第17話 エピローグ

しばらく、といっても数分後にヴェインは目を覚ました。


「はっ! 俺は一体……! そうだ試合は!?」


「あんたの負けで決着した。」



アルスは端末を操作し、スクリーンの勝敗履歴をヴェインに見せた。


「ははっ!! あそこまで力を出して負けるとなるとむしろ清々しいな! 流石は最強の魔法師だな!」


「最強の魔法師は老師様だろ?」


「だったら、時期最強の魔法師ってところか!」


悔しがるというよりかは本気を出せたことに喜んでいた。


「ならさっさとここを出ないか? 俺が一人で出ていくと怪しまれるからずっと待ってんだよ」


「ぬぅ……それについてはすまない!」


そう言うと手元の端末を操作し、テストの終了の合図の音をだした。すると扉の方から上級生の人たちが入ってきたが、俺のことを見ると不思議そうにしていた。


「こいつは気絶させたんだがすぐに起きやがってな。面白かったし、ちょっと遊んでたんだ」


「先生、悪ふざけは大概にしてください。そこの君、一応医務室へと行っておきなさい。万が一があったら大変だ」


「わかりました」


そのまま出て行こうとすると、ヴェインに呼び止められた。


「テスト結果とクラス分けは後日連絡する! 楽しみにしとけよ!」


その言葉が聞こえたとともに模擬試合場を出た。


俺はカグヤに一度連絡を入れ先に帰るとだけ伝えた。寮へと一人で向かっていると広場の方で人が集まってるのが見えた。どうやら揉め事があったみたいだ。


(まぁ俺には関係ないがな)


知らぬ存ぜぬという顔で生活エリアと真反対の方向、研究エリアに足を運ぼうとすると一人の女子生徒がその仲裁に入っていくのが見えた。透き通るような白い髪に宝石のような赤い目、凛とした雰囲気を放つとても綺麗な女性だ。


(どこかで見たことあるな)


随分昔にあったことがあるような気がしたが恐らく俺の勘違いであろう。その女子生徒は生徒会長らしく、仲裁に入ると一瞬で解決されたみたいだ。動きを止めていた足を再び動かし、再度寮へと向かった。



―――


帰ってから少しするとカグヤも同じように帰宅した。


「ただいま戻りました」


「おかえり」


短くそう返すと少し嬉しそうにしていた。晩ご飯の準備を進め同じ食卓につく。そしてカグヤは今回のテストについて語り始めた。


「私のテストはなかなか大変でしたよ? 仮想空間でB級の魔物と戦うことになりまして、当然それが初の魔物との戦闘の方が多くいろいろと問題がありましたわ」


「最初からハードだな。心が壊れなかっただけマジじゃないか?」


魔物との戦闘により、死の恐怖やその威圧に耐えられず心が壊れるものも魔法師の中にはいる。


(学園長も上手いな。比較的見た目も、性格もマシなやつを相手させることでそういったものを薄れさせたのか)


「でもお前はB級の魔物じゃなかったよな?」


「ええ、私のいたグループはA級と戦うことになりました。だけどリーナも一緒だったしなんとかなりましたわ」


「リーナと一緒だったのか?」


アルスはカグヤが淹れてくれた紅茶を一旦机に置き、カグヤに質問をした。


「はい。彼女には異能はないみたいですがその分魔法の才能に特化してるように感じましたわ」


(意外だな……知識専門だと思ってたが戦うこともできたんだな)


「アルスさんはどういったものでした?」


「元騎士団団長さんと戦った」


「まさか! ヴェインさんですか!?」


「ああ、生徒をまとめて相手してたが凄かったぞ」


カグヤはあることに気づき笑顔でこちらへと質問してきた。


「もしかして全力で戦いましたか?」


「ああ。だがその前に周りの生徒を排除したから誰かに見られてる可能性はないと思うぞ」


その言葉を聞いたカグヤは安堵した。しばらく話してると俺の端末が鳴り響いた。名前の表示は総帥だった。


「席を外す」


そう言うとソファから立ち上がり廊下へとアルスは向かった。


「もしもし?」


「元気にやってるか? 問題は起こしてないか?」


(俺は問題児かっ!)


