第25話 紅蓮とヴェイン
俺が寮へと戻るとカグヤが部屋の中で魔力制御の訓練を行なっていた。
「遅くなったな」
そう声をかけるとカグヤは血相を変えこちらへと駆け寄ってきた。
「アルスさんっ! ご無事でしたか!?」
心配そうに聞いてきたが、その視線は自然とボロボロになった腕へと吸い込まれた。
「その怪我は……」
「あいつを倒す布石のために壊させたんだ」
「い、今すぐ回復魔法をかけます!」
「悪いな。俺は回復魔法が使えないんだ」
灰色の魔力は回復系の魔法は使うことができないので誰かに頼るしかない。カグヤに頼むとCAWに魔力を通し傷を癒し始めた。
「パートナーの私がもっと強ければアルスさんをお一人で戦わせずに済んだのにっ……」
「そう悲観するな。さっきも言ったがあいつを倒すには俺一人じゃないと事を上手く進められないんだ」
話しているうちに腕の痛みが少しづつ消えていった。
「申し訳ありません、私の力ではこれが限界です。あとは専門の方にお願いするしか……」
俺は腕を軽く回し感触を確かめた。
「いや十分動かせるし大丈夫だ。助かった。明日の実技では自主練で怪我をしたってことにして誤魔化すことにするがそれでいいな?」
「はい、了解しました」
俺は治療が終わると風呂へと向かい体を流すことにした。
―――
翌日、登校すると義賊の話題で持ちきりだった。席へと着き少しするとリーナとリンが教室へと入ってきた。遅れてすぐナオトも教室へと入ってきた。
リーナたちはまっすぐこちらへと向かった。
「おはよう。ってあんたその腕どうしたのよ?」
包帯が巻かれた腕へと視線を移した。
「ちょっと自主練でな」
「そゆことね。なに?カグヤにボコられたの?」
「そんなとこだ」
「へぇ〜なんか新鮮だわ」
「リーナ様そう言ったことを口にするのはあまり良ろしくないかと」
リーナのふざけた発言にリンが注意をしてくれた。やはりこんな奴が名のある指揮官の娘とは思えない。
「ごめんって。てかさっきからナオトは何見てんのよ?」
ナオトは見ている映像をスクリーンに映し出しそれをこちらへと送った。
「義賊のニュースだよ。軍の長官の悪事をバラしたやつ」
「あれね。流石に軍に手を出すのはまずいんじゃないの?」
「かなりまずいと思うぜ。現に軍は義賊への報復を考えてるってニュースで言ってたしな」
(そうなったのか)
総帥のことだから報復といっても裏で済ますと思っていたがどうやら軍議で色々あったみたいだな。
「ほら時間だぞ、先に着け」
ヴェインが入ってくると出席を取り始めた。
「今日も全員いるな。今日の一時間目に行われる実技は前回と同じくBクラスとの合同になるが特別に模擬試合が行われることになった」
「珍しいわね」
「そうですね、Aクラスは他クラスとの模擬試合はないと聞いていたんですが……」
リーナとカグヤを筆頭に周りの生徒も疑問を口にし始めた。
「これに関してはさすが《英雄の世代》としか言えないな。お前らの様子を見た感じ、多少はこのクラスが優秀だとは思うが他クラスとはあまり差がないみたいだからな」
確かにそこまで大きな実力はないように感じたが、それでも紅蓮とカグヤの存在は大きいだろう。
「他のやつと競い合って力を伸ばすのもまた訓練の一つだと思うし、いい経験になるんじゃないか? それに2ヶ月後にある5カ国合同魔法師大会もあるしそれの練習だと思って取り組んでみたらどうだ」
一通り連絡事項を伝え終わったヴェインは教室を去っていった。
「おい、アルス! 模擬試合だってよ!」
ナオトは嬉しそうに声をかけてきた。
「そうだな」
「俺のかっこいいとこ見せてちょちょいと惚れさせてやるぜ!」
俺は腑抜けたことを口走るナオトにため息を吐きつつも席を立ち上がった。
―――
「俺のしたいこと、か……」
紅蓮は一週間以上も前にアルスに言われたことを考えていた。
「おい、どうしたんだそんな顔して」
廊下を歩いているとヴェイン先生に話しかけられた。
「いえ、なんでもないです……」
(一時間目までは時間はまだあるな)
時間を確認した俺は紅蓮の手を引き、ある場所へと向かった。
「ちょっとついてこい」
連れて行かれた場所は生徒指導室だった。
「何かやらかしましたか?」
「いやそういうわけではないんだ……紅蓮何か悩みがあるなら俺に話してみろ」
紅蓮は少し迷ったが話すことにした。
「先生、俺、自分が何やりたいのかわからないんです……」
「やりたいこと、か。うーん好きなこととかもないのか?」
「そういうものもないです」
「なら親を参考にするのはどうだ?」
「親なら……俺が幼い時に殺されました」
(やっべ! 地雷踏んでしまったか?)
恐る恐る顔を覗くとその顔は特に変化していなかった。最初に見たときと同じ、迷ってるような顔だった。
「先生はどうして騎士団に入ったのにやめたんですか?」
紅蓮が唐突に質問をした。
「俺は子供の時に騎士団の人に助けられたことがあってな、すげーかっこいいと思った俺はそのまま騎士団に入ることにしたんだ」
「けどな」と続けてヴェインは話した。
「最初は憧れだけで入ったが結局俺自身が何をしたいのかが分からなかった。そしてある任務の中で助けられるはずだった子供を見殺しにしちまったんだ笑えるだろ?」
(こんなに強い人が見殺しだなんて何があったんだろう)
紅蓮はヴェインが圧倒的な力を持っているからこそ疑問に思った。
「それで気づいちまったんだ。たった一人の子供を救えないのに何が最強の騎士団団長だってな。だから俺は騎士団の称号を捨て別の道に進むことにしたんだ」
「それが今の教師って仕事だ。俺はお前らを導く光になってやりたいんだ。要はあれだ、俺は憧れになりたいんだ。これから成長していくお前たちの」
そう言い終えるとヴェインは恥ずかしそうにしていた。
「俺は……」
(あいつらが憎くてたまらない。だけどそれじゃ駄目だとあいつは言った。先生は憧れから騎士団に入ったが今はその憧れになりたいと言っていた。だったら……!)
紅蓮は顔を上げヴェインへと告げた。
「先生っ! 俺は騎士団になりたいです! もう二度と俺のような子供を出さないためにも、俺は人々を守る剣になりたいです!」
その顔を見てヴェインは安堵した
「いい顔だっ……! よし! だったら元騎士団長だった俺がお前に手取り足取りを教えてやろう! 俺のは少し厳しいがついてこれるか?」
「あなたに教えてもらえるなら光栄です! ぜひお願いします!」
先ほどとは違い何かが吹っ切れたような顔で紅蓮は答えた。
「そういやあと少しで一時間目が始まりそうだし、準備してこい。わざわざ呼び止めて悪かったな」
礼をし紅蓮は急いでこの教室を出たのだった。
(これで俺も本当の憧れというものになれたのかな先生……)
ヴェインはそのあと教室を準備を済ませると同じく実技棟へと向かった。
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