第20話 炎の過去
時間が経ち、ちょうど昼休みになり、アルスは教室で休んでいた。授業といっても一時間目の体力テスト以外は説明ぐらいしかなかったのでまともなことはしていない。
「アルスさん、お昼ご飯はどうなさいますか?」
カグヤが席に座ってた俺に話しかけてきた。
「適当に買ってくるつもりだ」
短くそう告げ席を立った。
「でしたら、リーナさん達と食堂に行きませんか?」
「食堂か……」
(人が多そうだし、面倒だな)
「いや、俺は遠慮しておくよ。カグヤだけでも行ってきたらどうだ?」
「ですがアルスさんが……」
「気にするな。友達付き合いは必要だろう?」
そう言うと少し表情を暗くしたカグヤは「では、失礼します」と言いドアで待っているであろうリーナとリン達の方へと向かった。
(さて、どこで時間を潰そうかな?)
アルスがそう考えると意外な人物が話しかけてきた。
「あなたがアルス・クロニムルですね?」
「うん?」と声のした方へ顔を向けるとそこには紅蓮が立っていた。
「俺は西条紅蓮です。話があるんですがいいですか?」
「話って何ですか?」
そう聞き返すと紅蓮は周りを少し気にするようにし声を落とす。
「あなたの力についてです」
(こいつ……どこで知った?)
アルスは学生用の顔を作りつつも、内心警戒していた。
「……力って何のことですか?」
(こいつが俺の力をどこまで知ってるか探る必要があるな)
紅蓮は俺の耳元へと近づく。
「やはり訳あって隠しているようですね。先ほどの体力テストでも明らかに手を抜いてるように見えました。どう考えてもヴェイン先生を倒したときとは比べ物になりません」
俺はすぐさま提案した。
「場所を変えませんか?」
俺たちは校舎の裏側にある人目のない場所へと移動し、紅蓮と向かい合った。
「さて、単刀直入に聞きます、なぜ俺がヴェイン先生を倒したのを知ってるんですか?」
「試合を……直接見させていただきました。」
(確かこいつはヴェインの攻撃を受けて医務室に運ばれたはずだ。なぜそんなやつが見学席にいたんだ?)
「俺はあのあと気絶しましたが、すぐに目覚めたらしいです。だからもう一度ヴェインさんの力を見て自分の糧にしようと思い、模擬試合場へと向かいました」
(どうやら嘘はついてないみたいだな)
アルスは極限まで目を集中させて観察したが紅蓮からは何かを隠してる素振りが全く見えなかった。
「そこで目にしたのはあなたがヴェインさんと互角以上に戦ってる姿でした」
「そういうことですか」
アルスは再び笑顔を作ると紅蓮に聞いた。
「それで何が目的なんですか?」
(これを盾にして、俺の平穏な学園生活に害をなそうとするなら)
アルスはある覚悟を決め紅蓮の答えを待った。すると予想してたのと違う行動を紅蓮がとった。俺に対して頭を下げたのだった。
「お願いします!!! 俺に魔法を教えてください!!」
「はっ?」
あまりに唐突だったためそれしか言葉が出なかった。
「あなたが
「……そこからしか見てないのか?」
紅蓮は顔だけをあげ、答えた。
「? そこからと言われましても、私が見始めたのはあなたが
(
アルスは少しホッとし、力を求める訳を聞いた。
「どうしてそこまでして、力を求めようとするんだ?」
そう聞くと紅蓮は決心したかのように話し始めた。
「俺がまだ幼い頃、家族と一緒に旅行に行ってました。ですが……偶然起きたテロに巻き込まれてしまったんです」
紅蓮は言葉を紡ぐたびに苦しそうにしていた。
「俺たちはそこで人質として捕らえられました。そのテロ組織の人たちは過激派と言われているような人たちで、うるさくすれば即射殺なんてことを平然としていました。」
「しばらくすると騎士団の人たちがテロ組織が人質を集めた建物へと乗り込んできました。そこで乱戦になったので、隙を見て俺たちは脱出しようと思いました。……だけどっ…それが……駄目だった!」
紅蓮はまるで何かに耐えるように言い切った。そして当時の様子を事細かく思い出すかのように話した。
―――
「今ならいける! お前たち行くぞ!」
父はそう言うとその隙を見て、俺たちを引き連れて逃げ出そうとした。しかし、逃げ出した先にはテロ組織の男が待ち構えていた。
「おうおう、あの人の言う通りだな。ここで待ってりゃ逃げ出そうとするネズミが釣れるってな」
男は楽しそうに言うと発言を続けた。
「突入のタイミングでわざと監視を甘くしつつ逃げやすいルートを作りそこに誘導するって、流石だなリーダーは」
その男は銃を構えると引き金に指を置いた。
「逃す訳ねぇだろ?」
その様子を見ていた父は、男へと向かい走り出した。
「今のうちに逃げろ!」
そう言い放ち男に殴りかかったが
「舐めてんのか?」
大量の銃弾を受けてしまい、その場へと倒れ伏した。
「さーて? 次はあんたらだな?」
再び引き金を引こうとしたタイミングでとっさに母が幼かった俺と姉を庇った。
「この子たちだけでも!」
母は涙を流しながら、その銃弾から身を挺して俺たちを守ってくれた。
「無駄な抵抗をしやがって……次は坊やたちだな!」
男は銃口を俺たちに向けると笑みを浮かべた。だが、後方から魔法のようなものが飛来し男を襲った。
「クソッ……間に合わなかったか!」
騎士団の人が助けに来てくれたみたいだった。だけど俺たちはただそこで静かに涙を流し呆然とすることしかできなかった。
騎士団の人と男による戦闘が始まったが、すぐに決着がついた。
「こんな…ところでっ…!」
騎士に斬られた男は父の横に倒れた。
「すまない! 君たちのお母さんとお父さんを助けてあげられなくてっ……!」
騎士団の人はひたすら謝ってくれたけど、俺の頭には優しい父と母が死んだとこで一杯だった。すると横から暖かい手の温もりを感じた。お姉ちゃんだった。
「紅蓮……きっと大丈夫よ……これからは私が守ってあげるっ……」
お姉ちゃんはすぐに父と母の死を受け入れ前に進もうとしてるように見えた。しかし、それとは裏腹に握ってくれた手は震えていた。でも俺はお姉ちゃんみたいに強くならくちゃいけないと思い、前へと進み出そうとした。しかし
「パァン!」
乾いた音が鳴り響いた。
「へへっ……トリプルキルだぜっ……」
「きっさまぁ!!」
かろうじて生きていた男が射撃を行なっていた。騎士団の人はすぐさま止めを刺し、紅蓮の方へと振り返った。
(俺が甘かったかっ……!)
「お姉……ちゃん……?」
お姉ちゃんの横腹から血が流れていた。
「ごめんね……紅蓮……やっぱり守ってあげられないみたいっ……」
そう言い終えると俺の方へと体を預けた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺はひたすら涙を流しながら泣き叫んだ。そこからはあまり覚えていない。騎士団の人が俺を保護してくれて、そこから西条家の養子となったぐらいしか詳しくは覚えていない。
―――
紅蓮は言い終えると再びこちらへと頭を下げて頼んだ。
「だから俺にはっ! 誰にも負けない力が必要なんです! もう誰にも奪われないようにするために!」
次の瞬間、紅蓮から凄まじい殺気が放たれた。
「そして、奴らを全員一人残らず殺すために」
その男の目から強い恨みと覚悟をアルスは感じ取ったのだった。
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