。私はもらった刀を抜き放つ。
「お前たちだけはっ! 絶対に許さないっ!」
涙は未だに流れ続け、手足は震えているが怒りの感情が私を立ち上がらせた。
「へぇ、結構可愛いじゃん?」
「お前さ、まだガキだぞあいつ?」
「俺はああいう幼気な幼女の顔が絶望に染まるのが好きなんだよ」
「お前って結構クズなんだな」
銃型のCAWの引き金を引くと刀を持っている私の手に何かが当たり、刀を弾き落とされた。
「下衆がっ……!」
魔法師たちはこちらへと一歩また一歩と近づく。その手が私に触れようとした時、洞窟の入り口から誰かが倒れる音が聞こえる。この魔法師たちの仲間の一人だ。
「誰だっ!」
一斉にそちらの方へと視線が向く。そこには私と歳が
そう離れていなさそうな顔が整った黒髪の少年が立っている。
「お前ら、ここで一体何をしている? 古の王族については五カ国で話し合って干渉するべきではないと判断したはずだ」
「その軍服、アルテマ国の人間か? そっちこそなんでここにいるんだよ」
「お前らが手を出さないか見張っておけって任務を総帥と帝国の元首から任されたんだよ」
少年は怠そうにに呟く。
「はぁ……こうなったら仕方ない。古の王族についてはアルテマ国が保護する」
「何勝手なこといってんだ!?」
「お前らなんも聞かされてないのか? もし手を出した場合は人を受け入れる余裕が一番あるアルテマ国が保護するって話になったんだぞ?」
すると一人の魔法師が少年へとCAWを向ける。
「お前が死んだら今この場で保護するやつがいなくなるよな? 邪魔すんな!」
少年が黒色のCAWの引き金を引くとその魔法はかき消された。
「爆発の魔法か。外のあれはお前がやったのか」
魔法をかき消された魔法師はかなり驚いている。
「な、どうして魔法が!」
その少年の目には凄まじい怒りが宿っているように見える。
「死ぬゆくお前に関係はないだろ?」
再び引き金を引くと魔法を放った魔法師は一瞬で氷の氷像になった。それを見た魔法師たちは情けなく尻を地面につける。
「ヒッ……!」
そして白のCAWをこめかみにあて黒のCAWを私たちに向ける。
「
その言葉とともに二人の魔法師は気絶した。
「君たち、大丈夫か?」
CAWをしまい優しそうな声で話す。
「すまない……もっと早くここにくることができたらあの人を殺させずに済んだのに」
少年は私たちに頭を下げる。
「俺の名前はアルス・クロニムルだ。もう君たちが怖い思いをすることはない。俺が守ってやる、だから安心しろ」
そう言うと私たちに手を伸ばす。そこからは早かった。残りの魔法師をたった一人で殲滅し、村人を助け出した。だが助かったのは女子供だけで男の人たちは全滅だった。
村人をアルテマ国まで護衛するとある場所へと向かわされた。そこは小さな住宅街でありここで暮らすよう指示された。しかしルナと私は軍が所有する土地の中にある家で暮らすように言われた。
私はそこでは暮らさず軍に入れてくれるよう総帥に直談判した。
(なんだろうこの感情……あの人の近くにもっといたい! 役に立ちたい!)
絶望的な状況から救い出されたことも相まってどうやら私は彼に恋をしてしまったみたいだ。というよりかあんな絵本に出てくる王子様みたいな助け方されたら女の子なら誰でも惚れてしまうだろう。
総帥は最初こそ、それはできないと言い張っていたが私の彼に対する愛が伝わったのか承認してくれた。そうして私は総帥直属特殊作戦部隊へと配備された。
―――
「そうですっ……私はこんなとこで倒れるわけにはいかない」
「馬鹿ね……どうやってこれを防ぐの?」
大量の炎と巨大な炎が彼女の周りに浮いている。満身創痍のカグヤに勝ち目があるとは思えない。
(そもそも異能持ちである私が魔法の扱いに長けているエルフに魔法だけで勝てるわけがないっ……)
するとカグヤの周囲に暴風が吹き荒れる。
(っ……これは)
それは次第に収まっていき大鎌の形を模した。そしてカグヤは神器を構えて言う。
「まだっ……これからですよ!」
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