第26話 為すべきこと
実技棟の模擬試合場に着くと、そこではすでに他の生徒たちがウォーミングアップを行なっていた。
「やる気満々だな」
「そりゃそうだろ。これで良い結果残せたらそのまま魔法学戦の代表になれるかもしれないからな」
魔法学戦というのは他国との親交を深めるために行われる学生魔法師によって行われる大会のことである。本来なら第一と第三と他の王立ではない別の学校から優秀な生徒が選抜されるはずだが、去年からほとんどの出場生徒がここの生徒になっているらしい。
そう言うとナオトは自分のCAWを俺に見せつけた。
「これが俺の相棒! 小烏丸だ!」
そのCAWは持ち手が黒色になっている短刀だった。
「お前接近戦ができるのか?」
「へへ、まあな。魔法が出来ない分体術に力を入れたんだ」
カグヤたちも学校指定の運動着に着替え、こちらへと姿を現した。
(おいっ……! アルス! やっぱここの服ってなんかエロいな!)
(くだらんことを言うな)
アルスはナオトの頭に手刀を入れた。その運動着は下と上に分かれているが上は体に密着するようなものになっているのでスタイルがそのまま強調されるように出てしまう。
するとヴェインと見知らぬ教師が入り口から姿を見せ大きな声で話した。
「よーしお前ら! ってもうウォーミングアップは済ませてるみたいだから模擬試合を始めるぞっー! 全員整列!」
模擬試合は一対一の試合を二箇所で同時に行いその結果を記録するというものだ。肉体的ダメージは精神的ダメージに変換されるみたいだ。簡単に説明を終えるとスクリーンで組み合わせを表示させた。
(俺の相手は……カインか)
俺はその組み合わせを見て魔力制御の結果を基準にしているのだろうと考えた。どうやらカグヤたちは別の教師に見てもらうらしいので俺とナオトはそのまま待機した。
「では早速一試合目を始めるぞ!」
一試合目はナオトと他クラス生徒によるものだった。
開始の合図が出されるとともにナオトは魔法を使われる前に生徒へと距離を詰めた。
「行くぜっ!」
「くっ……」
繰り出される斬撃をそのCAWで防いでいたが苦しそうに見えた。攻撃を防ぎきれずその生徒は一撃もらってしまう。その隙に無属性魔法の一つである【魔弾】を隙だらけになった場所へと叩き込み難なく勝利を収めた。
(魔法が苦手っていう話は本当らしいな)
ナオトは魔法式の構築が平均よりも遅かったのでああやって隙を作りに行く必要があるみたいだ。
「まだ戦闘慣れしてない状態で体術で押し込まれたら流石に厳しいだろうよ」
記録を終えたヴェインはそう呟くと次の試合の相手の名前を叫んだ。
「カイン・アルベール! アルス・クロニムル! 前へ」
俺たちは離れた場所でその様子を見ていたのでそこからCAWを持ち、ヴェインのいる元へと歩いた。
「お手柔らかにね、アルスさん」
「よろしくお願いします、カインさん」
そして開始の合図をヴェインが出すと二人同時にCAWへと魔力を流し込んだ。
(適当に受けるか)
アルスはそう考え、発動準備すでに完了している魔法を発動させずに相手の魔法を待った。
(土属性魔法 【
魔法の発動をさせたカインは周囲に巨大な岩の塊を出現させるとそれを全てこちらに向かって放った。
俺は遅れて魔法を発動させ、相殺させたようと見せかけたが威力を殺しきれず後ろへと吹き飛ばされてしまう。しばらく動かないでいるとヴェインが勝者の名前を叫んだ。
「勝者! カイン・アルベール!」
それを聞くと、その場から立ち上がり見学席へと移動しようとした。周りは何事もなく起き上がった俺に少し驚いていたがカインに駆け寄りさまざまな言葉で褒め称えていた。
「流石だな! カイン! お前の相手だからどれだけできるのか気になったけどあのザマじゃな」
「頑張って魔法で相殺させようとしてたけど全然威力変わってなかったしな」
嘲笑されたが特に気に止めることなく足を動かした。
「それにしてもすごい威力だなあの魔法! たった一発でダウンさせるなんてよ!」
「それほどじゃないよ」
カインはそう言うと動いている俺へと視線を向けた。
「……」
「どうしたんだカイン?」
「いや、ちょっと気になってね」
(わざとアルスさんは魔法を受けたように見えたけど……)
そうこうしているうちに次の試合の生徒の名前が呼び出されどんどん模擬試合は進み模擬試合は終了した。
そのあとの授業では特に変わったことはなくそのまま一日を終えた。
―――
それはある夜のことだった。私ら義賊と呼ばれている
いる集団は魔族以外の他種族によって構成されていてそのリーダーが人間、そして副リーダーである私が
「どうやら軍にここを突き止められたらしいな」
その発言に対し別の構成員が過剰に反応した。
「あんなテロ組織の言うことを信じるのかよ!」
つい先日、国際テロ組織の者からいきなり【ここは軍にバレているぞ】との連絡が入っていた。
最初は信じるつもりはなかったが軍の動きが少し変なことも相まってそれは信憑性を帯びてきたのだ。
「まあみんな落ち着いて」
リーダーがそう言うと構成員たちは口を閉じた。否、口を
「万が一ということもあるし別のアジト候補を探すことにしようと思う」
彼はこちらに向くと提案がないか尋ねた。
「シェラ、何かいい提案はないかい?」
私は一考しある提案をした。
「そうですね。一旦、北の国へと逃げ、動きがなければここに戻ってくるのはどうでしょうか?」
「……いい提案だね。正直ここまで隠れるのに適した場所は早々見つからないだろうしね」
リーダーは手を叩き、注目を集めた。
「君たちには先へ北の国に逃げてもらおうと思う。僕はここで突き止められたかどうか確かめてから合流するよ。逃亡する日程は決まったら伝えるよ」
リーダーが立ち上がると構成員は立ち上がり敬礼をした。
「僕たちの信じる正義を貫くためにもここで立ち止まるわけにはいかない」
そう締めくくると作戦会議は終了し構成員はそれぞれが帰る場所へと戻って行った。リーダーにも表の日常というものがあるのでその場を去っていった。一人残された私は自然と拳に力が入り、つい弱音を漏らしてしまった。
「それじゃ……ダメなんですよっ……」
今のままではいずれ追い詰められリーダーの首をとられるだろうと私は考えてしまう。咄嗟に北の国へと一時的に避難する提案をしたがそれは真正面から戦う以外での選択肢の中で最善というだけだ。
この集団はテロ組織ほどの大量の構成員や経済力があるわけではない。国民の信頼を勝ち取ることで自分たちの存在意義を見出してる。
(この国の軍に手を出した時点であの魔法師が動かないわけがない!)
私は長官に手を出した時点である可能性を危惧していた。あのSS級を討伐した魔法師のことだ。その魔法師がリーダーを殺すことを想像するとあまりの恐ろしさに足が震えてしまう。
「こんなところでリーダーを失わせるわけにはいかやい……!」
この集団はリーダーの正義に惹かれたものが集まってできたものだ。リーダーを失うわけにはいかないのだ。そして5カ国のうち1カ国だけ他の国とは成り立ちが違う国が頭によぎった。
(もしかしたらあの国なら……)
あることを思いついた私はすぐさま連絡を入れ、動き出すことにした。
(この義賊のいる人たちが生き残るためにも私が為すべきことを成すだけだ!)
リーダーに救われた皆を守るため、そしてそのリーダーを守るために一人の少女が決意を固めた。
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