第9話 動き出した歯車

翌日、いつも通り目が覚めたアルスは特にやることもなかったので、コーヒーを入れソファに腰掛けながらテレビのニュースをぼんやりと見ていた。


「はぁ……軍にいた時の癖で早く起きてしまったがやることがないと暇だな」


「続いてのニュースです。昨日、国際テロ組織である《ノアシップ》によるものだと思われる襲撃がアルテマ国の港で発生しました。今回で3度目となる襲撃は前回のものよりも悪質になっており、物資を奪われたとのこと。国民の皆さんは……」


これ以外にも色んなニュースが放送されたが、これが一番印象に残っていた。


「朝から物騒なニュースだな」


すると、後ろの方で物音がしたので振り返るとカグヤがベットから降りていた。


「…っ…おはようございますっ…」


「おはよう。起こしてしまったか」


「いえ、いつもこれぐらいです。アルスさんは朝早いんですね。」


「まあな。なかなか癖が抜けなくてな。」


時計を見るとその針は6時30分を刻んでいた。カグヤは顔を洗ってくると言い残し、その場を去って行った。


俺が日課の一つである魔力操作の鍛錬をしていると、一つのニュースが目に止まった。


「義賊だと?」


このご時世では珍しい内容だった。義賊と呼ばれている連中は裏で犯罪を起こしている有力者たちの証拠を掴み、悪事を晒すとともにそいつらから奪った金品を孤児院などに寄付しているらしい。このことから国民からの評価は良いが、中には批判している者も少なからずいる。


(当然だな。私刑は法で禁止されている)


現在、騎士団と呼ばれる治安部隊が捜査を行なっているが足が全く掴めないらしい。


「あら、興味あるんですか?」


気づかないうちに戻ってきたカグヤは朝ご飯の用意をしながらそう口にした。


「なかなか珍しいやつもいるなと思ってな。」


そして俺たちは朝ご飯を食べ終え、制服に着替えると寮を出た。


寮から出て、左の方向へ道なりに進むと大きな建物が見えてくる。


「あれが王立第二魔法学園か」


かなりの大きさをほこっており、校舎と思われるものの周囲はさまざまな建物が建てられていた。


「技術者志願の方もこちらへ通うので、別館が建てられたみたいですよ。」


「なるほどね。」


しばらく歩くとアルスたちは広場にでた。中心には噴水があり、その周りには花壇やベンチなどが見えた。

しかし、さらに歩みを進めるととんでもない人だかりだった。

この学校の制服は男女主に上も下も白色がメインになっているので今の広場はその白で埋め尽くされていた。


「新入生、かなり多いな。」


「仕方がないです。首都に建てられている以上、必然的にそうなってしまいます。」


王立魔法学校は地方に一つ、首都に二つの合計三つしかない。王立は元首と国の援助を受けられているため、ほかの国立よりも授業の質が全く違うのだ。ゆえに、王立魔法学校を目指す者も多く、凄まじい量になる。


だからといって国立や私立などには未来がないというわけではない。優秀な者であればどこを卒業していてもそれに見合った結果を出せる。


「確か、入学式は体育館で行われるはずだ。」


俺たちは広場にあるマップを一度確認し、体育館へとむかった。


体育館へと入ると大量の椅子が並べられており、壇上には演台が配置されていた。


「確か俺らの席は……」


辺りを見回して、メールで配布された生徒番号と同じ番号をみつけた。そこへ腰かけると、空いていた横の席にある人物が座った。


「「あっ」」


そこには前日ショッピングモールで会ったばかりの赤いサイドテールの女の子だった。


「あんたは! この前の!」


俺を見るや否や仇を見つけたと言わんばかりに話しかけた。


「人に指を向けながら話すな。親しき中にも礼儀あり、だろ?」


「別に親しいわけじゃないでしょ!」


「リンさん、昨日ぶりですね。」


「昨日ぶりですね。アルスさん。」


俺はリーナの横にいる人に話しかけた。


「アルスさんもここの新入生だったんですね。」


「はい。一緒になるとは驚きですよ。」


「ちょっ! なんでリンには優しいのよ!」


「別に変わらんだろ。」


するとリーナは俺の横にいる人物に注目した。


「あ、昨日アルスと一緒にいた人じゃない」


「自己紹介が遅れましたね。夜姫カグヤと申します」


「よろしくね、カグヤ。私のことはリーナでいいからこっちはリンよ。」


「もしかしてあんたの恋人なの?」


リーナはアルスのことをどうやら疑っているようだ。


「違うぞ。そうだな……親戚みたいな関係だ。」


「えっ全然あんたと似てないじゃない。」


「だから親戚と言っただろう」


リーナはアルスとカグヤの顔を何回も交互に見直していた。


しばらくして無理やり自分で納得すると、思い出したかのようにこちらを向いた。


「そういや、入学試験のテストどうだった?」


アルスとカグヤにとって一番答えにくい問いを投げてきた。


(総帥が捏造した結果では確か俺は……)


