第7話 ショッピングモール

翌日、俺たちはある物を探すために街に出ることになった。通販で済ませようとしたがそれでは勿体無いとカグヤが言うので素直に従うことにした。


街は昼前ということもあり、かなりの人で賑わっていた。首都には任務上、長く居座ることがなかったため、俺には全てが新鮮に感じられる。


至るところに大きな建物が立っており、あまり慣れていない俺は道に迷いそうになるが、カグヤのおかげでようやく目的の場所に辿り着いた。


「ここが噂に聞くショッピングモールというところか」


写真で何度かみたことはあるが実際に見るのは今日が初めてだ。入り口から入ると目の前には大量の人が通路を行き来していた。そして周りには立体的に映し出された広告の映像が流れている。


「私は何度かここに来たことがありますので案内させてもらいますね」


しかし俺たちの持っている端末には目的の物までの道のりをナビしてくれるアプリが入っているのでその必要性はないはずだ。


「別にそんなことしなくてもアプリのナビに従えばいいじゃないか?」


「いえ、が案内しますね。」


なぜかカグヤは譲ろうとしないので俺は諦めた。そこまでしたいならカグヤの好きなようにさせるべきだと判断したのだ。


エスカレーターに乗って二階へと移動する。周りを見回した感じどうやらここは服などを売るフロアのようだ。


「今ここにある店は全てバラバラの店からの主張店なんですよ?」


「そうなのか? それは知らなかったな」


そう言うとカグヤは嬉しそうに説明を始めた。


「ここの経営者は人が集まるような土地を購入してこういった建物を建てます。そしてこの建物の場所を貸し出すという経営をすることによって儲けをだしてるんです」


確かに効率的だな。仮に専門店がこぞって場所を借りたとしよう。するとここのいる人は他の目的のついでで顔を覗かせるかもしれない。そうすれば本店なら顔を出しづらい雰囲気でもここなら気軽に見ることができるというメリットもある。


「経営って意外と面白いんだな。」


フフッとカグヤは笑うと俺の手を引き歩き始めた。


「目的の物があるのは3階にあります。行きましょう!」


カグヤに連れられエスカレーターで上階へと上がっていった。


俺たちはCAWの補助デバイスが売っている場所を見つけそこで足を止めた。ここが俺たちの目的である場所だ。CAWには基盤となる術式を書き込むのだが、そこにもう一工夫加えたい時に出てくるのが補助デバイスのだ。


これは術式をどう起動させたいのかという元の情報に新しく別の情報をインストールさせた補助デバイスを装着させることでCAWとは別で起動することができる。つまりCAWを単純に強化することができるのだ。


とはいっても、補助デバイスをつけた場合それだけで容量を食われるため、調整だけで済ます人が多い。補助デバイスがあるからといって使ったない人よりも強くなるなんてことはない。


補助デバイスというのは基本的に自分の弱点を補うために使うのがほとんどだ。無論、俺もそうしている。




「やはり専門店だけあって、色んな物が置いてるな」


補助デバイスには着脱可能なタイプとCAWに直接組み込む2パターンがある。基本的には着脱の方で自分に合うものを見つけて、それと同じのを組み込み式でカスタマイズするっていうのがセオリーだ。


なぜなら直接組み込んだ方が情報を共有させやすいからである。


「アルスさんはどういったものを探してるんですか?」


「俺のCAWはちょっと特殊でな。着脱式じゃないと本来の効果を発揮できないんだ」


俺は目的の物があるか一通り見てみたがやはりなかった。念のため他の店もまわってみたが結果は同じだった。


「はぁ〜やっぱ軍を通さないとダメっぽいかぁ……」


「でしたら、私のCAWに合うような補助デバイスを見繕ってくれませんか?」


「いいのか!?」


(そこまで食いつくんですね)


「ええ」


あまりの食いつきにカグヤは驚いたが少し嬉しかった。


「カグヤのCAWってどんなやつなんだ?」


「私のCAWは刀ですね。補助デバイスは部隊の技術者に任せていました。恐らくですが、術式の組みやすさから察するに補助型だと思いますわ」


「補助型か。誰にでも合うしシンプルだな。だが、あれは初心者用だ。確かに自分に完璧に合うよう調整してもらったらその恩恵は大きいと思うが、それなら速度型や威力型にして、自分の術式の構成速度を訓練した方が断然強力だと思うがな」


「へ、へぇそうなんですね。」


(しまった! 研究者魂に火をつけちゃったかしら?)


