第12話 元騎士団団長
カグヤと別れた俺はある場所へと向かった。そこに入ると、中央はとても開けており、周りには取り囲むように見学席があった。すでに人はかなりの数集まっており、どうやら開始まであと少しといった具合だった。
「ここは……模擬試合場か?」
そんなことを考えていると奥の扉から一人の人物が姿を現した。とても体つきがよく、金色の髪を乱雑に短く切った、ダンディな男だった。
「あの人って……元騎士団団長のヴェインさん!?」
「まじかよ……」
「確かヴェインさんって、歴代最強の騎士団団長とか言われている人じゃない!」
「そんな人がここの教師だなんて……」
「俺らむしろ運がいい方じゃね? そんな人に見てもらえるなんて!」
周囲からそういった声が次々と上がっていった。
(騎士団か……)
騎士団というのは軍とは別の組織であり、同じく国によって作られたものである。その仕事は軍が国の外や魔物を相手するのに対して、その逆の内容、すなわち国の治安の維持などに貢献している。
軍と大きく違う点は異能者が多数所属しているということ。数が少ない異能者であるが、全員が強力な異能を持っているわけではない。異能があることによって魔法のコンプレックスを抱えた魔法師が基本的に目指す場所している場所でもある。
だからといって、騎士団の戦力は低いわけではなく、むしろ魔法と異能、両方に才能があるにも関わらずここを目指す人たちもいる。なぜなら騎士団は軍とは違い、厳しい訓練や命と隣り合わせの状況に何回も遭遇することがないからだ。
それに騎士団に入れば、適性がある者には特殊な異能を授かることのできる儀式を受けることができる。
そしてこのヴェインという人物はその異能を開花させた人物の一人だ。
「確か、任務で何回か見たことがあるな。」
状況によっては騎士団から軍に派遣される場合がある。派遣される人物のほとんどは軍人と大差ない実力を持っており、決して侮っていい相手ではない。
「俺がお前らのテストをする、ヴェインだ! よろしくな!」
そう言うとヴェインはスクリーンを表示させる。
「今からお前らには、10人構成の8グループに分かれてもらう。分かれたら1グループずつ、俺と模擬戦を行ってもらう。グループはお前たちで適当に決めろ」
そう言うとヴェインは中央であぐらをかいた。
(俺は適当なグループに混ざるか……)
俺が手頃な生徒を探していると目にある人物が映った。
「紅蓮! お前は組む相手決めたのか!」
「いや、まだだ。今から良さそうなやつと組もうと思っている。」
「魔法学校からの仲なんだし、俺たちと組もうぜ!」
「確かにお前たちなら、申し分ないな。いいぜ!」
どうやら西条紅蓮が昔から付き合いがある人物たちと話している。
(ほぉ……主席も同じテストなのか)
次々とグループか作られ、俺は最終的に数が足りなかったグループに入ることになった。
模擬戦の順番はグループ決めが早く終わった順だったため、アルスは一番最後となった。
「よぉーし! やっと決まったか。ではこれから簡単な説明をする。肉体は魔力体に変換する。ただ、本来なら精神的ダメージに変換されるはずのものを全て肉体的ダメージに逆変換させるからな」
「えっ! それって……」
一人の生徒がそう叫んだのを聞くとヴェインがそちらに反応して答えた。
「エグい死に方をするかもしれないが実際には痛みを経験するだけだ。 まあ魔法師を目指すんなら早いうちに慣れておけ!」
そう言うと嬉々として端末で操作を始める。
「最初のグループ以外は見学席で待機だ。ほれ、さっさと準備しろ」
ヴェインは続けて叫んだ。
「あと!!! これはテストだ!! 手を抜いて早く終わらせようとすつなんていたら容赦はしないぞ!!」
そう指示を出すと生徒たちは移動を始めた。
「そんなやついんのかよ」
「ヴェインさん相手に手を抜くとかどんだけ自分に自信があるやつなんだよ」
そういった話し声が聞こえてきた。
(学園長から話を聞いてないのかっ!? ランダムとはいえ俺が受けるテストってことは情報は伝わっているはずだろ!)
