第15話 ヴェインとの激突 前編

始まると同時にヴェインはCWAに魔力を込め、そのまま駆け出してきた。


「うぉぉぉぉ!」


本来は両手で持って使うはずの大剣を片手で振るった。


(速いっ……!)


アルスはその攻撃を間一髪で避け、そのままCWAの引き金を引いた。放たれた魔法はヴェインへと直撃する。


「ウェーブ…かっ……!」


(結構強く脳を揺らしたんだがな)


少し怯んだもののまだまだ戦えそうな雰囲気ではあった。するとCWAによる発動準備を終えたヴェインは空いた手をかざし魔法名を叫ぶ。


「聖域!」


ヴェインの周囲の地面が光に包まれ、やがて模擬試合場の地面を光の魔力で覆った。


「これは初めて見る魔法だな」


アルスの呟きにヴェインが答えた。


「当たり前だ。これは異能と魔法の組み合わせによって作り出した俺の魔法だからな。俺以外に使えるやつはまだ見たことねぇよ」


(何かしらの支援系魔法だとは思うが……いずれにせよ情報が少なすぎる。)


「おら! 次いくぞ!」


再びヴェインはアルスへと向かい走り出した。向かってくるヴェインにCWAの照準を合わせもう一度引き金を引いた。


(術式を書き換えたようには見えない。だったら先ほどと同じ系統の魔法だな)


ヴェインは異能の一つである光の衣を見に纏うことで次に来るであろう衝撃に身構えた。


(これを耐えてそのままやつを叩く!)


しかし


「なっ……」


予想していたものとは違い、それはヴェインの片足を射抜いていた。その衝撃からヴェインは片膝を地面につけることになる。


「これはまさか! 灰属性魔法!」


アルスはCWAに再び魔力を込めるとヴェインの頭へと照準を合わせた。


「その中の射撃系魔法・暴走光線レイジ・レーザーだ」


「おいおい冗談だろう……?その魔法は実用段階ではなかったはずだ!」


「この魔法は灰色特有の曖昧な性質を利用したもので、原理は魔力を意図的に暴走させその魔力を圧縮して放つというもの。威力も速度も申し分なかったが、大きな欠点があった。」


ヴェインにCWAを向けながら、アルスは魔法の解説をした。


(そこまでは知っている……。問題はその欠点だ! 暴走した魔力を制御するなんて離れ業ができるのが前提になる! たとえ術式が発動したとしても暴走した魔力は常に乱れているのと同じだ! それを完璧に制御し続けるなんてありえねぇ! 途中で乱れたら狙った方向に撃つなんてもんは当然できねぇし発動寸前に暴発なんてことも十分ありえる。)


そしてヴェインはある可能性に気づいた。


「お前もしかして……! 部分的に魔力を暴走させたのか!?」


「その通りだ」


(とはいえこの術式には色々と不必要なものがあったから少し改造したがな。)


「なるほどな……。お前の魔力操作が化け物だったことは十分わかった……」


(部分的に暴走させることで魔力操作を楽にさせたのか! だが、魔力の意図的かつ部分的な魔力の暴走なんてもん、人類で出来る奴は未だにいねぇし、高クラスの魔物か上位魔族でもできるどうか怪しいぞ!)


この世界には魔族という種族があり、全種族の中で魔力の扱いに長けている。その魔族ですらできるか怪しいことを平然としているアルスにヴェインは少しだけ恐怖を感じる。


「さて魔法の話は終わりだ。そのままくたばれ」


そう言いアルスは引き金を引いた。しかし突然ヴェインの前に光の障壁が現れ、魔法を遮った。


「聖光波!」


その声とともに障壁を貫通して光のレーザーがアルスを襲った。だがアルスは横に飛ぶことでそれを回避した。


(地面の魔力が消えてるな……。恐らくあれは魔法の発動の補佐やその強化を担っていたのか。消えたということはその強化の許容量を超えたか)


ヴェインから放たれた魔法は発動までのロスがほぼノータイムだった。


「俺はまだまだ戦えるぞ!」


するとヴェインの撃たれたはずの片足は光に包まれた。そして先ほどと同様に俺との距離を縮めようとこちらへ向かってきた。


(当然だ。俺は銃でやつは剣だ。あいつには異能のバックアップによる防御もあるから、遠距離からの攻撃はあまり意味をなさない。それに暴走光線レイジ・レーザーにも射程距離がある。だったら……)


ヴェインはCWAに魔力を流しながら移動をしていた。しかしアルスの様子が変わるのを感じて停止し、アルスの出方を見た。


(雰囲気が変わったな……何かするつもりか?)


するとアルスはヴェインに向かい走り出した。


(なんの真似だ? そんなことしたら…)


「俺の得意距離に入っちまうぞ!!」


ヴェインはCWAに込める魔力を増やすとともに自身に光を纏わせた。迎え撃とうと構えたがアルスの様子がおかしかった。


「なんだあれは…?」


ヴェインの目には左右にブレながら近づいてくるように見えた。


「動きが読めっ……!」


「そういうもんだからな!」


気づいた時にはアルスはヴェインの懐に潜り込んでいた。そのままCAWの引き金を引くと暴走光線が彼の腹を貫く。


「まだだ!」


それを受けてもギリギリ持ち堪え、そのまま足に力を入れ大剣を振るった。


しかし


(消えたっ……!)


その大剣はアルスへと届くことはなく、宙を切った。そしてある衝撃が頭に伝わった。


(なにっ!)


アルスは剣を回避しそのまま後ろ回し蹴りによる攻撃を行なっていた。怯んだヴェインに再びCWAを向けると呟いた。


「灰属性魔法 重量操作グラビティ


すると、何かが力強い力で全身を押し潰そうとする感覚が怯んだヴェインを襲い地面へと押さえつけた。


「ま、まさか……!」


耐えることで精一杯の彼のかわりに言葉をアルスが代弁した。


「これも実用段階ではなかった魔法の一つだ。」


アルスはグラビティを維持しながら引き金を引く。

するとグラビティの終了と同時にある魔法がヴェインを貫いた。


暴走光線レイジ・レーザー


ヴェインの頭を見事に貫いたように見えた。だがヴェインから見たことのないほどの魔力が迸りそれを遮っていたのだ。


「っ……!」


危険を感じたアルスは一旦距離を取り様子を伺った。


そこには先ほどまで着ていなかった鎧のようなものを身につけ、先ほどとは違う大剣を握って立っているヴェインがいた。


「まさか……これを俺に使わせるとは、さすが人類最強の魔法師様だ」


片手で大剣を持ちその切っ先をアルスに向けた。それと同時に殺気が放たれた。


「第二ラウンドといこうか?」

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