「だったらこれとこれ、これも良いかもしれないな」と言って物色してレジへと持っていた。


「私のCAWの補助デバイスなんだし私がお金払いますよ?」


するとアルスは電子通帳の残高情報をカグヤに共有した。


(なにこれっ……偽造データとかじゃないでしょうね)


そうカグヤは思い、もう一度目を擦って見直したがそこには先ほどと変わらず凄まじい数字の羅列があった。


「金は腐るほどあるから心配するな」


(もはやこれ国家予算並みじゃない…)


アルスは小さい頃から軍に所属していた。給料もちゃんと受け取っている。歳を重ねるに連れて凄まじい成長を見せるアルスはどんどんと高難易度な任務への参加も認められ、そこで十分な戦果を何度も挙げている。


しまいには悪神竜の討伐だ。当然その報償金は凄まじい額になっている。結果、普段からお金を使わないアルスの残高はとんでもないことになっていたのだ。


「とはいえ、無闇に奢るつもりはない。これは実験費用として出しただけだ」


会計が終わるとアルスはそのまま店を出て、カグヤの案内のもと今度は別の店へと共に向かったのだった。


――

「うーん、たくさん回りましたね。」


時間で言えばちょうど昼頃、2人は4階のフードコートで休憩を取っていた。


「俺はともかく、お前はお金大丈夫なのか?」


「失礼ですね。あなたほどではないですが結構もらってるんですよ?」


「そ、そうなのか。」


アルスはカグヤの横にある大量の袋を見て(任務ではこんなに沢山の服が必要なのか?)という疑問を抱いた。


「私はあちらの方でハンバーガーを買ってきますけどアルスさんはどうしますか?」


「そうだな、俺は特に食べたいものはないから適当に買ってきてくれないか?」


アルスは自分の端末を操作し、適当にお金をカグヤの端末に移した。


「ちょっ! いくらなんでも多すぎです! こんなに使いませんよ!」


「そ、そうなのか…?」


アルスはまるで訳が分からないという顔をしていた。


(これは重度の金銭麻痺ですね。早いとこなんとかしないと)


そう思いつつ、カグヤは長蛇の列に並びに行った。


(さて、時間かかりそうだし、どうやって時間を潰そうかな)


アルスがそう考えていると近くの方で小さな人だかりができているのを見つけた。


(暇だし、見に行くか)と思い、端末を操作して自分のクローン人形を出現させ、人だかりの方へと見物しに行った。


そこには薄い赤色の髪をしたサイドテールの少女と青年が言い争いをしているのを見つけた。


(何があったんだ)


アルスは意識を集中し、言い争いの方へと聴力を集中させた。


「えーいいじゃん、俺らとちょっとだけ遊ぼうよ」


「ちょっとだけだって!」


「カラオケとかどうよ!」


(男性が3…女性が2ってところか)


「しつこいわね! あんたたちと遊ぶ気なんてある訳ないでしょ! さっさと向こうに行きなさいよ!」


すると先ほどまでサイドテールの少女に話しかけていたがもう片方の少女へとターゲットを変えた。


「ちぇっ、じゃあじゃあショートカットの君。君はどうかな?」


「リーナ様が良ければ構いませんが、リーナ様が嫌がるなら断固として拒否させていただきます。」


「おいおい、またこれじゃあ振り出しじゃん? ねぇねぇリーナちゃん頼むよ」


するとリーナと呼ばれた少女はついに怒ったのか不快感をあらわにした。


「お前みたいなクズが私の名前を気安く呼ぶな」


この言葉に流石に我慢できなかったのか男性のリーダー格である金髪の男の少女を見る目が変わった。


「俺ってさ、実は結構良いとこの坊ちゃんなんだよね? それに加えて格闘技もそこそこできて魔法も扱えるんだよ? あまり自分じゃ言いたくないんだけどそんなハイスペックな俺をクズ呼ばわりって……舐めてんのか?」


