第23話 呼び出し

学園生活が始まってから一週間が経ち、学園に慣れてきたところである連絡がアルスの元へと届いた。


(……総帥からか)


今日は学校が休みだったため、アルスは寮でCAWの調整を行なっていた。端末に送られてきた内容にはこう書かれていた。


【緊急事態につき至急、本部へと急行されたし】


短くそう表示されていた。自分のCAWの調整を終え、カグヤを呼んだ。


「本部から緊急の連絡だ。出る前に一応カグヤのCAWを調整する」


「ほんとですかっ! いえ、急がなくてもよろしいのですか?」


カグヤは一瞬喜んだように見えたが、仕事モードへとすぐさま切り替えた。


「一時間で完璧に調整するさ」


俺はリストバンドのようなものをカグヤに渡した。


「これをつけて、魔力を流してくれ。あとはこちらでやる」


不思議そうな顔をしていたが、リストバンドを着け魔力を流すとアルスのパソコンには大量の数字と文字の羅列が表示された。


これは調整の際に使われるもので現代の技術によって魔力の流れや癖を数字と文字に表せるものだ。本来はこのままだと何もわかることはないがアルスは違った。


(ある一定のパターンを一つの魔法文字として定義しそこから癖や魔力を読み取り解析する)


本来ならそこから少しずつ調整して、テストを繰り返してもらって完成形に近づけるのだがアルスには必要なかった。


魔法文字は何千も前に使われていたものであり、その時代では魔法を使う際に用いられていた。魔法文字のメリットはそれぞれの組み合わせによってどういったことが起きるかを予測できることだ。これを逆手にとってアルスは調整にこの技術を応用している。だがこの技術は魔法文字に熟知してなければできない。


そして一時間が経ち


「カグヤ、軽くCAWを起動させてみろ」


そう言うとカグヤは魔力を流し始めた。


(なにっ……これ!)


カグヤが感じた感覚は今までよりも術式の構成が高速化されるようなものだった。それだけではなく、CAW特有の補正も理想的なものになっていた。魔法の補正というのは強すぎても弱すぎてもダメだ。


魔法の感覚はその人にしか分からないようなものや癖があるので何度も繰り返し調整することで理想に近づけるはずだ。


「アルスさんっ! これどうやったんですか!?」


カグヤはアルスの技術に驚愕していた。


「まあ色々とな。見た感じ不具合は無さそうだし本部へと向かおうか」


「はいっ!」


(流石ですっ! アルスさん!)とカグヤはそう思いながら準備を始めた。


準備を済ませるとアルスたちは寮を出た。


―――


本部についた俺たちはエレベーターで六階にある司令室へと向かった。朝早くに来たということもあり、前ほどは人を見かける。その人たちは俺たちが通るたびに敬礼をしていた。


「アルスさん、やっぱりすごいですね」


その様子を見てカグヤは口を開いた。


「魔法師っていうのは実力至上主義だからな。たとえこんなガキでもSS級を討伐したとなると態度は変わる。とはいえここまで変化するとは思わなかった」


そうこうしているうちに司令室へと辿り着いた。


「失礼します」


ノックをし、そう言うと中から「入れ」と聞こえてきた。ドアを開け、中に入るとジェイルが椅子に座っておりその表情は穏やかなものではなかった。


「すまないな。わざわざ直接来てもらって」


「構いませんよ。……もしかして何かまずいことでもありましたか?」


アルスがそう聞くとジェイルは答えた。


「アルテマ国軍の長官の一人が義賊に殺された」


「なんですって……!」


カグヤは思わず叫んでしまった。当然だ、軍の長官を殺されたとなるとこちらも動かないわけにもいかない。なぜなら軍がその報復をすることによって力を示し、国民を安心させるためにも必要だからだ。


「どうやらその長官は軍の経済に携わっていたのだが金をちょろまかしていたらしくてな。私も折を見て裁きを下そうと思っていたが、義賊に先手をうたれてしまった」


ジェイルはそう言うと端末を操作し始めた。


「それでもわざわざ殺す必要まではなかったはずだ」


そこに映し出されたのは長官の首だけになった姿だった。


「ニュースではまだ報道されていないが義賊が悪事をバラしたことで国民にも知れ渡っている状況だ」


「厄介なことになりましたね……」


「だが、こちらも尻尾を掴んだ」


ジェイルは端末を操作すると映像が切り替わった。


「これは未開発地区ですか?」


「ああその通りだ。ここに連中の一人が入っていくのを確認した」


「よく尻尾を掴めましたね」


義賊の犯行はどれも完璧で足を全くつけなかった。しかし情報を入手したとなると軍がどれだけ本気になっているのかも窺える。


「あの人の力を借りて、場所を特定した」


その言葉を聞いた俺は少しばかり驚いてしまった


「もしかして《プロビデンスの目》ですか!?」


ジェイルは静かに頷いた。


(あの人が軍に力を貸すなんてありえねぇぞ!?)


