第19話 クラスメイト

この学園の教室は特に席は決まっていないので俺は適当に窓から外が見える後ろの席についた。それを見たカグヤは俺の横へと座った。


周りを見ると、昨日のテストの内容や魔法についての話題で持ちきりだった。その中にはヴェインや学園長の名前も挙がっていた。


「なあなあ! 俺、葉隠はがくれナオトっていうんだけどあんたは?」


突然、前の席に座っていたであろう生徒が体をこちらへと向け話しかけてきた。その見た目は活発そうな容姿をし、茶色の髪をしていた。


「俺はアルス・クロニムルだ」


「へぇー、んじゃアルスって呼ぶことにするわ! 俺のことはナオトって呼んでくれ! 一年間よろしくな!」


妙に馴れ馴れしいので何か企んでるのかと思ったがこういう性格なんだろうということで納得した。ナオトは席から身を乗り出し、俺の耳元へと口を近づける。


(お前の横の女の子ってもしかして彼女か? )


(違うぞ、ただの親戚だ)


(彼氏とかもいんの?)


(そういう話は聞いたことないな)


(そうなのか! だったら紹介してくれよ!)


どうやらカグヤのことが気になってるみたいだ。リーナやリンも美少女と呼ばれる部類に入ると思う。しかしカグヤはそれとは別枠だ。


カグヤは可愛らしい見た目に反して大人の雰囲気を出しているのに加えて、人当たりも良い性格をしているためどちらかというとかなりモテるタイプの人間だろう。


そこであることを思いついた俺は隣で読書をしているカグヤの方へと向き、笑いかけた。


「カグヤお前に運命の人の紹介だ」


カグヤは普段から笑顔を絶やさないでおり、妖しく、そして可憐な顔を保っていたが、今この瞬間だけその顔が崩れた。


「こちらは葉隠ナオト。お前に一目惚れらしい」


「ちっすちっす! 葉隠ナオトです! ナオトって呼んでいただければ幸いです」


「これはご丁寧にどうも。私は夜姫カグヤと申します。好意はありがたいですがあいにくと私には思いを寄せている殿方がおりますのでごめんなさい。」


それを聞いたナオトは俺に掴みかかり


「好きな人いたのかよ!?」


と問い詰めてきたが


「悪い、俺も知らなかった」


興奮するナオトを宥める。すると横からカグヤが俺の横腹を抓りはじめた。その力は強く、俺はカグヤに止めるようアイコンタクトを送る。


しかしカグヤはそんなの分かりませんと言わんばかりに力を強めた。


「俺が悪かった……二人ともすまなかった!」


謝罪をすると、カグヤは先ほどと同じく読書に戻り、ナオトは自分の席へと着席したが、未だにこちらへと体を向けていた。少しすると、見慣れた二人が入ってくる。


「あーアルスとカグヤじゃない! あんたたちもここだったのね」


リーナとリンだ。二人はカグヤの横へと座り、こちらに話しかけた。


「カグヤ、テストの結果どうだったの?」

 

「ほぼ満点でしたわ」


カグヤは特に偽ることなく答えた。


「やっぱりね! 私も満点だったわ」


「そういえばリンさんはどんなテストだったんですか?」


「私のテストはいかに魔法を駆使して制限時間内までに魔物から生き延びるという内容でした」


テストの内容を話すと、リーナがそれに反応した。


「このテストね、リンの使う魔法と相性がとても良かったのよ。カグヤと同じ緑色の魔力持ちだけど、攻撃魔法が得意ってわけじゃなくてね、自分に付与する魔法とか防御魔法が得意なのよ」


リーナに捕捉をしてもらったリンは嬉しそうに話し出した。


「B級の魔物から生き延びる必要がありましたが、私にとっては容易なものでした。それにリーナ様やカグヤさんと比べたら大したことないですよ」


リーナはふと俺に目を移すと何かを思い出したみたいだった。


「そういやあんたのテストの内容知りたいわね? どんなのだったの?」


「俺のはヴェイン先生と模擬戦をする内容だった」


リーナは驚いた様子で口を開けていた。


「それって一番キツいやつじゃないの? 噂になってるわよ、何人も医務室送りにされたって。もしかしてあんたもその一人なの?」


「あ、うん、まあそんなところだ」


どうやらヴェインのテストだけは他のと比べて有名みたいだ。実際には気絶なんてしてないが、それを言うと怪しまれるからリーナの発言に便乗することにした。


それを聞いていたナオトが再び俺の耳元へと、顔を近づけた。


(おい! お前どんだけ美少女と知り合いなんだよ!)