(最初はお金で釣ろうとしていたが、全く靡かず今に至るってわけか。単純だな)


アルスがなぜこうなったのか考察していると一触即発のムードになり険悪な雰囲気がその周囲を覆った。 


(厄介なことになりそうだな)


するとリーナと呼ばれた少女が席を立った。


「リン? ここは蛆虫が這い寄ってきて不快だわ? 別の場所に移動しましょう?」


するとリーダー格の男から魔力が迸り、つけているピアスが発光するのが見えた。


(ピアス型のCAWか……仕方がない。)


「くたばれクソアマが」


魔法を発動させようと手をかざしたときだった。


(分析術式スタート。術式名雷電らいでん。構造術式分析完了。対抗術式詠唱…完了。ディスペルスタート。完了。)


「対抗魔法・分析妨害ディスペル・ジャミング


アルスがそう呟くとリーダー格の男の魔法式が消し飛ばされた。


「なっ…!?」「えっ…!?」


2人から驚愕の声が上がった。


「許可が下りていない場所での魔法の行使によって意図的に相手を傷つけた場合、法で裁かれることになるぞ?」


俺は人混みをかき分けてその間に割って入る。


「この罪は少し重いからな。親の力を持ってしてもこれをもみ消しにするのは相当苦労するはずだ。目撃者もこんなにいるからな」


「その点、魔法反射リフレクトだけで様子を見てた君は素晴らしい判断だ」


(しかし、今回は相性が悪かったな)


俺はそう言いリーナと呼ばれた少女のそばにいる人物に話しかける。


「バレていましたか」


「まあな」


(あの状況で未だに防御の気配すら見せなかったら他の可能性を疑うだろう。)


「おい、てめぇ邪魔すんじゃねえよ」


恥をかかされたリーダーの男がファイティングポーズをとりそのまたジャブを繰り出してきた。

しかし


(遅いな)


アルスは繰り出されるパンチを全て払い落としていていた。すると男は俺の顔に狙いを定めて蹴りを繰り出してくるが当然、俺に当たるわけがなく空を切った。


「おまえらっ! 時間を稼げ!」


どうやらこのままでは勝てないと判断したリーダーは後ろへと下がると声を出した。


2人の男たちがリーダーの男にどやされ俺に攻撃をしてくるが、こちらはリーダーの男よりも酷かった。


まず、向かってくる拳を半身ずらすことで回避しそのまま足を引っ掛けて転倒させた。


その隙にもう1人の男が殴りかかってきたが首を少し傾けることで拳を避けてそのまま腕を掴み、投げ飛ばした。


「本命はこっちだよ!!」


リーダーの男は他の2人が俺の相手をしている隙に準備を再度魔法の準備を完了させていた。


(馬鹿が)


放たれた魔法はアルスを貫く前に何かに阻まれて放たれた雷撃は撃った本人へと戻っていく。


「うわぁぁぁ!!」


リーダー格の男は自分の魔法をもろに受けてしまいそのまた気絶した。


「そこの2人、今すぐこいつを病院に連れて行ったほうがこいつのためにもなるしお前たちのためになるぞ?」


「は、はいっ!!」


そう睨みを効かせると2人は男を背負ってこの場を離れて行った。


(ハァ……やってしまった。極力無視しようと思ったが法に反することは軍人として阻止せねばならないしな)


アルスが反省していると先ほどの少女らが話しかけてきた。


「さっきはありがとうね。私リーナっていうの」


「リーナ様がお世話になりました。リンと申します。」


「いや、別に構わないんだ。それよりも一旦ここを離れないか? かなり人が集まってきてる。」


「わかったわ。とりあえず5階にあるシャンデリアってカフェの店に来てくれない?話が聞きたいの」


話?と思ったがとりあえず待ち合わせ場所を指定し、彼女らと別れた。しばらくして戻ってきたカグヤに俺は事情を説明し、シャンデリアに向かうことにした。


席を離れる前にカグヤがこちらをジト目で睨みつけ


「アルス?大人しく過ごしたいなら次からはもっとスマートにしてください。」


と少しだけ注意された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る