第8話 波乱の予感

心が落ち着くようなクラシック音楽が流れており床や壁、机と椅子まで木でできているという一風変わったカフェだ。


このシャンデリアという店は木が持つ独特の匂いを楽しみながら、コーヒーを飲むというのを売りにしているらしい。


「きたわね。って何よそれ」


そう言いリーナ俺の持っている紙袋を指さした。


「もともと、ハンバーガーを食べるつもりだったんだが、あんなことがあったからな。急遽テイクアウトにしたってとこだ」 


「うっ……悪かったわよ。あいつらがあまりにもしつこかったから」


俺とカグヤはとりあえずリンとリーナに向かい合うように席についた。


「で、話ってなんだ?」


リーナは持っていたカップを下ろし俺を真正面から見つめて口を開いた。


「まずを礼を。あの時は助かったわ。あと少しで私も本気で魔法を使うところだったわ。それでね、単刀直入に聞くわ。なんで二発目の雷電を防がなかったの?」


(なるほど…そっちの方か)


一度目の雷電は防いだにも関わらず、二発目の雷電はスルーしたのか、これに疑問を抱いたのだろう。


「あのままだと魔法反射リフレクトは貫通されていたからだ」


「はぁっ!? そんなわけないでしょ! リンの魔法反射リフレクトは完璧だったじゃない! どうしてそうなるのよ!」


「あれはあの時の男の魔力操作が鈍ってたからだ。そもそも雷電という魔法は一点突破型に重きを置いた魔法だ。反射系と相性が悪いんだ」


リンはその様子を黙って見守っている。


「なるほどね……。でもよくあなたはわかったわね?」


「魔法の知識だけは自信があってな」


「へぇー、やっぱり灰色の魔力の人って賢い人が多いのね。あ、そういえばあなたたち私たちと同じ歳に見えるけど学生なの?」


どうやら、あの時に魔力の色を見られたらしい。魔力の色を魔法の使用無しの状態で見抜くのは才能がないと不可能だ。


(色を見ることができるのか)


リーナは魔法の話を切り上げ、別の話題を提供する。


「一応な」


「何よ、その答え方……」


リンはその様子を黙って見守っている。


「カグヤ行くぞ」


そう言い俺は荷物を持って立ち上がる。


「ちょっ、ちょっと! もう帰るの!?」


「すまない。俺らは時間の関係上これ以上長居するのはできない。あとこれはお前らにやる」



紙袋を机に置くと「ここは俺が払っておくから」と言い残してアルスとカグヤは店を出て行った。


「なんなのよ、あいつ」


彼女の虚しい声だけが響いた。


――


俺とカグヤはシャンデリアを出てそのまま帰路に着いていた。


「あれでよかったんですか?」


「ああ。あの場所はただの尋問場だ。特にリンって女は厄介だ。俺の使った無属性魔法を知っているかもしれない」


(灰色でも無色は変換なしである程度使える属性だからな)


「ディスペルジャミングですか……」


あれは無属性魔法に属する魔法だ。難易度はニヴルヘイムよりも1つ下の上級クラスの対抗魔法だ。


術式を組み立てるのに時間がかかりそこから相手の術式を読み取る必要があるので、効果を発揮するのに時間がかかるというデメリットもある。


だが、ほとんどの魔法に効果があるため強力であることに変わりない。そのため使用する魔法師は少なく、広く認知されているような魔法ではない。


「そうだ。あの魔法は一応全色の魔力で行使可能だ。だとしたら俺が灰色の魔法師にも関わらず無属性の上級魔法を行使できると思われてるかもしれない」


灰色の魔法師が灰色以外の上級魔法をCAW無しで行使できるだなんて普通は思わない。


「だから」とアルスは続けて話し始めた。


「これ以上詮索させないためにも身をひいたが、余計怪しまれたかもしれないな」


(もしかしたらリンには灰色魔法師であることにも関わらず上級魔法を行使出来ることがバレたか? いや、まだ確たる証拠はないはずだから結論は出せてないだろう。あれは軍になってようやく知ることができる魔法だ)