(いつの間にかこうなってた)


ナオトは今度はリーナとリンへと向き、自己紹介を始めた。


「俺、葉隠ナオト!ナオトって呼んでくれ! 君たちの名前は?」


「私はリーナ・リースフェルト、私もリーナでいいわ」


「リーナ様の従者である、リン・アレクシアです。リンとお呼びください」


(そういや二人のラストネーム初めて聞いたな)


「わかった! 二人とも一年間よろしくな! あ、ちなみに俺の内容はシンプルに生徒同士で模擬戦させられた」


そういった具合でナオトも会話にまざり、しばらく話していた。話していると入り口の方からある集団が入ってくるのが見えた。


(あれは西条紅蓮か?)


「お? 主席も同じクラスなのか?」


ナオトはそう言い紅蓮の方へと視線を向けた。


「確か、実力テストでも上位の方だったよな?」


「すごいよねー、でも一位じゃなかったみたいよ?」


「仕方ないでしょ! だってヴェインさんのテストだったらしいのよ?」


そういった話し声が聞こえてきた。紅蓮たちは気にする素振りを全く見せず一番近い席へと腰掛けた。



チャイムが鳴り、ある人物がドアから姿を見せた。


「全員座ってるかー? ならホームルーム始まるぞ!」


その人物が入ってきた瞬間、教室がざわめいた。当然だ、その人物とはヴェインだったからだ。


「こらこら騒ぐな、進められんだろうが。」


ヴェインは教卓の前へと立つと端末を操作した。


「うむ! 全員出席登録をしているな!」


全員の出席を確認すると、自己紹介を始めた。


「俺がこのクラス担当を持つヴェインだ。一年間よろしくな」


その発言が聞こえるとともに、教室は沸き立った。


「あのヴェインさんが担任なの!?」


「まじかよ! 運がいいじゃん俺ら!」


そういった内容の声が聞こえてきた。


(あのテストを見てないから、喜べるのか)


ふいに静かになっている方へ目を向けると、驚きのあまり停止しているもの、顔に焦りを浮かべた者が少数いた。同じテストを受けた生徒だった。


「静まれ! 授業の形式の説明ができないだろうが!」


ヴェインは静かになると、説明を始めた。座学は担当の教師がそれぞれいるのでその教師が授業をすること、実技は基本一クラスずつやるが、たまに別クラスや技術者志望の生徒と合同になる場合があるらしい。


あとは学食のシステムや図書館などといった施設の説明だった。説明を終えると質問タイムに入り、ある生徒がヴェインに質問をした。


「先生! 最近有名になってる義賊についてどう思いますか? 元騎士団団長としてどういった見解がありますか?」


「全然関係ねぇじゃないか……まあいっか。義賊についてだが、俺は興味がない。あと、ここだけの話どうやら他種族が関わってるかもしれないんだ」


「他、他種族ですか?」


生徒は少し驚いていた。当然だ俺たち人間ヒューマンの国で義賊をしているのが他種族となれば多少は動揺するだろう。


「魔法の発動の痕跡があったみたいなんだが、どうやら人間のそれとは全く違うらしいんだ。だから他種族が関わってるって話になった」


「き、聞いていて、思ったんですが、そ、それって僕たちに話していい内容だったんですか?」


「そのうちニュースで報道するつもりだったらしいから別にいいんじゃないか? それにこんなこと勘のいいやつなら気づくしな」


「一時間目は体力テストだ、さっさと準備して来い」


ヴェインを言い終えると出席簿を持ち、この教室を出た。


俺たちは席を立ち上がり、CAWを持って移動を始めようとした。だが、教室を出る際、一人の生徒に目を奪われた。


(あれは……?)


そこには美しい青色の髪の毛を腰まで長く伸ばしたものを三つ編みにし、後ろに束ねた女子生徒が未だに読書を続けていた。


特徴があるとすれば他の女子生徒よりも身長が低く、とても可愛らしい容姿をしているぐらいだろう。まるで小動物みたいだ。


その生徒を見た瞬間、俺の頭に頭痛が走った


(っ……!?)


俺が立ち止まっているとカグヤが話しかけてきた。


「アルスさんどうしましたか? やはり具合がどこか悪いんですか!?」


「すまない、心配かけたな。もう大丈夫だ」


(髪の色と容姿が似ているだけであいつとは限らない。あいつには特別な異能があったしな)


俺はその可能性はないと判断し、実技棟へと向かった。

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