第11話 カグヤのテスト

私たちはメールに記載された場所を目指して実技棟へと向かった。実力テストはランダムで分けられており、人によって担当教師が違うため内容が異なる。


私はどうやらカレン学園長直々にテストを受けさせてもらうことになった。


「では、私はここで。」


「またあとでな。」


そう言いアルスさんは自分の目的場所へと向かった。テスト場所の内容は教師によって変わるので五人の教師からランダムで選ばれる。1グループ80人だ。ほして私は実技棟のある場所に向かった。


(ここは仮想戦闘場ですか)


部屋の中は真っ白になっており四方が壁に囲まれた密室空間。そこにはすでにかなりの数の生徒が集まっていて、どうやら私が最後についたらしい。開始を待っていると一人の少女に声をかけられた。


「おーカグヤじゃん! あなたもここだったのね!」


「リーナさん。さっきぶりです。」


どうやらリーナも同じ内容の実力テストみたいだった。


「リンさんは一緒じゃないですか?」


「リンは別のとこだったわ。あなたもアルスと別々みたいね。」


部屋のシステムが対象者のチェックを完了すると、私たちが入ってきた扉の方から一人の女性が入ってきた。


「時間通りに来たわね。じゃあ実力テストを始めさせていただきます。まずこちらの方でランダムに四つのグループに分けさせていただきます。そしてそのグループで魔物討伐を行ってもらいます。」


そう言い、魔物を一体出現させた。


「もちろん、仮想空間ですので怪我をすることはありませんが肉体的ダメージの代わりに精神的ダメージを適用させています。ですので気絶したらそこでテスト終了です。」


その言葉を聞いて不安になった生徒たちはざわつき始めた。


「現状のあなたたちがどれくらい出来るのかを確認するためのテストですので厳しいとは思いますが頑張ってください。ではグループ分けを行います。」


合図とともに空中にスクリーンが出現した。


「おーカグヤと一緒じゃない! 頑張ろうね!」


私は笑顔で返答した。


私たちは4グループ目、つまり最後のグループになる。私たちは見学席へ移動すると早速テストが開始した。

光の粒子が形をゆっくりと集まっていき一体の魔物へと姿をかえた。


「あれは……B級の魔物、尖角小竜ベビードラグホーン……」


尖角竜と呼ばれる魔物の幼体だ。4足歩行で動く魔物であり、特徴的なのは頭に生えた長い角だ。


(魔物との経験がない子がほとんどなのにこの魔物を選ぶなんてあの学園長かなり性格悪いわね。)


大きさは横10メートル、縦5メートルほどの大きさしかないので20人でかかれば一瞬で終わるとほとんどの人が思っている。


「楽勝じゃん?」


「全員で一気に魔法使って終わりだ!」


その号令に従うかのように魔法の構成を始めた。その光景を見たリーナが口を開いた。


「妙ね……魔力の動き方が変だわ。」


「気づきましたか。」


「あれが何か知ってるの?」


「ええ。あと少しでわかると思いますよ。」


魔法の構成を終えたであろうタイミングで一斉に魔法を放った。しかし尖角小龍には傷一つ付いてなかった。


「えっ! どういうこと!」「なんでだよ!」


生徒たちがこの結果を前にした混乱し始めた。そしてリーナは先ほどの魔法が思う存分に発揮されていなかったことに気づいた。


「もしかして魔法の構成準備中の魔力を吸い取った?」


「流石ですね。リーナさん。その通りです。」


「尖角小龍は空気中の魔力を吸い取り、それを蓄えるとことができます。そして吸い取った魔力で外殻を強化したんじゃないかと思います。」


(問題は……)


尖角小龍は生徒たちを見ると大きな声で絶叫した。


「グギャァァァァァ」


「「「「「うっ……」」」」」


それを聞いた生徒たちは動きが鈍くなり、鈍くなったところを蓄えた魔力を消費して火のブレスで焼き払った。


そして炎が消えるころには全員気絶していた。


「厄介ね。あれ。」


「尖角小龍には速度の速い魔法をぶつけるか、一撃で倒すかしないとああいった状況になります。」


(学園長は全員が一気に魔法を放つと予測してこの魔物を選んだのね。)


「次のグループ準備しなさい。」


当然これを見ていた生徒たちはそうすぐには動けず、ゆっくりと準備をし始めた。


1回目以降はほとんど同じだった。毎度毎度選ぶ魔物を変え、予備知識ゼロの状態で魔物と戦わせていた。


「次はあたしたちね。」


「そうですわね。」


(学園長にはアルスと私のことは伝わっているはず。だったらこのグループのテスト、厄介なことになりそうですわ。)


しかしいざCAWを持ち開始場所に移動すると、私とリーナ以外は戦意を喪失しているように見えた。


(まずいわねこの状況……。カグヤはなんともなさそうに見えるけど他の生徒たちはさっきまでのを見て完全に戦意を喪失しているわ)


するとリーナが大声で叫んだ。


「あんたたち! いつまでビビっているの!? もう戦う気がないなら邪魔なだけだし私の後ろで縮こまってなさい! だけどあんたたちは魔法師になりたいんでしょ!? だったらいつまでも腑抜けてないでしゃんとしなさい!」


リーナが激励を飛ばすと、少しではあるが先ほどよりも戦意を取り戻す人が増えた。


(さっきまでと雰囲気が変わりましたわね。)