いろいろ考えてたがもう会うことはないだろうと思ったアルスは考えるのをやめた。


そうこうしているうちに寮へとついた。ちょうどその頃には夕方になっていて空がオレンジに染まっていた。


カグヤは部屋に入ると荷物を適当にまとめておきキッチンで夜ご飯の準備を始めた。どうやら今日の晩ご飯はシチューみたいだ。俺が席に着くと、料理が運ばれてきた。


「明日はいよいよ入学式だな」


アルスはカグヤが作ったシチューを口にしながら話していた。


「クラス分けについては安心してください。私たちは学校での3年間、同じクラスになるよう手を回してくれたみたいです」


「確か校長が総帥の知り合いなんだろう?」


「はい。ですので何か困ったことがあれば校長に相談しろとのことです。あと、アルスさんについての情報はある程度渡したみたいですよ。」


「なら、問題ないか。」


料理を食べ終え、カグヤは皿を持ってキッチンに向かい洗い物を始めた。


「なぁカグヤ、別にいちいち料理を作ったり洗わなくてもメイドロボットに頼めばいいじゃないか?」


するとカグヤは不機嫌そうな顔で


「私の料理嫌なんですか?」


と怒り気味で言っていた。


「いや、手間がかかるし、面倒だろ?」


「そんなことないですよ。気にしないでください、私が好きでやってるので。」


アルスはその言葉を聞いて納得すると、机に向かいある作業を始めた。洗い物を終えたカグヤがその様子に気づくと不思議そうな顔をして、覗き込んできた。


「それがアルスさんのCAWですか?」


「ああ」とアルスは短く返答した。


そこには黒色の銃型CAWと白色の銃型CAWがあった。


「一応学校にはこれを持っていくつもりだ」


そういうと白色の方のCAWを手に取った。


「これは発動速度に特化してカスタマイズしてある。あとは補助デバイスを数種類持ってけばなんとかなると思うしな。」


「そちらのもう片方のCAWは使わないんですか?」


そう言うと黒の銃を指さした。


「こっちは使う予定はない」


(と言うよりか、なるべくこっちの方は使いたくないし、これを使わなければならない状況にもなって欲しくない)


「カグヤ、先に風呂入ってきたらどうだ?俺はまだ時間がかかりそうだし、いつ終わるかわからない」


「わかりました。」


そう言うとカグヤは部屋を出て行った。


そこから時間がしばらく経ちアルスの手が止まった。

(はぁ……一通り術式パターンを書き込んだが、これで十分だろう)


アルスが調整の終わったCAWをケースに入れていると端末から呼び出し音が鳴り響く。


「やつからか……」


端末の呼び出し名前を確認し、ケースを机の上に置くと、その呼び出しに応じる。


「アルス様、夜分遅くに失礼いたします」


「構わん。俺が頼んだことだしな」


俺は軍に所属していた際に、特級魔法師の特権を使って俺専用の部隊が作られた。なぜ認められたかというと本来であれば大部隊を編成しなければならない任務でも俺の部隊なら遂行できる。


「それで、お前がわざわざ電話をしてくれたということは何かあるんだな?」


「はい。頼まれていたものを調べ終えました」


部隊の隊員は俺含めて全部で4人。4人の隊員は全て俺が一人ずつスカウトした。そしてその中に一人である工作員に俺が軍を離れる少し前にある頼み事をしてあったのだ。


「アルス様が提示した条件に当てはまる人物は魔族には存在しませんでした」


「そうか……。流石だな、たった数週間で魔族の国を調べ上げるとはな。だったら次は亜人連合の方を頼めるか」


「お安い御用ですアルス様。ただ亜人連合の領土は魔族の国よりも何倍も広いので少し時間をいただけませんか?」


「ふはは、時間さえあればできるってことか」


(流石だな本当に。亜人連合は人間の暮らす領土と同じくらい大きい。だからこそ一人の人物を少ない情報から調べ上げるのは困難を極める)


「ではアルス様、しばらくの間お待ち下さい」


「頼んだぞ」


そう言い電話を切った。するとドアの方から寝巻きに着替えたカグヤが姿を見せた。その姿は風呂上がりの蒸気を纏い、かなり魅力的に感じる。


「すみませんアルスさん……。盗み聞きをするつもりではなかったのですが。先ほどからどなたとお話ししていたのですか?」


「ああ、ちょっと同期とな。気にしなくていいさ。俺も風呂に入るとするよ」


(悪いがまだお前には話すことができない)


アルスは笑顔を作りそう話すと、風呂場へと向かった。




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