第28話 合流地点
学校が終わり帰宅するとアルスたちの端末に一通のメールが届いた。
そのメールは総帥からだ。内容は次のように書かれている。
【敵の戦力は二十名程度と判明。明日の二十二時にアルス達は未開発地区にある合流地点へと向かいそこで先行した部隊と合流してもらう】とのことだ。
「ついに明日ですね」
「そうだな」
「今度こそパートナーとして一緒に戦わせてもらいます」
どうやらカグヤはアダムの件を気にしているように見える。
「わかっている、だがどうしても手を負えないと判断した場合は俺を頼れ。なんとかしてやる」
「っ……はい!」
義賊は今まで足のつかなかった組織だ。襲撃を悟らせないよう少人数で部隊を組んだと思うが少数精鋭だった場合それはあまり意味をなさない。敵の能力も使用魔法も判明していない以上警戒するに越したことはない相手だ。
恐らく学校も休むことになるだろうから、俺は明日の戦いに備えCAWの調整をすることにした。
―――
ある国の元首の家に一人の少女が訪ねていた。その少女は門の前で衛士に何やら話しかけている。
「元首様に合わせてくれませんか?」
「そう言われましてもアポイントがないとどうすることも」
すると家の方からある人物がこちらへと近づいてくる。その人物は白色の髪をし目が開いてるかどうかわからないような老人だ。
「何やら騒がしいから来てみれば……ふむ、あなたは獣人ですか」
「……だったら何ですか」
人間と他種族は仲が悪いわけではない。ただ自分の種族の国で生活するべきという暗黙の了解みたいのがある。だからこそアポも取らず元首に訪ねてきたこの少女が興味深かった。
「いえ珍しいと思っただけですよ。して用件は?」
「私は義賊のシェラ、元首様に話があります」
(これはこれは……面白くなりそうですね)
「わかりました。ついてきなさい」
老人の一声で門は開かれその中へと足を踏み入れた。
―――
光に照らされたその場所では二人の男性が会話をしていた。
「ボス、言われた通りに義賊の件を派手にしましたがそれで良かったですか?」
「十分ですよ。国民の関心がほとんど義賊に向いているのでむしろ完璧です。ですが軍の重役に手を出すとは思わなかったですよ」
ボスは軽く笑う。
「標的の格を上げればその分国民は沸きますからね」
「しかしどうやって義賊に潜入して誘導したんですか?」
「私の空間管理とボスから受け取った魔法紙を1枚使って少しだけ潜伏しただけですよ」
魔法紙というのは術式を封じ込めておくことができる紙で魔力を流すだけで誰でも刻まれた魔法を使うことができるというものだ。だが一度使えば消滅してしまう。
「あの実験用魔法を使ったのですか。勇気がありますね」
「ボスが役に立たない物を渡すとは思えないので。それとボス、あいつの様子はどうですか?」
「あの子なら私の異能で治療済みです。まさかあそこまでボロボロにされるとは。やはり神殺しは厄介ですね」
「もしかして神殺しは虹色の魔法師なんですか?」
「その可能性はないです。こちらの方で確かめました。あれは恐らく……」
(へぇ久しぶりに見たぜ、そのボスの顔は)
「私と同類の人間ですね」
ボスの目は凶悪に光り、とても不気味な笑顔を浮かべていた。
―――
翌日、ついにその時がきた俺たちは未開発地区へと向かった。その速さは風のように早く、カグヤはついてくるので精一杯に見える。
「速度落とそうか?」
「いえっ……! 大丈夫です!」
しばらくすると森のような場所に入り、そこを出ると建設途中の建物が至る所にある場所へと出た。
「ここが……未開発地区ですか……」
建設途中に魔物の群れに襲われ、そのまま放置されることになった場所だ。調査した結果ここは魔物の命の源である魔素がとても濃くその結果さまざまな魔物がここに移り住みだしたらしい。
「カグヤ一応注意しておけ、恐らくだが魔物もここにいる」
そう警告し、ある建物へと向かった。
「ここか……」
入り口の前で足を止めた。中はとてもボロく、石の壁で囲まれたような三階建てのビルだ。その三階に向かうと五人の魔法師がそれぞれ待機している。一人はタバコを吸い、一人はCAWに魔力を通し調子を確かめている。
俺たちが姿を見せるとある人物が向き直り敬礼をした。
「第三特殊作戦部隊のケイだ。この部隊の指揮官だ」
そう名乗った男は黒の軍服に黒の髪をした大人だった。その年は二十半ばといったところだ。
「おいおい、こんなやつと一緒に仕事をすんのかよ。まだガキじゃねぇか」
「でも総帥が推薦してたってことは腕は立つだろうからそう威嚇するな」
ケイはその男が俺に突っかかる前に宥めた。俺の横ではカグヤが刀の柄に手を置いている。
「さて、君たちは遊撃部隊とのことだがそれで邪魔をされても困るし一応方針を聞いておこうと思うんだけど」
なるほど、どうやら俺たちに勝手に動かれるのが嫌みたいだな。
「そうだな。だったらあんた達は外の魔物の対処と残党狩りをしてくれ、俺らで本命を潰す」
「僕は方針を聞いたんだ、指示を出せなんて言ってないぞ?」
俺の発言に不快感を覚えたケイはCAWに魔力を流し始めた。幸いこういう連中を一番効率良く黙らせる方法を知っている俺はそれを実行した。
「俺はあんたの指揮下じゃないんだ、言っておくがあんたらに戦力としての力は期待していない。むしろ邪魔だ。だったらあんた達こそ邪魔しないようにするべきだ」
その言葉と同時にドス黒い魔力がこの場を支配した。それを浴びたケイ達は膝をつき、激しき呼吸をしている。
「これで分かっただろう? あんた達と俺の格の差が」
「こんのっ……クソガキが!!」
先ほど宥められていた男がこちらへと殴りかかってきたが、何かが男の体を吹き飛ばしその攻撃が届くことはなかった。
「手を出す必要はなかったぞ?」
「パートナーとして近づく敵を排除しただけです」
(一体何でこんな奴らがよこされたんだ?)
確かに魔力操作の腕や魔法の発動は多少はできるだろう、だがあくまで平均以上というのがアルスの評価で敵の詳しい能力が分かってないこの状況で中途半端なやつをよこすのは愚策だ。
「死にたくなかったら大人しくしておけ」
そう言い残し俺たちは義賊のアジトへと向かった。
そしてアルス達がいなくなった部屋に一人の男の声が響く。
「ちょっと予想以上の実力だったね……」
「そうだな」
「あのー隊長さん? 本来工作員である僕達がわざわざ来る必要はなかったんじゃないですか?」
「それは仕方ないさ。総帥を支持する人たちとそうでない人たちの思惑っていうのに巻き込まれだけなんだから。だからどっちにもつかないあの人の部隊である僕達が派遣されただけだからね」
アルスの具体的な実力を調べるためにきていたがその結果は見ての通りだ。
「化け物、としか言いようがないね」
ケイはアルスの底知れない力に恐れを抱いていた。
「じゃあ僕たちは彼に言われた通り残党狩りと魔物狩りに勤しむとしますか」
持っているCAWを起動させ強化魔法をかけるとアルス達と同じく窓へと姿を消した。
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