第24話 灰色の本気
「はあっ!」
こちらへと距離を詰め、互いに手が届く距離まで来ると足を勢いよく踏み込み拳を突き出してきた。
(この距離じゃ分が悪い!)
そう判断したアルスはCAWを空中へと投げ、突き出された拳を横から弾き、お返しにとその顔に拳をお見舞いした。しかし
「危なっ!」
アダムはヘビのように体を動かしそれを避けた。だがどう考えても避けられる態勢ではなかった。
(そう来るだろうな!)
「
アダムはその動きを一瞬止め、一瞬隙を見せた。その隙はこの場においては致命的になるものだった。
「
黒のCAWの銃口からその魔力の光がアダムを襲った。
だがあり得ないことにアダムはその光を避けていたのだ。
(これだからお前とは戦いたくないんだっ!)
「ふぅ……容赦ないですね。僕じゃなかったら死んでましたよ?」
「今ので殺すつもりだったんだがな」
(やはりやつの《
この
たとえアダムが意識しなくても体が勝手にそう動くのだ。それに加えて一秒先の未来を予測でき、それが危険だと直感で感じたらそれも最善の行動の対象となるのだ。これによってアダムはほとんどの攻撃を避けることができる。
この異能はそれだけではなく、使用者にそういったあり得ないような回避能力を経験させることで体に覚えさせ、体術をワンランク上へと上げることができる。つまり戦うたびに学習して強くなっていくのだ。
「隊長さん、やっぱり強いね」
「お前も相変わらず面倒だな」
俺はCAWをしまうと手足に灰色の魔力を流した。
「CAW使わなくて大丈夫なの?」
「俺は別にCAWを使わなくても戦える、知ってるだろう?」
俺はアダムへと走り出しその拳を突き出した。
「甘いよっ!」
アダムは当たり前かのように避け、カウンターを叩きこんできた。
「っ……!」
俺はそのカウンターをもろに受け後方へと吹き飛んだ。好機とみたアダムが追撃を加えるためにこちらへと距離を詰めてくる。
一足で飛んだアダムはこちらへと蹴りを繰り出し俺の腹部を狙った。俺はその攻撃を腕でなんとか防いだがそれでもダメージは軽くなかった。
(何か妙だな)
アダムはあまりにも思い通りに行くことに疑問を抱いたが様子を見る限り変なことをする素振りはなかったためそのまま方をつけることにした。
「隊長さん、思った以上に腑抜けてますね」
「……」
(何も答えられないか)
アダムはアルスの意識を刈り取るために何度も打撃を加えたがどうやらまだ防ぐことができる体力は残っているらしく、致命傷になりうる攻撃は全て完璧に防がれた。
(しつこいなぁ……)
痺れを切らしたアダムはCAWに魔力を流し術式を起動させようとした。すると先ほどまで目立った動きをしていなかったアルスが突如としてこちらに手をかざした。
次の瞬間アダムは自分のCAWが暴走し魔力が爆発する未来が見えた。
(何が起きたんだ!)
その未来をみたアダムは無意識にCAWを外そうとしたが間に合わなかった。
「
アルスが魔法の発動を終えるとアダムのCAWの魔力が異常なまでに膨れ上がり爆発する。
「やってくれたね……!」
アダムの手は見るも無残な姿になっていた。
「お前は我慢できない性格だからな。耐え続けていれば自ずと魔法を発動させる。それに《オーバーアシスト》は最善の動きを取ることができても回避の意味がない攻撃を行えば突破することができる」
(それが僕の制御を奪うってことかっ!)
昔とは全く違うやり方をするこの男にアダムは恐怖した。
「昔のままなら異能を使ってゴリ押ししてくると思ったんだけどなぁ……」
「それでも良かったんだがな」
アルスは手をかざし魔法を発動させた。そしてアダムには凄まじい風が身を切り裂く未来が見えた。
(風属性魔法かっ!)
「風神剣舞!」
発動させた魔法は大地の壁に妨げられアダムへと届かなった。
「無駄っ……ですよ!」
すると新たな未来が見えた。その未来は左からは炎が右からは水の塊が頭上からは雷がそして地面からは岩の柱が出現するものだった。
(なんだこれは!)
防御魔法を魔力全開で構築したが、次々に襲いかかる衝撃を防ぎきれなかった。
「【
アルスはそれらの魔法の構築を
出現した巨大な炎はアダムへと襲いかかり、水の塊は強力な爆発をおこし、空気が揺れるほどの落雷と大地の隆起がほぼ同時に発生した。
当然、アダムは防ぎ切ることができず高威力の魔法を向け絶叫した。
「うわぁぁぁぁ!」
魔法を受けボロボロになったアダムは地面へと倒れ伏すとアルスを睨みつけた。
(フラッシュ・キャストか……!)
「これがフラッシュ・キャストの本来の使い方だ。術式を組み立てるとともに遅延魔法を発動させ擬似的な魔法の連続攻撃を可能とする」
(だが、灰色の魔力では四属性同時発動なんて真似は……!)
自身の記憶領域から魔法式を読み取りそれに魔力を流すことですぐさま魔法を発動させることができる技術だ。
だが、魔法式というのはとてつもない数字や文字で構成されているため強力な魔法になればなるほどフラッシュ・キャストの難易度は上昇する。軍人の中でもこれを得意とする人もいるが全くできないという人もいる。この技術は人を選ぶのだ。
「
「よくわかったな」
灰色の魔力の性質はどの属性にも変質させることができるというものだ。その上でそれぞれ属性を変えつつ魔法式を構築し、
(これが灰色を極めた者が到達できる領域の一つっ……! 周囲に各属性の魔法を展開されたら魔力が嵐のように混ざり合ってまともに防御なんかもできないっ……)
アルスは再びCAWを手に取ると起動させ、その銃口をアダムへと向けた。
「あとでゆっくり話を聞いてやる。今は眠れ」
そう言い魔法を発動させるとその魔法はアダムの正面で弾かれるように消えた。
「誰だっ!」
俺は周囲へと注意を向けた。すると一人の男がアダムの後ろに立っていた。サングラスをかけ頭をスキンヘッドにしスーツを着込んだ男だった。男が指を鳴らすとアダムが地面の中に飲み込まれるように消えていった。
(空間系の魔法かっ!)
「だからこの魔法師には手を出すなと言ったのに。この馬鹿アダムは」
そういうとこちらへと両手をあげ敵意がないことを示してきた。
「俺はお前さんとやり合うつもりはない。こいつを回収しにきただけだ」
「逃すと思うか? それに俺らが義賊の情報を掴んだってことを掴んでいたことが気になるからな。帰すわけにはいかないな」
「そうかい、俺は仕事をしたついでに見に来ただけだしな。勝手に帰らせてもらうわ」
アルスが引き金を引き
「厄介なやつだな」
すると周りから人々の声が聞こえてきた。どうやら少し派手にやりすぎたみたいだ。面倒なことになる前に寮へと向かった。
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