第22話 魔力制御と才能

午後の最後の授業は他クラス合同による訓練だった。俺たちのクラスはBクラスと一緒にすることになった。


そもそもクラス分けというのは実力テストをもとに、バランス良く生徒を分けているのだがAクラスだけは毎年偏ってしまうらしい。他クラスにも優秀な人材がちらほらいるが、今年は、リーナやリンに加えて入学テスト主席の西条紅蓮とカグヤがここに集まっているため、他クラスとの戦力差は歴然だ。


ゆえにAクラスは他クラスとの模擬試合はなく、魔法や魔力操作といったものを他のクラスと混ざって行うらしい。模擬試合に関しては別のやり方を考えてるとも言っていた。それがヴェイン曰く、楽に仕事をできるとのことだ。


今回の授業の内容は魔力操作に関する内容だ。


「自分に流れる魔力を制御するっていうのは魔法師においてもっとも重要だ。当然魔法を行使するうえで重要だし、魔法無しで戦う際にも必要になってくるからな。一応コツもあるんだが、今は他のやつと魔力を流し合うっていうのが一番体に覚えやすい。そこでお前たちはペアを作り、ある程度魔力を流し合って感覚を掴めたらCAWの表面を覆うように魔力を流すんだ」


ヴェインはそう言うと自分の大剣を手に持ち、魔力を流し始めた。すると大剣は綺麗な光に包まれる。


「わかりやすいように大げさに魔力を流しているが、ここまで魔力の流れを安定させることができたら満点だ。とはいえ、最初からできるとは思ってないから出来るだけこれに近づけろ。俺は適当に回ってアドバイスしていくから何か聞きたいことがあれば質問は受け付けるぞ」


説明を終えると、ヴェインは大剣を下ろした。それと同時に生徒たちがペアを探しに動き始めた。当然、アルスはカグヤとペアを組んだ。だが軍出身であるアルスたちは基本的な魔力制御であれば完璧にできてしまう。


「魔力操作って結構難しいわね……」


近くではリーナとリンがお互いに魔力を流しあって、感覚を掴もうとしているのが見えた。しかし上手くいってるようには見えず、魔力が乱れまくっている。


「まあな。魔力っていうのは自分の中にあるもう一つの感覚みたいなものだからな。今やってるのは他者から刺激されることで自覚させつつ、流してる本人にも魔力操作の基本的な部分を理解させようってとこだな」


二人に近づき俺はリーナの独り言に解説まじりに答えた。


「あんたはできんの?」


「当然だ」


俺は持っていたCAWに魔力を流し、一切の乱れなく完璧に制御した。


「うそっ……あんた実はすごいの?」


「別に魔力操作だけが得意なやつなんてゴロゴロいるぞ? 魔力の操作はコツさえ掴めばすぐ慣れるぞ」


「ちょっとどうやってんのか教えなさいよ」


リーナは魔力を流すのを止め、こちらへ近寄った。俺はリーナの了承を得ると肩に手を置き魔力を流す。


「とりあえず、魔力の感覚を掴んだらその魔力だけに意識を集中させろ。そしたら何か感じるだろ?」


目を瞑り唸り始めたのでその様子を見守ることにした。


「うーん……なんか自分に変なのが流れているのが強く感じるわ」


リーナは目を瞑りながらそう告げた。


「よし、だったらその流れているものを今持ってる薙刀のCAWに流すように意識するんだ」


(薙刀に流す感じ……)


するとリーナのCAWから魔力の流れをわずかに感じ、それは表面を青色に覆い始めた。


「や、やったわっ……!」


「おう、おめでとさん。次はそのめちゃくちゃな魔力の乱れを整えるんだな」


(ここまで早くコツを掴むなんて驚いたな)


俺はたったあれだけの説明で理解したリーナに感心していた。少し離れたところではカグヤがリンに魔力の制御の仕方を教えていた。


「む、難しいんですね……」


リンが持つナイフ型のCAWには魔力が流れているものの表面を覆うという段階までは達していなかった。


「そうですね。普段はCAWに魔力を流せばあとは魔法の発動まで誘導してくれますからね」


リンは喜んでいるリーナを見て少し嬉しそうにしていた。


「流石はリーナ様です。あの方はやはり才能があります」


「リーナもすごいですが、リンも十分才能あると思いますよ?」


「いえ、私にはリーナ様ほどの才能はないですよ」


俺はその様子を見ていた。


(すぐに感覚を掴める方がおかしい。むしろ、リンの方が普通だ)


