第6話 パートナー

俺は改めてジェイルに問い詰めた。


「パートナーの件は百歩譲って良いとしましょう。だが、なぜ女なんですか? それにカグヤさんは古の王族の一人なんですよね?」


するとジェイルは少し引いた様子で


「お前、まさか男が好きなのか?」


「なんでそうなるんだよ!」


「まぁまぁ、落ち着きましょう?」


俺とジェイルの漫才みたいなやり取りをこの少女が止めてくれた。ジェイルはわざとらしく咳払いをすると


「お前のサポートをするってことは同じ学校に通う必要が出てくるんだ。これでパートナーの候補が一気に狭まることになるだろう?」


確かに今年で16歳になる人間を探す必要がでてくる。だが軍人以外でも良くないか?と疑問に思ったが、すぐにそれは払拭された。


「なるほど……そのパートナー候補の中に工作員が紛れ込んでるかもしれないから、この国の軍人であることが推奨される。しかし、その軍人すらも他国と秘密裏に取り引きをしている可能性があるってとこですか…」


「さすがだな、アルス。だが私の直属部隊から人員を派遣した場合その可能性はゼロになると断言できる」


ジェイルの直属部隊の隊員はジェイルに救われた者や忠誠を誓っている者が志願したり、ジェイルに見出された者が厳しいテストを受け合格することで初めて所属することができる。


「だが、それでも確実に安全だと言い切れないんじゃないですか?」


「そこは私が全幅の信頼を寄せているから、お前も信頼してくれ。こう見えても人を見る目にはかなり自信がある」


(確かにジェイルの人を見抜く能力はずば抜けている。過去にテストを受けに来た人間に工作員が混じっていたらしいのだがそれを一発で見抜いたって話も聞いたことがある)


「わ、わかりましたよ…だけどそれだけじゃまだ信頼できないです。彼女について彼女自身から聞きたいんですがよろしいですか?」


「仕方ないな。」


ジェイルはそう言いカグヤの方に視線を向けた。


(そこの娘は私に忠誠を誓っているわけではない。私が見出した人材の一人だ。どちらかといえば妹を助け出してくれたお前に恩義を感じているはずだ)


しかしアルスには知る由もなかった。


「そうだな。信頼の証として、神器じんぎを見せてやってくれないか?」


「神器所有者だったんですか?」


「まあな。俺も最近知ったんだ」


神器とは武具に神霊や精霊の加護が宿ったもののことを指す。独自の性質や能力を発動することができ、その武具の素材さえも特殊な合金のみで構成されている。そして、極め付けは神器が所有者を選ぶということだ。


どれだけその力を欲したとしても神器に認められなければ扱うことは不可能だ。神器が持つ能力や性質といったものは非常に強力なものばかりだ。


それに加えて神器に認められた者は神器限定の空間魔法を扱えるようになり、わざわざ持ち運ぶ必要性がなくなる。


こういったことから魔法師が神器所有者だった場合のメリットがとても大きいので、優遇されることもしばしばある。


しかし扱い方を一歩間違えれば神器に意識を支配されることもあるため、危険視もされている。


過去に一度神器所有者が意識を支配され、望むがままに破壊を繰り返し、莫大な被害をもたらした事例もある。


だからこそ神器所有者の情報は慎重に扱い、無闇に国民を恐怖させないようにしているのだ。


そんな神器の情報をわざわざ開示してくるなんて、まずありえない。仮に非合法な連中に見つかった場合、その貴重性と強大な力から所有者を必ず手にしようとする。そうなれば今まで通り普通の生活を営むなんてことは不可能に近い。


