第10話 30分間
演台の前に立つと紅蓮は高らかに宣言した。
「暖かな春の訪れと共に、私たちは王立第二魔法学園の400名は1年生として入学式を迎えることが出来ました。
正門のところに咲き誇っている桜の花がまるで私達を歓迎しているかのようでした。
本日は、私達のために立派な入学式を行っていただきありがとうございました」
(そういや正門なんてもんがあったのか。研究棟の出口から直接街に出ることができたから見ることがなかっただけか。)
ありきたりな式辞を終えると自分の席へと戻っていった。戻るのを確認した教師らしき人物がマイクの前に立ち話し始めた。
「これより2時間後に予定通り新入生の実力テストを行います。魔法師志願者は実技棟へ、技術志願者の者は技術棟へ準備が出来次第、移動の方をお願いします。なお、CAWを家から郵送した人達については本館横にある建物の中に受け取りセンターがありますのでそちらの方へ向かってください」
入学式後すぐに行われる実力テストの内容を一通り説明し終えた教師は別の教師へと立ち位置を譲った。
「では入学式を終えたいと思います。全校生徒のみなさんはこのまま解散になります」
そう言い放つと周りにいる生徒たちは一斉に動き始めた。アルスたちも人の流れに任せてそのまま体育館を出るのだった。
リーナたちと別れ、アルスたちは研究エリアへと向かっていた。
「かなりの人たちが寮を利用してるんですね」
本来、生徒たちが使う寮は生活棟と呼ばれるエリア内にあり、そこでは日用品を揃えられるよう主張店などもあるらしい。
そして生活棟は広場に出て、研究棟と真逆の道を進んだ方向にあるみたいだ。実際、その方向へとたくさんの生徒が歩みを進めている。
「だろうな。ここは首都だから部屋を借りるとなると出費が嵩むだろうし、家からここまで通うってやつはなかなかいないんじゃないか」
王立学園はかなりの大きさをほこるため、住宅街から離して建てられている。
寮に着くと、アルスは一旦ソファに座り休憩することにした。カグヤは自分のCAWを手にし、発動テストを始めた。
「あっ、そうだ。カグヤそのCAWを渡してくれないか?」
カグヤは不思議そうな顔をした。
「昨日言っただろう? CAWを調整してやるって」
「アルスさん、実力テストまで時間は少ないと思うので無理する必要はないんですよ?」
本来、CAWの調整を行う場合何時間もかけて行うのが一般的だ。
「安心しろ。軽く調整するだけだ。補助デバイスを取り替えるわけじゃないしな」
その言葉を聞きカグヤは刀と鞘をアルスに渡した。早速作業机に向かいパソコンと調整装置を起動し、調整を始めた。
(さて、始めるか。)
アルスは微かに残っていた記憶を頼りに
(やはり、余計な術式が組み込まれているな。だが思ったよりは少ないな)
本来、複数の術式を書き込むことで魔法の精度や発動速度の向上などを可能としている。しかし、それらを一つの術式として組み込む際に、接続部分になるような術式を余計に組み込んでしまうケースがある。
普通の技術者ならそれが本当に必要かどうかを正確に判断できないためそのまま組み込んでいるがアルスや優秀な技術者となるとそれを正確に見極め、不要なものを排除することができる。
30分後、一通り調整が完了したアルスはCAWをカグヤへと返した。
「とりあえず動作を軽くした。これでいつもよりも早い術式が組めるはずだ」
「ありがとうございます。」
少し不安な顔をしていたように感じた。
「そんな不安そうな顔をするな。」
「い、いえ! そういうわけじゃないんですよ! たった30分で何ができるのだろうと思いまして……」
(もっともな疑問だな)
アルスは人差し指を自分の顔に立てた。
「企業秘密だ」
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