今持ってる薙刀に魔力に制御しようと先ほどからリーナは集中していた。


(ふむ、リーナの方は大丈夫そうだしとりあえず合格だけもらってくるか)


俺はやることがすぐになくなったのでヴェインに見てもらいに行くことにした。


「カグヤ! 俺は先生のとこに行ってくる!」


カグヤがお辞儀するのが見えたのでヴェインの元へと足を運んだ。そこではヴェインが生徒に指導をしていた。


「あーちょっと惜しいな。いつもみたいに魔法を発動させる感覚じゃなくて魔力そのものでCAWを覆うんだ」


どうやらこちらも苦労しているみたいだ。


「先生、見てもらいたいのですがよろしいですか?」


するとヴェインはこちらの方へと向き


「お、アルスか。構わんぞ。」


再度生徒の方へと顔を向けると


「いいかお前ら。俺がさっきいったことを意識するんだ。それでもできなさそうならもう一度魔力を流しあって確認しろ」


ヴェインは俺を少し離れたところへと呼び出しテストを始めた。


「少し疑問に思ったんだがあなた一人で全員のテストを見るつもりなんですか?」


「基本的な部分しか見ねぇから10人同時に来てもパッと見りゃわかるさ」


(まぁそれぐらいならできなくもないか……?)


俺はも頑張ればできるとは思うが、一瞬見ただけで複数人の魔力制御を把握するのはとても難しいことだ。


「さて、十秒やるからそれまでにどれだけ魔力を整えられるかやってみろ」


指示通りに魔力をCAWに流したが完璧に制御できるまで一秒もかからなかった。


「まっ、そうだろうな」


「俺が実技の授業受ける必要あるんですか?」


俺はできることならこの授業は力が他の生徒バレる可能性があるため受けたくなかった。


「一応出席しないと、総督から要請を受けてるとはいえ見逃せないんだよな。お前のことを知ってるのは俺と学園長だけだしな」


そう言うとヴェインは結果を記録し終えた。


「はぁ……俺は何したらいいですか?」


「お前はカグヤを隠蓑に使って才能がありそうな奴にさりげなくコツを教えてやれ」


俺は無意識に紅蓮へと視線が向いたが、見たところリーナと同じような状況だったため、教えることはないだろうと判断した。


「わかりました」


そう言い終えると二人の生徒がこちらへと向かってきた。どうやらテストを受けに来たみたいだ。


「すごいね君。テスト合格だったろ?」


どうやらテストの一部始終を見られたようだ。


「……魔力操作だけは自信があるので。あなたは?」


「ああ、ごめんごめん。僕はBクラスのカイン・アルベール」


(こいつは確か、実力テストのランキングでリーナとカグヤと同じく一位だったやつか)


前回行った実力テストは満点を三人が叩き出すという異常な結果になっていた。本来、満点は一人いるかいないかぐらいなのだが、今年は三人も出た。その一人がカインだ。


「俺はアルスだ」


短く自己紹介を終え、その場を俺は去った。


カグヤたちの元に戻る最中にロザリーがペアと共に魔力制御に励んでいたが、上手くいってるようには見えなかったのでアドバイスしに向かった。


「ロザリー調子はどう?」


俺を見つけると首を横に振り答えた。


「全然ダメ」


「ロザリーその人は?」


「同じクラスのアルス君だよ」


(他クラスのの人間か)


アルスがそう考えているとその女子生徒が口を開く。


「へぇー……あんたロザリーに手出したら許さないからね」


「そんなことしないさ」


話を聞く限り、どうやらこの子はエリカというらしい。ロザリーの昔からの友達でかなりロザリーのことを気にしてるみたいだ。


「ロザリーちょっと魔力を流してみてくれないか?」


ロザリーはそれを了承すると俺の手に触れ魔力を流し始めたので、俺も同じように魔力を流した。


(白ではないのか)


感じ取ったのは青色の魔力だった。


(アルス君って灰色の魔力なんだ)


一通り魔力を流し終えたので手を離した。


「魔力制御の最初のコツは、流された魔力の感覚を忘れないうちにCAWに魔力を流すことだ」


「わかった! やってみるね!」


アドバイスを終えると再び、カグヤたちの元へと足を向けた。

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