第二章 義賊編

第18話 プロローグ

月がかけた夜のこと。その部屋からは肉を打ち付ける音と誰かが泣いてる音が混ざり合っていた。


「へっへっ……若い女はやっぱりいいなぁ……」


腰をひたすら振る男とそれを受け入れている女がいた。しかし女の方は泣くのをやめて、何もかもがどうでもいいような顔をしていた。


「ちっ……! もう壊れたのか!」


男は女、少女の顔をゆっくりと舐めると、ベッドを降りてから端末を操作し、秘書に電話をかけた。


「俺だ! この女もう使いもんにならなくなっちまった! 新しい女を用意しとけ!」


そう言い終えると、画面を閉じ、ワインをグラスに注ぎ口につける。


「やっぱり、少女の泣き声を聞きながら犯すっていうのをやめられんなぁ」


ワインを飲んでいると、俺と少女しかいないはずの部屋に見知らぬ声が響いた。


「そんなに楽しいですか?」


「誰だっ!」


声のした方を振り返ると、不思議な仮面をした人物が立っていた。その仮面は半分は泣き顔、半分は怒っているような顔というデザインだった。


「そこのお前……! 一体どうやって入ったんだ!?」


(鍵はこちらからあけることしかできないはずだ!)


「普通にバルコニーから入りましたよ?」


そう言うと開いてないはずのバルコニーを指さした。


(ふざけてるのか!? だったら気づかないはずないだろ!)


この部屋には大きなベッドがあり、そこから左にはバルコニーへと出る扉、右側はこの部屋の扉という配置になっている。そのためバルコニーの扉が開けばすぐに気づくはずだった。


月の光を後ろから浴び、バルコニーの扉の前に立つ画面の男は口を開いた。


「そんなことどうでもいいですよ。今問題なのはあなたを評価した結果生きる価値がないという結果が出てしまったことです」


「おいっ! こんなことしてタダで済むと思ってないだろうな!」


「これから死ぬあなたに関係ないですよ。そうそう金品のは全て奪わせていただきましたのでご了承ください」


(こいつ、まさか義賊とかいう連中か!)


男は警備システムへと通報したがその手は動かなかった。


(なんだこれは! 体を動かせない!) 


「面倒なことになる前に魔法をかけさせていただきました。さて、あなたの悪事を裁くとしましょうか」


本来魔法というのは魔法式によってその現象が引き起こされる。魔法式は複数の術式と魔力によって成り立つがこの仮面の男からはそういったものが全く見られなかった。


そしてその仮面の男は両手を思い切り広げた。


「身寄りのない子どもたちを救うはずの立場であるあなたが! その中から数人、いや数十人もの少女を監禁して犯すという非情な行為、到底許されませんね?」


(こ、こいつ! なぜそれを!?)


「監禁されていた少女はこちらの方で救い出しました。あなたは権力があるお方ですから少しのことならもみ消すことができますよね? 身寄りがないというなら尚更、足がつかないですし。そうして表は偽善者の顔をし、人々を騙したあなたは……」


仮面の男は手をこちらへと向けると魔法を発動させた。


「死ぬべきです」


(あっ……れ?)


男の視界は反転し、いつも見ているはずの世界は逆さまに見えた。そして、ボトンと首が落ちる音が部屋に響いた。


―――


翌日、身寄りのない子どもを支援し、信頼を勝ち取ってきた男の死亡と悪事がニュースによって国民へと知り渡った。当然、そのことを知った国民は男に憤怒したがすぐに収まった。なぜならこれは義賊による犯行だということをすぐに理解したからだ。自分たちの代わりによくやったとさえ言われている。


男の金品は全てなくなっており、それらは全て孤児院や病院などへと寄付されていた。


「義賊が出たのか」


「そうみたいですね」


カグヤとアルスは朝ごはんを食べながらニュースを見ていた。


「アルスさんは今回の件どう思ってるんですか?」


カグヤが聞くと


「軍人にそれを聞くか?」


とアルスは答えた。


(これで何件目だ? テロ対策で忙しいときにこんな事件起こされたら面倒だぞ)


国際テロ組織がこの国へと侵入したこともあり、今国内はピリピリとしていた。


(それに足が全くつかないってなると捜査もしにくいしな)


義賊の犯行の足がかりさえも見つけられないとなるといよいよこの件は今は放置せざるを得なくなる。幸い、義賊は国民のからの人気があるので今すぐ手を打つ必要がないと国も判断するだろう。


「アルスさん……? お体の方は大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ心配するな。3時間も睡眠をとることができたしなんの問題もない」


アルスは任務を終えてから、すぐに戻ったがその頃には時計は四時を指しており、ゆっくりと睡眠をとる時間はなかった。


「そろそろ時間だな」


時計を確認すると、二人はCAWを持ちこの寮を出た。


「確か俺らのクラスは1年A組だったな?」


「はい。アルスさんは昨日のテストの結果どうでした?」


「もう結果が届いてるのか」


俺は端末を操作し、結果を確認した。


(良かった……上手くやってくれたみたいだな)


結果はそこそこになっておりランキングはちょうど半分あたりになっていた。ひとまず安心したアルスたちは教室へと向かうのだった。

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