「ええ、今のところ問題はないです」


「さてお前に連絡したのは他でもない。南の大陸から魔物の大群がこちらへと進行しているみたいなのだ。そこでお前の力を借りたい、引き受けてくれるか?」


(大群か、どれくらいの規模かによるが……)


「規模はどれくらいなんですか?」


「引き受けてくれるなら話すが」


(この人がわざわざ連絡をよこすってことは高ランクが紛れてるな)


アルスは小さくため息をするとその提案を受け入れた。


「わかりました。引き受けます。詳細な情報をお願いします」


総帥は嬉しそうに「そうか、そうか」というと説明を始めた。


「まずクラスについてだが、S級の存在はなし、A級は数十体、あとは二百ほどのB級だ。」


「なるほど……俺に頼んだ理由がわかりましたよ」


(俺以外に単独で止められる奴が軍にはいないのか)


A級が数十体となると、かなりの人員を要する。それに加えてB級の魔物二百体となると部隊をいくつか編成しなければならない。だがアルスの場合はちがう。


「お前なら一人で十分だろ?」


「問題ありません」


「だったら今夜向かってほしい。座標はすでに端末に送った。くれぐれも戦略級魔法の使用だけは控えるように、いいな?」


それだけ伝えると通信を終えた。


―――


深夜になり、俺は黒と白のCAWを持ち外に出ようとした。


「待ってください。どこに行く気なんですか?」


「任務だ」


するとカグヤは準備を始めた。


「どうして言ってくれなかったんですか? 私は監視役ですよ? 私も行きます」


しかし俺ははっきりと突き放した。


「駄目だ。任務に支障がでる。今回の任務は本来大人数で当たるものを俺が一人で処理することになってる。わかってくれ」


そう言い残すと部屋を出て行った。


(わかってないのはあなたですよ……私はただ……)


少女は悲痛な思いを押し殺し、ベッドに座り込んだ。



―――


そこは木々に包まれた場所だった。月が周りを明るく照らし実に美しかった。


(来たな)


アルスのにいくつもの魔力がこちらへと向かってくるのを見つけだし、戦闘態勢に入った。


俺は白のCAWを地面に向け引き金を引いた。すると魔力のようなものが周囲へと一瞬で伝わっていく。


「ダウンロード開始」


数秒後に魔物がその地点を通るであろう座標の情報を読み取る。そして黒のCAWを向かって来てるであろう方向に向け、引き金に手を置いた。


(追加情報を確認、この情報を加え再構築……完了)


一瞬で魔法式の修正を行ってから引き金を引いた。


氷結世界コキュートス」 


放たれた魔法は数キロある場所で発動した。


(何体か仕込め損ねたな)


目で確認したアルスは森の中を光の如く速さで駆け抜けた。そして着いた場所には一体の魔物が魔物の群れを率いていた。


「A級の尖角竜じゃないか。奇遇だな」


その周囲にはB級の魔物が集まっていた。


(なるほど、こいつの能力で魔法を軽減したのか。しかし……)


その姿はボロボロで至る所に凍傷が確認でき、足には氷の刃が刺さったままだった。


(運が良かったのかもな……こいつが死んだら、リーダー格を失った魔物は多方面へと暴走して、いちいち狩りに行く必要があるからな)


アルスは黒のCAWを構えると引き金をひいた。


「さよならだ。 氷結地獄ニヴルヘイム


放たれた魔法により辺りは氷の世界へと変化した。


死体の山を築いたアルスは夜空を見上げ呟く。


「アロマ……必ず見つけ出してやるからな」


―――


明るさか照らされたその部屋には二人の男が話していた。


「ボス、派手にする必要はなかったんですか? 教会の船を襲うなら尚更ですよ」


「そんなことですか。簡単に言えば事を大きくする事で内々に処理させないためにです。あれだけ派手にしたにも関わらずニュースに出なければ流石に国民も疑惑の目を向けます」


サングラスをかけた男が黒の長髪の男に報告をしている最中であり、疑問に思った事をボスである長髪の男に質問していたのだ。


「目的の物は?」


ボスと呼ばれたその人物がそう聞くと、サングラス男は空中から水晶のようなものを取り出しボスの机に置く。


「……もう一つは?」


「それについて何ですが我々が奪うよりも前に何者かよって奪取された可能性があります」


「……わかりました。ひとまずご苦労様です。あと悪いんですがもう一つあなたに頼みたいことがあります」


長髪の男は端末を操作してスクリーンを空中に出現させる。そのスクリーンには仮面をつけたある男が映っていた。


「これで三回連続連続ですよ? 休暇が欲しいです」


「これが終わったら休暇を与えますから。頼み事というのは義賊の件を大きくしてください。手段は問いません。とりあえず国民の注目を集めてください」


「それに何のメリットが?」


長髪の男は笑う。


「木を隠すなら森の中、ですよ。ついでにあの子の面倒も見てください。頼みましたよ?」


返事をするとサングラス男は部屋を出た。一人になった部屋で長髪の男は独り言を漏らす。


「ふふ、まさか我々以外にも魔王の遺物を狙っている方たちがいるとは。楽しくなりそうで仕方ありませんよ」


水晶に手をかざすとそこからとても禍々しい雰囲気を感じ取る。


「もしかしたらまたあなたと戦うことになるかもしれませんね。剣聖さん」

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