俺はこの男に恨みの目を向けながら見学席へと向かった。
最初のグループは昔から付き合いがあった生徒同士らしいので、すんなりと順番が決まったみたいだ。
「では始めるぞ!」
合図を出すと、端正な機械の声によるカウントダウンが始まり一試合目が開始した。
「よし! みんなまずは前衛と後衛にわかれて、魔法の発動時間を稼ぐんだ!」
グループのリーダーである人物がそう指示を出すと、素早く5人ずつにわかれ、後衛はCAWを起動させ魔法発動準備に、前衛は足止めをするためにCAWに魔力を宿しヴェインへと向かった。
「悪くねぇな。魔法学校で少しは訓練したのか? まぁいずれにせよ」
ヴェインは手に持っていた大剣を勢いよく地面に突き刺した。
「無駄だ」
凄まじい魔力が地面へと流れ、ステージ全体が揺れたように見えた。
「ぁぁぁぁぁ!」
「な、なにこれっ……!」
ヴェインに向かってくる生徒全てに強烈な振動波が襲った。それを受けた前衛は声を上げ、次々と地面に膝をつき頭を抑えた。
(地属性魔法師・
魔法を分析していると、全滅したと思った前衛の一人が立ち上がる。リーダーだ。
「振動系ですか……」
「おーあれをまともに受けて立ってられるのか」
どうやらギリギリ耐えることができたようだ。
「他の奴らはぶっ倒れたのにタフだな」
ヴェインがそう話していると、後方から大量の魔法の攻撃がヴェイン目掛けて降り注いできた。ヴェインとリーダーには十分な距離がまだあったため、そのままリーダーは後ろへと後退した。
「助かった……!」
「少しでもあなたたちが準備を稼いでくれたおかげよ」
凄まじい爆風と爆音がこの部屋を包んだ。どうやらどれもかなりの高威力な魔法だろう。
リーダーは後衛の人たちに礼を言い、結果を待った。その攻撃は全て命中していたように見えたので誰もが倒したと思った。しかし
「まだまだ構成の仕方が甘いな。欠陥だらけだぞ。」
大量の煙が収まるとそこには無傷のヴェインが立っていた。その周囲に薄い光のカーテンが出現しておりそれが魔法を全て遮断したようだ。
「なにっ……!」「どうして!」「なんでだよ!」
生徒たちは困惑していた。後衛にいた者が使った魔法は威力特化のものばかりだったため、簡単に防がれるとは思っていなかったはずだ。見学席にいた生徒たちからも驚嘆の声が漏れている。
「あれって聖魔法なのか!?」
「わからねぇよ! 聖魔法なんて使えるやつ周りにいないんだから!」
それを見学席から見ていた俺は疑問に思う。
(例え、欠陥があったとはいえ魔法は正常に反応していた。聖属性魔法の結界を張ったとしても、結界専門者じゃない限り無傷なんてあり得ない。 それにあれは恐らく魔法じゃない)
俺はヴェインという男が秘めている力に驚くとともに少し期待していた。
「おいおい、ちょっと異能を見せたぐらいで騒ぐな。こういう場合はどういう異能か考えるんだぞ。」
するとヴェインは大剣を天高く振り上げ、声を出した。
「グランド・クロス」
その声とともにリーダーである男を中心にして強烈な光が十字へと立ち昇った。
そして光が消える頃にはリーダーと、そして十字の光に飲み込まれた後衛の生徒たちが倒れていた。
「あっちゃあ……やりすぎちった。」
端末を操作すると呼び出しをした。
「すまん、俺だ。保健委員の奴らを呼んでくれ、医務室運んで欲しい奴らがいる。ちょっとやりすぎた。」
少しすると、上級生の生徒たちが、この部屋へと入ってき、医務室へと次々に搬送していった。
全員運び終えた上級生はこの部屋を出る際に小さな声で
「ご愁傷様だ……」
と短く呟いた。
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