第21話 図書館での出会い
「……一つ聞いていいか?お前はその先に何を求める?」
紅蓮はその質問にピンと来ていないようだ。
「その先……ですか……」
「言い方を変えよう。仮にお前は全員皆殺しにした後何をするんだ?」
(皆殺しにした後? そんなの……!)
紅蓮はすぐには答えられなかった。
「何も決めてないんだろ? だったらそんな不安定なやつに力を与えるつもりはない」
「っ……! じゃあ俺は家族の仇をうったら何をしたらいいんだ!? そこまで言うならあんたが決めてくれよ!」
(今の俺の生きる原動力は奴らへの復讐心だけだ!)
「はぁ……こんなことすら決められないやつが力を持ったしても、そいつは誰かの操り人形になるだけだ。自分自身とちゃんと向き合え、お前は一体何がしたいのか」
(それにそんな面倒なことをしてやる義理もない)
そう言い俺はその場を去った。
「自分自身とちゃんと向き合え、か。記憶のない俺がよくそんなことを言えたもんだな」
俺は教室へと戻るために歩みを進め、先ほどの問答について考えていた。俺はある場所が目に入り、その足を止めた。
(ここは図書館だったな?)
校舎の周りに立てられた建物の一つで、ここには様々な専門分野の本や物語の本、さらには学園長が気に入った本などが置かれている。
(昼休みの終わりまではまだあるしここで時間を潰すか)
中に入るとそこは本に囲まれた世界が広がっていた。三階の建物になっており、どこを見ても本が目に入るという状況だった。
一階正面にはカウンターがありそこで司書たちが本の貸し借りの手続きをしている。そのほかにも読書スペースといった形で机や椅子などが置かれている場所がいくつかあった。
特に読みたい本もなかったため、二階にある歴史に関する本を手に取り、読書スペースへと移動した。
(さて今回はどういった矛盾があるのか楽しみだな)
アルスには記憶がないものの多少は残っている。こういった何千年も前の歴史を綴っている本にはところどころ間違いがある。その間違いを自分の残っている記憶の中で照らし合わせて指摘するのを楽しんでいる。
「魔王は倒すことができず、和解することによって平和になっただと? はっ、笑わせてくれる。」
アルスが取った本は古代学と呼ばれている本であり、そこには魔王などに関する記述が書かれている。こういった本は数少ない証拠から考察や推測をするなどして本を書いているらしい。
本を読み進めていると、突然後ろから声をかけられた。
「その本……そんなに面白いですか?」
振り返るとそこには青色の髪をもつ少女が立っていた。
(確かこの人は……!)
一時間目の移動の際にアルスが足を止める原因となった人物だ。
「え、うん、まあな」
流石に馬鹿にしながら本を読んでいるなどとは答えられない。少女は横から本を覗き込みその内容を確認した。
「写真と考察しか載ってないじゃないですか……それ本当に面白いですか、アルスさん?」
自分の名前を呼ばれたことで一瞬警戒したが、クラスメイトであるため不自然とは言い切れない。
「悪い、実はまだクラスメイトの名前を覚えていないんだ」
すると少女は慌てたように姿勢を正した。
「ごめんなさい! 私はロザリー・ペトロと申します」
(ペトロといえば聖女とかいう異能持ちの家系だよな)
「改めて、アルス・クロニムルだ。アルスでいい」
「私もロザリーと呼んでくれると嬉しいです」
聖女については情報が一部秘匿されている部分もあるので詳しくは知らない。だからこそアルスの知的探究心を掻き立てた。
「確か、ペトロと言うと聖女の異能持ちの家系だったよな」
「……はい」
(ん? 何か不味かったか?)と思ったが質問を続けた。
「聖女の異能ってどんなことができるんだ?」
「簡単にまとめますと、治癒と特別な能力が使えます」
「特別な能力っていうのは一体何なんだ?」
「それ以上詳しくはお話しすることができません。それに私にはその聖女とは違う異能があるらしいんです」
「そうだったのか」
(なるほど、そういうことか)
異能が目覚めないとなると別の異能の可能性を疑うのがほとんどだ。だがそれは本来受け継がれる異能を上書きしてしまっている。
アルスのように異能が変化したところであまり気にしない家系が大多数を占めているが、中にはそういったことが許されない家系もある。
その一つがペトロ家だ。ペトロ家の異能の歴史は他とは桁違いに違う。それこそ魔王がいた時代から受け継がれているともいわれている。それにこのペトロ家というのは教会とも繋がりが深い。
教会というのは騎士団と同じような組織で、子供の支援などを行なっている。そして騎士団の儀式を行うのがこの教会でもある。
(聖女の質問で様子がおかしかったのはこのせいか)
アルスは知らぬ間に地雷を見事に踏み抜いていたのだった。
「すまないな。変なこと思い出させてしまって」
「い、いえ! もう慣れましたから……」
(嘘だな……家族から迫害もされてきたはずだ。心の傷は簡単には癒せないぞ)
それでもこの王立第二魔法学園に入学できたのは彼女が努力したからであろう。つい無意識に彼女の頭にポンと手を置いて言ってしまった。
「頑張ったんだな……」
「ほにゅ?」
とっさのことでロザリーを変な声をあげてしまった。
「わっ! 悪い!」
俺は急いでその手をどかした。だが彼女は耳まで赤くなって黙り込んでしまった。すると10分前の予鈴が図書館に鳴り響いた。その音を聞いた生徒は一斉に片付けや移動を開始した。
「ロザリー、授業が始まるし俺たちも教室に戻らないか?」
「は、はいっ!」
図書館から出て、教室へと二人で向かったがその道中お互い顔を合わせることはできなかった。
戻った俺たちをカグヤとリーナが出迎えた。
「時間ギリギリよ、あんた。どこに行ってたの?」
「ちょっと図書館にな」
「アルスさん、そのお方は?」
「ああ、紹介するよ。図書館で知り合ったロザリーだ」
俺がそう言うと頭をぺこりと下げた。その様子をリーナたちは驚いた様子見ていた。
「うそっ……! あんた普通に女の子と話せたの!?」
「どう言う意味だ」
失礼極まりないことを口走るリーナにデコピンをくらわせた。それぞれ自己紹介を終えると一時間目と同じく席へと向かった。その移動の際に紅蓮と目があった。
(まだ……みたいだな)
紅蓮の目からは迷いというものがまだ見られた。しかしアルスは確信していた。
(お前は……昔の俺と似ている。だからこそ俺には分かる。必ず、自分の進むべき道を見つけられると。)
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