その場合は国の保護下においてそういったことにならないようにしている。だがそれは国の監視があるなかで生活を営むのとほぼ同義でもある。


だからこそよほどのことがない限り、神器の情報を開示しないし、国もさせないようにしている。


中には神器を売りにしている魔法師もいるがそれは極めて稀である。なぜならそういった魔法師は神器無しでも十分強いからである。


「わかりました。それが必要というのなら喜んで見せましょう」


そう言うとカグヤは胸に手を当て意識を集中させた。手を当てた位置から風のようなものが出現し、その風は次第に互いに集まっていき一つの物を形成した。


「鎌…なのか?」


形成された風の鎌を手に取ると、その形がはっきりとと見えるようになった。カグヤが手にしている鎌は死神が持つような大鎌のようなもので禍々しい雰囲気を放っている。


「これが私の神器です。能力は自由自在に風を操作することができます。あとこの神器には物理的に接触不可能なものに対して傷を負わせることができるという性質があるんですが、魔物との戦いで役に立った場面はかなり少ないです。」


「なっ? これで信頼する気になっただろう?」


これはもはや神器を使った脅しにしかすぎない。もしそれでも俺が拒否を続ければパートナーは王族である彼女以外の別の誰かになるかもしれないが、神器の情報を開示してくれような相手以上に信じられるようなやつが今後現れるとは考えにくい。


「はぁ〜了解です。私の負けです。」


カグヤに向き直り手を差し出した。


「これからよろしくな、カグヤ。俺のことはアルスで構わない。」


「わかりましたわ、アルスさん。」


そう言いカグヤと俺は握手を交わした。


「さて、やっと次の話に移れるな」


「次?」


俺はまだ何か面倒なことでもあるのかと身構えた。


―――


俺とカグヤは暗い夜道を2人並んで歩いていた。


「まさか学園の寮についての説明をしだすとか、さすがに予想してなかった……」


「あのお方はこうなることを読んで、元首に事前に話を通してたんじゃないですか?」


俺とカグヤは第二王立魔法学園という学校に入学することが決定した。どうやらジェイルが元首に俺のことを説明すると、その権力を使ってテストを受けずに入学することになった。


恐らく学園の裏口であろう場所から敷地内に入り、もうしばらく歩くとカグヤが足を止め、目の前の建物を見上げた。


「着きました」


「ここがこれから俺らの住む場所か」


研究エリアと呼ばれる場所にあり、学園教授や技術者志願の生徒が研究するために建てられた施設ばかりだ。


その中でも唯一、寮に見えるその建物はどう考えても大人数で住むことが前提ではなく、大きいとはいえなかった。その寮の中は、二階建てになっており、入って奥の部屋に巨大な空間がある。廊下にトイレや風呂、洗面台といったような場所につながるドアがある。


そして奥の部屋の一室がとんでもない広さをしているため2人で済んでも不自由はなさそうだ。


(これはすごいな……)


二階も見てみたのだが、ほとんどの部屋に研究道具を置く場所として使われていたようだ。そのため人が住めるスペースはなかった。


俺たちは奥の一室にある巨大な空間で共に過ごすことになるのだが、一つ問題がある。それはプライベートについてだ。しかしカグヤはそこまで気にしてなかったのでこのままにすることにした。


「寮というよりもシェアハウスだな」


電気をつけ真っ先に映ったのは最新鋭の機械だった。それは魔力の質や異能の研究などに用いられている。


(せめてもの償いとして、研究環境を整えてくれたのか?)


アルスは元々魔法や異能に関する研究を独自に進めていたので素直にありがたいと感じた。


「私は飲み物を入れてきますね」


と言いカグヤはキッチンの方へと向かっていった。


(ソファにテーブル、仕事用の机と椅子に加え、最新鋭の機械ときた。質素とはいえ研究をするには持ってこいの場所だ)


この部屋の隅っこにはベッドが二つずつ少し離して置かれている。


(準備が早いもんだな)


アルスがソファに腰掛けていると、カグヤが紅茶を淹れたものをこちらに運んできたので、礼を言うとティーカップごと受け取りそれを啜る。


「美味いな」


「ふふ、ありがとうございます」


カグヤが対面に座るのを確認すると改めて自己紹介や趣味などといったような互いのことを語り、夜を過ごすのだった。

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