するとカグヤがある疑問を投げかけた。


「すみません、《プロビデンスの目》というのはなんですか?」


俺の代わりにジェイルが答えた。


「すまない、カグヤは知らなかったな。あれは魔眼の一種でな、見たものの全てを把握できるという優れた能力なんだ」


魔眼は異能や魔法とは全く別のものである。その存在は伝説のものだと思われていたが、《プロビデンスの目》を発現させた人物が出てきたことで状況は変わった。


それ以降は魔眼の情報は最重要機密情報に認定され、軍でもそれを知るえるのは極一部の者だけだ。


「ともかくアジトは突き止めた。あとは敵勢力の戦力を調べてから……一気に叩くっ!」


その目には怒りが込められていた。


「だから君たちにはいつでも出動できるよう準備していて欲しいんだ。学校についてはこちらの方で上手くする、何せ緊急事態だからな。いつ叩くかはこちらの方でまた連絡をする」


ジェイルはニヤリと笑った。


「「はいっ!」」


「それと、二人とも神器の使用を許可する。アルス、場合によっては戦略級魔法の使用も許可する。お前が判断して使え」


「了解です!」と俺が言い終えるとカグヤが不思議そうに尋ねてきた。


「アルスさんって神器所有者だったんですか?」


「そういや言ってなかったな。昔に色々とあってな」


俺はそう言うと、右腕にある神器所有者の証を見せた。


「なにもないですよ?」


「ん? ああ、悪い。人に見せるの久しぶりだから消したままだった」


証は自分の意志で消したりすることもできるので普段はこうしてバレないように消しているのだ。カグヤにそれを見せるとジェイルが口を開いた。


「では頼んだぞ」


俺たちは敬礼をし、この部屋から出た。時間もまだあったので寮に帰る前にカグヤの提案で首都の中心部の方へ遊びに行き、気づいた頃には外は真っ暗だった。


「まさか、ここまで長くなるとはな」


横で歩いている少女に話しかけた。


「す、すみません……アルスさんと街を回るのが楽しくて……」


カグヤは恥ずかしそうに呟いた。


「むしろそういうのは女の子らしくていいじゃないか」


(わざわざCAWを持ち出したが使う場面はなかったな)


そんなことを考えてながら道を歩き、人目のない場所へと差し掛かった時だった。


「隊長さんっ! 女の子とデートですか?」


ある人影が俺たちの前に現れた。


「お前はっ……!」


俺たちはすぐさま警戒態勢に入った。その男は藍色のような髪をした少年だった。しかしその少年からはとてつもない殺気を感じた。


「……カグヤ、お前は先に帰れ」


「っ!? アルスさん私も一緒に戦います!」


「その提案はすごく嬉しい。だが、相手が悪い」


俺はその少年へと目を向け、カグヤに告げた。


「そいつは元アルテマ国軍第四特殊作戦部隊隊長、アダムだ」


「どーもアダムでーす!」


(何でこいつがここにいるっ!?)


少年は説明を受け、元気に自己紹介をした。


「正直に言うとお前を庇いながら戦うことができない相手だ。お願いだ、この場は退いてくれ」


(……っ! アルスさん!)


何としてでも無事にカグヤを帰したいというアルスの思いを感じたのか、カグヤは歯を食いしばりながらその場を後にした。


(私にももっと力があれば……っ!)


カグヤの姿を見えなくなるのを確認したアルスは口を開いた。


「軍をやめてテロ組織に身を落としたハグレモノが何の用だ」


「義賊の情報を何か掴んだんでしょー? 俺たちにとっても義賊は都合がいいんでね、まだ潰されるわけにはいかないんだよ」


アダムはそう言うと構えた。


(手袋型のCAWか)


「悪いけど隊長さんにはここで倒れてもらう」


「俺はお前の部隊の隊長ではないがな!」


二つのCAWを服から取り出し、魔力を流した。


(本気でやらないとまずいだろうな)


アルスはそう直感し魔力をフル動員し、こちらへと迫ってくるアダムを迎え撃った

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