第27話 食堂での議論

あれから数日が経ち傷もほとんど回復していた。授業が一通り終わり昼休みに入ったある日のことだった。


「失礼します。アルスさんはいらっしゃいますか?」


そう俺のクラスメイトに聞いたのは茶色の髪をした生徒、カインだった。聞かれた生徒はこちらの方へと向き場所を示した。


礼を言い終えると真っ直ぐにこちらへと向かってきた。


「アルスさん、よかったら僕と一緒に食堂に行かないか?」


当然俺は答えた。


「俺は食堂が苦手なんです」


だが、それでも食い下がらずにしつこく誘っていたので結局食堂に向かうことになった。その際にカグヤやリーナとリンに加えてナオトまで一緒についてくることになった。


食堂の中はとても広く、奥側にはカウンターがあり、そこで食券を渡すことで作り始めてくれるみたいだ。俺たちは適当に席に着くと、食券を買ってくると言うと、リーナとリンとナオトは立ち上がった。


「アルスさんは何になさいますか?」


「カグヤと一緒のやつでいいよ」


そう答えるとカグヤも同じく食券機の方へと向かった。カインはナオトに金額の送信を行うと代わりに買ってくるよう頼んでいた。


「それでわざわざ誘った理由はなんですか?」


俺はカインへと向き直りそう聞いた。席配置でいうならカインがちょうど目の前に座っている形だ。


「前やった模擬試合を覚えてるだろう?」


「ああ」


「あの時何でわざと魔法を受けたのか知りたいんだ」


(前も似たようなパターンがあったな)


紅蓮と似たようなことを言われたのを思い出したがあの時とは状況が違う。こっちは純粋に知りたいみたいだしな。


「……俺じゃあなたに勝てないと悟ったからですよ。それに腕も怪我してましたしね」


「そんなに差があるとは思えないけどなぁ。それに君の魔力制御は素晴らしいじゃないか!」


「俺の魔力は灰色です。まだ無色の方が良いとも言われてるような魔力です。戦闘には向いてないんですよ」


「そうだったのか……すまない」


カインはそれを聞くと申し訳なさそうに謝った。


カインとしばらくやりとりをしていると食券を渡すときに受け取ったであろう、呼び出し機を手にしたカグヤたちが戻ってきた。


「ふぅー……人多すぎだろ」


大量に行列していた列から食券を買い終えたナオトは疲れた表情をしカインの横へと座りこんだ。カグヤは俺に呼び出し機を渡すと俺の隣に腰掛けた。

リーナとリンは互いに向き合うように座っている。


「とんかつ定食というものにしましたがよろしかったですか」


話しを聞くと日替わり限定の定食らしい。


「カグヤが選んでくれたんだし間違いはないんじゃないか」


そう答えるとリーナがジト目を向けてきた。


「あんたねぇ……恋人でもないのによくそんなこと言えるわね」


「信頼してるからな」


「お前ら本当にただの親戚なのかよ……」


ナオトは疑っているが俺はもちろん「その通りだ」と答えた。少しすると呼び出し機が鳴り響いたのでそれぞれがカウンターの方へ受け取りに行った。昼ごはんを食べていると、突然ナオトが口を開いた。


「そういや近々軍が義賊を倒すために動き出すらしいぜ」


「何物騒なこと言ってんのよ」


(報復を表沙汰にしたのが仇となったな)


そんなことをすれば国民たちは軍の動きに注目し、どういった結末になるか知りたがるに決まっている。当然、その動きから次に何が行われるかも察しがいいやつなら見当がつく。


「義賊ねぇ……リンは義賊のこと正直どう思う?」


リーナがリンへとシンプルな質問をする。


「ちょっと怖いかもしれないです。たとえ悪人を裁いてるとしても殺すのはちょっとやりすぎだと思います」


「俺はかっこいいと思うけどなー、義賊のこと」


アルスはふとカグヤに聞いてみた。


「カグヤは義賊のことどうおもう?」


「私、ですか?」


少し困ったそうな顔をしていたが答えてくれた。


「リンとほぼ同意見ですね。確かに彼らは彼らなりの正義のために裁いてるとは思うんですが、それは同じ人を殺してまでする必要があるとは思えないんです」


すると今まで黙っていたカインも口を開いた。


「僕は義賊賛成派ですね。表でいい顔をしているが実は裏で非人道的なことを行っている人たちを騎士団の人たちのかわりに制裁してくれてますしね」


「確かにそう言われたら義賊っていうのは必要な存在かもね……」


「それに騎士団は確実な証拠を掴めない限り強制捜査なんて真似できない。有力者なら尚更だな」


俺はリーナの考えに補足する様に付け加える。


「だが、それでも奴らは犯罪者だ。私刑はこの国じゃ正義にはならない」


そう断言した。


「確かに人々を守るための魔法師なら法に従うのが当然かもね。法は僕たちを守ってくれる代償にそれを守ることを要求するからね」


すると話を聞いていたナオトが割り込んできた。


「けどよー? その法ですら守れない人たちがいるのも今の現状だろ? 実際に監禁とかしてたクズもいたみたいだしな」


空気が一瞬重くなったのを察知したリーナが無理やり話題を変えた。


「はい! この話は終わり! こんなことただの学生の私たちが議論したところでどうにかできるわけじゃないのよ」


リーナはカインの方へと向き


「そういえばアルスに用があるみたいだったけどもう大丈夫なの?」


「はい。皆さんが食券を買いに行ってる間にその話は終わらせました」


「どんな話だったの?」


「俺の魔力制御はすごいけど灰色の魔力だから魔法の発動が遅いって内容だ」


「あーそういうことね。それについては私も疑問に思ってたのよね〜。そんな才能があるに魔力の色のせいで活かしきれないって悔しくないの?」


「特に気にしたことはないな」


短く答えると、とんかつへと端を伸ばした。


(それに俺の魔力はただの灰色じゃないしな)


俺は幼い頃に魔力そのものを変化させたことを思い出す。それによって今の俺の魔法の扱いは虹色の魔法師とほぼ互角になっていはずだ。


「虹色の魔法師か……」


その言葉を小さく口にする。


「急にどうしたのよ?」


「いや、なんでもない」」


リーナが気づいて質問をしてきたが誤魔化すように答えた。

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