少し目を瞑り考えるフリをしてから口を開く。


「筆記は自信あるぞ。実技に関してはまあ平均ぐらいだ」


「私は両方とも自信あります」


カグヤは俺の発言の後にそう答えた。


「へぇー意外ね。カグヤはともかく、あんたが実技苦手って」


「体術は実技の審査対象ではないからな。」


そうこう話していると1人の女性が壇上に姿を現した。

濃い桃色の髪をしており、髪の毛は腰のあたりまで伸びていた。そして美女という言葉がしっかりくるような容姿をしていた。


「静粛に」


その一声で今までざわついていた体育館は一瞬で静寂に包まれた。


(恐らくこの女がここの学園長のカレン・バレンシアだな。)


「まずは新入生諸君おめでとう。ここに入学できたことを誇りに思うといい。そしてこれからはここの生徒であるという自覚を持って生活するように。」


「そして、魔法師の卵である君たちがどこまで成長するか、楽しみにしている。以上だ。」


発言を終えると割れんばかりの拍手がこの空間を支配した。


「あれが空間の魔女カレンかー。やっぱ雰囲気っていうか威厳があってすごいよな!」


「だなだな!俺もあんな風になれるかなぁ」


周りからそういった内容の話し声が聞こえた。


「凄まじい人気だな。」


「そりゃそうよ。あの人が挙げた戦果は凄いものばかりよ。有名なやつで言うなら、数万の魔物の軍勢を一人で足止めしたってやつね。」


(俺も彼女が所属していた時の話は聞いたことがある。)


「だけど最近になって出てきた、特級魔法師と比べると大したことないって思うって人も多いかもね。何せ一人でSS級の魔物を討伐したって話は魔法師なら知らない人はいないはずよ。はぁ〜、一体どんな人かしら?」


魔物には「級クラス」というものが設定されており、 C,B,A,S,SSという順になっている。平均な魔法師を基準にして考えるとC級は一人でも対応可能だがB級になると複数人で対処しなければならない。


A級までいくと、部隊を組むことでやっと討伐することができる。S級になると平均な魔法師が何人集まろうが対処不可能だ。才能のある魔法師が相手しなければ対処できない。



SS級は別名「災厄級」とも呼ばれ、他国や必要ならば他種族と手を組んだりして、総力を挙げて対処しなければならないほどの危険さを示している。過去に観測されたのは悪神竜を含め2回までだ。


ゆえにSS級を単独で討伐したとされる魔法師は全魔法師の憧れといっても過言ではないほど人気がある。


「もしかしたら老師みたいな人かもしれないぞ?」 


老師というのは現時点で人類最強の魔法師の一人と目された人のことである。アルスの登場でその存在感は薄れかけたが、この老師という人物は過去にSS級を撃退した部隊の隊長を務めていた。


「馬鹿ね。最近有名になったってことは若い人に決まってるじゃない。もし長く魔法師をしていたらどこかでボロが出ていたはずよ。それにその正体は誰も知らないってなると、正体が老師みたいな人かベテランの人って線はなくなるに決まってるじゃない。」


(こいつっ…! なんて考察力をしてるんだ!?)


16歳とは思えない考察力を見せる彼女に恐怖を感じた。するとリンから笑い声が聞こえてきた。


「ふふっ、リーナのお母様は現役時代に戦術に関してなら誰も及ばないって言われていたほどの指揮官なの。」


なるほどと俺は納得した。


アルスたちがしばらく話していると一人の男子生徒が壇上へと登っていった。その姿は兄のジークのように茶色の髪の毛をした好青年に見えたが纏う雰囲気は全くの別物だった。


ただ一つ分かるのは学生の中でもかなりの使い手であるということ。


「あいつは何者なんだ?」


アルスの独り言にも近い呟きにリーナが反応する。


「あれが一年生主席の西条紅蓮《さいじょうぐれん》よ」

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