勇気を取り戻した生徒たちが次々と自信を奮起させていき、それはいつしか全員へと伝わっていった。


「そ、そうよ! 私たちは魔法師よ!」


「そうだな! よし! みんなまずは様子を見てどういう魔物か観察するんだ!」


これを見ていた学園長は不敵な笑みをこぼした。


(素晴らしい…素晴らしいわ!! ここまで一気に成長するなんて!! 絶望的な状況でも活路を全員で見出そうとするその勇気! それにあの子、人の動かし方を知ってるわね)


学園長は端末を操作し、魔物の選択を始めた。


(だけどね…。カグヤさんがいる以上魔物の質は上がげなければテストにならない。ごめんなさいね、これで腐る子がでなかったらいいけど…)


私たちの前に現れた魔物は尖角小龍に小さな羽がはえさらに大きくなった魔物だった。大きさは横50メートルを超え、地に足をつけてる状態でも10メートルの大きさはあるだろう。


尖角竜ドラグホーン!!)


「……やってくれたわね。リーナさん!あれは先ほどの尖角小龍の成体です!!」


尖角竜はA級にランク付けされている危険な魔物だ。


「行くわよ! みんなまずは出方を見るのよ! 尖角小龍の成体ってことは特製はある程度似ているはずよ!」


リーナがそう指示を出すと生徒たちは周りを取り囲み始めた。


「……リーナさん。私が前に出ます。あの魔物は何もしなければ自分で魔力を生成しはじめるのでここでそれを阻止します。合図を出したら皆さんに攻撃の指示を出してください。」


「わかったわ…。どうやらカグヤは魔物との戦闘経験も知識もありそうだし、任せるわ。」


リーナがそう告げると私はCWAを起動させ、ある魔法を発動させた。緑色の魔力が足元に集中し始めた。


「風属性魔法・地をかける風ウィンドムーブ


私の足元に風が集まり、足を覆った。


「まだよ、術式構成開始。無属性魔法・時間差起動タイムラグ。設定魔法・風刃」


(すごい……いつもより魔法が発動しやすいわ)


私は地をけり魔物へと向かった。ウィンドムーブの発動により、普段よりも速い速度で移動することができた。


(あなたは発動前の魔力を喰らう魔物。だったら発動させればいいだけのこと)


魔力を宿したCWAを魔物の脇腹突き刺し、そのまま横へと切り裂いた。


「グギャァ!」


それに反応した魔物は尻尾を振りこちらをなぎ払う。しかしそこにはカグヤの姿がなかった。


「上からならよく見えますわ。あなたがA級と呼ばれている証が。」


ウィンドムーブで風を爆発させ、宙に舞ったカグヤは背中に生えた小さな羽を狙いCWAを振り抜いた。


時間差発動タイムラグ発動オン! 風刃発動!)


いくつもの風の刃が出現し、羽目掛けて飛んでいった。そして二つ生えている羽の一つを潰すことに成功した。そのまま地面へと着地すると少しだけ冷気を感じ、急いで後退すると合図を出した。


「今です!!」


「みんな、今がチャンスよ!」


おぉー!とその場が震え一斉に魔法の発動準備に入った。


「何をしたの?」


リーナは一定距離まで下がった私に問いかけてきた。


「あれがA級とよばれるには二つの理由があります。一つ目はあの強大な肉体。そして二つ目は長所でもあり弱点でもある、あの羽です。」


「あれは周囲の魔法を検知することに特化しているので他の感覚機関よりも脆くそして敏感になっています。ですので羽を破壊すると再生するために一時的に動きがら鈍くなります。それに加えてあまりの痛さに外殻の魔力バランスを乱してしまいますの。」


カグヤは現在魔法で攻撃している生徒に視線を移し続けて話した。


「そうなったら必ずどこかに脆い部分が出てきます。あとはそこを叩けばいいだけのことです。」


「この魔物の厄介なところは羽の異常的な回復速度ですが再生するんですが、すでに生徒たちが周囲で魔法を放てるよう配置したことによってその隙を与えさせなかったんです。」


「すごいわね、カグヤ。知識と技術が組み合わせればここまで完封できるなんて。」


現在、尖角竜は魔法によるリンチを受けていた。再生するにも外殻が脆くなるため、一斉攻撃を受けている今は再生に集中することはできない。かといって反撃に出ようものなら魔力の乱れがさらに大きくなり、弱点を曝け出しまくることになるので動けずにいた。


しかしどうやら致命的な攻撃を与えることはできないみたいだ。


「あなたの援護も助かりましたわ。氷結魔法で動きを鈍くしましたでしょ?」


「気づいてたの? じゃあいいや。」


私とリーナは尖角竜を睨みつけると二人同時にCAWを起動させた。


「タイムラグ・オン! 弾ける風塊バーストウィンド


「設置型氷属性魔法・貫く氷柱アイスピラー


そう告げると同時に尖角竜の真下から出現した氷柱は尖角竜を突き刺し、私が先ほど切った際に設置していた風の塊が爆発をおこした。


それにより尖角竜からは目の輝きが失われ、光の粒子へと還っていった。


「お疲れ様。良いものを見せてもらったわ。」


学園長は私たちを見ると手を叩いて労った。そしてカグヤたちの実力テストは終了したのだった。

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